《チャプター1:小鳥の森》①
「よし。まずは私の覚えている内容を整理しましょうか。」
王子との顔合わせはつつがなく終わり、なぜか両親が口から魂でも吐いていそうな顔をしていましたが、まぁ、概ねいい感じだったと思います。ですから、今はとりあえずいつ忘れてしまうかも分からないこの記憶を書く残しておかないといけません。
「とりあえず《小鳥の森》の内容を今日はまとめるとしましょう。」
SLTの始まりの章《チャプター1:小鳥の森》で描かれているのは、ヒロインが教会に聖なる乙女と認定されるまでの過程、メインヒーローたちの大まかな性格・特徴、そしてメインとなるのがそれに敵対する我らが悪役令息カイン殿下の生い立ちです。
「ヒロインの名前は…『ヒナ』で、メインヒーローは5人…。この国の第2王子・お色気担当。ルーシュ、王国騎士団団長の息子、敏腕宰相の一人息子、…」
頭の中にある情報をわかる限りどんどん書いていきます。
「そして、肝心のそのカイン殿下の生い立ちが…」
そう。この冒頭部分。カイン殿下がまだただの敵ということしかわかっていない時点で、幼い頃の彼の目線でゲームが展開されていきます。(だからこそ、私は今日初めて幼い頃のカイン殿下にお会いして昔はあのように肉をぶらさっげていらっしゃったのだと驚いたのです。)
これは、まだプレーヤーたちがあの悲劇を知らないうちに紹介して好感を持たせておこうという制作会社の作戦なのです。一番初めに『何この悪役!可哀想!推せる!』と思わせてからの、その張本人によるバッドエンド祭り。プレーヤーたちの絶望もより大きくなるというわけです。
「…でも、あの生い立ちが、今、私が生きているこの世界にあるというのは…」
どうにも嫌な気分がします。
カイン殿下は、2歳年下のルーシュ殿下と母親が違います。カイン殿下のお母様は正妃で、ルーシュ殿下のお母様は第二王妃。つまり側室です。しかも道端で偶然出会った踊り子です。
ですから誰もが次の皇位はカイン殿下のものだと思われていたんですが、カイン殿下が4歳の時、正妃様が亡くなられ、国王の寵愛はルーシュ殿下のお母様に注がれるようになりました。
カイン殿下は皇宮内で煙たがれるようになり、新たに第二王子を王に推す派閥さえもできてしまい皇位継承権さえも危ぶまれるようになってしまいます。(プレーヤーは知る由もありませんでしたが、ルーシュ殿下は幼い頃から見目が良く、そのころのカイン殿下と比べると、ルーシュ殿下の支持が増えるのもおかしくはなかったのです。)
そして極め付けが、カイン殿下が10歳になった頃。
『父上!母上!お久しぶりです!…ぼ、僕に何か御用でしょうか?』
本当に久しぶりの再会だったようです。カイン殿下は隔離された自室に来た冷たい態度の侍従に、両親が自分を呼んでいると告げられ、息を切らせながら彼らの元に向かいました。
そこで彼らの口から告げられたのは______。
《父王:今日を持って、第一王子カインの皇太子の座を廃し、第二王子ルーシュを皇太子と任命する。》
…最後、彼の視界に映ったのはおおよそ一国の王子のものとは思えない古びた靴と、涙でした。
そこから、彼は闇堕ち、いわゆる悪役令息の道を突き進んでいくのです。
正直、私はこの国王の判断が愚かであったとしか考えられません。皇太子という座はとてつもなく重いのです。次期国王という看板を常に背負って生きていかなければなりません。それをカイン殿下は生まれてから10年間耐え続けた、と思えば8歳まで温室育ちの第二王子にその座を譲れ?もし私がその立場だとしたら…
「信じられない。耐え難い屈辱です。」
ベキっ
あぁ…私としたことが。怒りのあまりペンを折ってしまいましたね。
「最近はなくなってきたと思っていたんですが。」
とにかく、今はあのメイドの本当の飼い主に少々痛い目を見せて差し上げないと気が済みません。私は彼女の弱点を知っていますから。そこを揺さぶってみることにしてみましょう。私は、ゲームの情報が書き詰められたノートの小指ほどの空白を探します。そこに書いておくのです。
【クアール第二王妃:第一王妃を殺害。その際に使用した毒を市外へ流通。】
なぜ、そんな隅っこに書いておくのかって。彼女が私にとってノート一枚を費やすに値しない人間だと判定したからです。今日は一晩中腕を動かしていましたから、疲れてしまったようですね。時計は1の針を指していますし、5歳の子供はそろそろ眠る時間です。




