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鬼畜乙女ゲームの悪役令息の婚約者に転生した話  作者: 焼きそばこっこ


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殿下、吹き矢はいけません


 ぷす。


 間の抜けた音と同時に、目の前の少女が白目を剥いてパタリと倒れました。


「……また、ですか」


 庭園の石畳に崩れ落ちる彼女――フローレンス。

 私が前世でプレイしていたゲームにおいて、「ヒロイン」である少女。


  そして今、当の本人は、床に転がっていて、彼女の首元には一本の針が突き刺さってます。針にはどうやら水魔法の液体性神経毒が仕込まれていたようです。

 

「はぁ……」


 思わずため息が出てしまいます。


 ほんの数分前のことです。

 フローレンスさんは、私の右足を彼女の全体重で踏みつけながら、こう言いました。


「この『人形姫』!!何度言ったらわかるの?!カインは私のものなの!あんたみたいなつまらない女、ふさわしくないのよ!」

 『カイン殿下』、でしょう。

 身分秩序も礼儀も無視した叫び声。

 公爵令嬢であり、彼女がご執心だというカイン・アスファルテ第一王子殿下の婚約者である私に、おおよそ向ける言葉ではないですね。というか、他の貴族にそんなこと言ったらそのピンク髪の頭と、胴体がグッバイアディオスですからね。


 ここは、学園の副生徒会長として彼女をしっかり注意しておかなければいけない、そうおもって口を開けた次の瞬間――

 彼女は泡を吹いて倒れました。


 原因は明白です。


 「…いらっしゃるんでしょう?」


 庭園の花垣の向こう。

 そこから、ひょい、と黒髪の男性が姿を現しました。


「やあ、セレーネ。愛しの婚約者殿。」


 深い闇をそのまま映したような黒髪。燃えるように輝く切れ長の赤い瞳。通った鼻筋。男らしい肉体。

 学園の女子生徒が全員転倒するような最強ビジュアルを持ちながら、文武両道、さらには次期国王という肩書さえ併せ持つ、豪華特典満載の超優良物件、カイン・アスファルテ殿下。


 そして、私の婚約者。

 

「……殿下」


 私は睨むようにして、彼を見上げます。


「水魔法といえど、神経毒はいけません」


「そうかな?」


 殿下は体が引き揚げられた魚のようにピクピク動いているフローレンスさんの方を一瞥たりともすることなく、こちらを覗き込むようにして、不思議そうな顔で言いました。


「彼女、君の足を踏んでいた」


「だからといって、失神させる理由にはなりません」


「私にはなる」


 即答ですか。


 殿下は私のそばに歩み寄り、すとんと私を庭園の芝生に座らせます。殿下にされるがままに靴と靴下を脱ぐと、踏みつけられていた足の部分が赤く腫れていました。


 殿下が眉間に皺を寄せます。

 

「痛かっただろう」


「いえ。別に」


「……君は、すぐにそう言う」


 半分呆れたような、でも愛情のこもった視線を送ってきます。


 …冷静に考えましょう。


 ――――何がどうしてこうなっているんでしょうか。


 私が前世でプレイしていた乙女ゲーム『君とスウィートなライフをトゥギャザー』(通称:SLT)は、ヒロインの豊富なバッドエンドの数々を目玉とするいわゆる鬼畜ゲーです。


 そして、プレイヤー達に素敵なバッドエンドをお届けする悪役令息こそ、このカイン・アスファルテ殿下。


 深い事情を短く言うと、婚約者がいる身ながら、ヒロインに一目惚れし、恋が拗れに拗れまくった結果の、サイコパスです。


 ヒロインがカレーを食べれば王国破滅。ヒロインが男子生徒と喋ると悪魔召喚からの呪殺。ヒロインがいつもと違うヘアアクセサリーをつけてくると、学園ごと爆発。 5000通りのバッドエンドのうち9割5分が彼の犯行なことから、ついたあだ名は「歩くバッドエンド」。


 そして私が転生したのは、そんなカイン殿下に、『ヒロインとの恋路に邪魔になるから』と、ゲーム開始冒頭3分で殺された悲劇の公爵令嬢。


 5歳から結ばれていた婚約関係も虚しく、真実の愛に目覚めたなどとほざくカイン殿下によってなんの罪もなく、叩っ斬られる役。


 つまり、カイン・アスファルテが『悪役令息』であることを示すための小道具。それが私が転生した『セレーネ・パルソン』なのです。


 そんな悪役令息が。


「セレーネ。大丈夫か?」


「……問題ありません」


「そうか…とはならないんだよな。愛しの婚約者殿?私をなめてもらっては困る」


 私の強がりにも気づいて、足を気遣ってくれています。無口頭で癒し魔法を発動して、躊躇いなく私に光をドバドバ当てています。

 癒し魔法は魔力消費量が段違いだと聞いていましたが、殿下の顔色が変わることはありません。


 しばらく経つと、じんわりあった足の痛みが引いています。

「殿下。問題ありません。…ありがとうございます」


「あぁ。」


 殿下は目を細めながら、満足そうに頷き、私の手を取りました。腕を引っ張られたと思ったらひょい、と軽々持ち上げられ、気づけばベンチです。


 そして流れるように、彼の膝の上に座らされます。


「殿下」

 流石にこんな場面を他の生徒に見られてしまったらバカップルと言われてしまいます。


「静かに。少し休もう」

そう言って、私の口に人差し指を当て、殿下はゆっくりと目を閉じました。それからすぐ、呼吸の音が何やら寝息のようになっていきました。

冗談、ですよね?

 

 ――数分後。


「……スゥ…」


 この殿下、本気で寝ていやがります。


 信じられません。こんな場面を誰かに見られたらと思うと、想像しただけで恥ずかしいです。


 ふと、ベンチの後ろにあったガラス窓に自分の顔が映っていることに気づきました。いつも通りの、無表情。

 これだけ心の中では感情が動き回っていると言うのに、この顔には一ミリたりとも反映されてくれません。


「…」

 口角を上げようと、必死で口端に意識を集中させます。けれども、やはり、表情筋はびくとも動きません。

 前世では一般的な感情表現は普通にできていたはずなのですが、今世はどうも感情表現が苦手なようで。


 いつの間にか王国魔術学園では、感情のない人形のような女という意味で『人形姫』と呼ばれるようになりました。

 

…感情が乏しく、生徒たちの心さえも掴み取ることができないようでは、次期皇太子妃としてふさわしくないことは明らかです。

 礼儀がなっていないとしても、人に愛される才能がある、と言う意味では、フローレンス(ヒロイン)さんの方が、殿下の婚約者としてふさわしいのではないでしょうか…。そんな考えさえも私の頭をよぎります。

 

「セレーネ…世界一…可愛い……」


 ふと、殿下の寝言が耳に入りました。

 

「またおかしなことを…」

 

 こんな私を『可愛い』、ですか…変な殿下ですね。


 ゲームのシナリオとは異なり、カイン殿下は、学園入学後も、そしてヒロインと遭遇したときもヒロインに一目惚れしたという情報はありませんでした。

 ヒロインを殺人一歩手前のところまで襲撃していることには変わりないですが、その目的は『フローレンス(ヒロイン)を永遠に自分のものにするため』、ではなく、『(セレーネ)をいじめる女をこの世から消すため』、と目が笑っていない顔で言われてしまいました。


「……私の婚約者は」


 私は小さく呟きました。


「悪役令息、じゃなかったんですか?」

 

 

書いたはいいんですけど、ちょっと自信がない作品で…好感触ならこのまま描き続けていきたいと思います

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