23、別行動
シェイラが昼食に呼ばれて行くと、ニナリアの姿はなかった。アレンは席に着いたままシェイラに声をかけた。
「どうぞ座ってください」
「はい、ご招待ありがとうございます。子爵様」
シェイラは腰かけると、昼食が始まった。アレンが、ニナリアがいない理由を説明する。
「ニナリアとシェイラ嬢は仲が悪いと聞いたので、今まで同席することができず、失礼しました。ニナリアとはしばらく別行動をして、滞在中は私がもてなすことにしました。よろしくお願いします」
アレンは丁寧に話すと、頭を下げた。
(あら、そうなの?)「ええ、お気遣いありがとうございます。あの子が言ったんでしょう? ニナリアは私のことを嫌っていたので、侯爵家にいたときも仲良くできませんでした。本当にわがままな子で、手を焼きましたのよ」
(別行動は、俺が言いだしたのだが、……まあいいか)
しおらしく言うシェイラに、アレンは黙ってそのまま合わせることにした。シェイラと歓談して昼食が終わった。
(シェイラはやはり貴族の娘だな。作法にも会話にも問題はない。王子も言っていたが普通の令嬢だ。王子妃になってもおかしくなかっただろう。侯爵の言いなりで気の毒だとも言っていた)
「子爵様、この後お時間がおありなら、城内を案内していただけませんか?」
「いいだろう」
二人は一旦分かれて食事室を後にした。アレンは歩きながら考えていた。
(シェイラの様子から、俺との結婚を望んでいないのは分かる。首都育ちならこの地方は退屈だろう。話が出るまでは思ったより時間がかかりそうだ。
それに、侯爵の動きはこれだけではないはずだ……)
顎に指をあてて、自分の誤算に悩んだ。
一方のニナリアは、魔獣の森に護衛を一人だけ連れて薬草を取りに行った。午後からは、ジェシーを連れて魔法使いの店に薬草を持って、薬の講義を受けに行った。ニナリアは魔法使いの店に薬草を卸している。ソアはニナリアの持ってきた薬草に喜んだ。
「ニナリア様が持ってくる薬草は、とても効果が高いんですよ!」
ギクッ「そうですか、アハハ」
「さすが、魔獣の森の物ですね」
(良かった。森の効果のおかげで、助かった)
魔法使いは魔力が魔獣を引き寄せるので、魔獣の森には入れないのだ。貴重な薬草を魔法使いの店に卸せば、領民にもいきわたる。
ニナリアはソアから、新しい薬の作り方を学んだ。それが終わると、前から気になっていたことをソアに聞いてみた。
「アレンが、他の人が見えない黒い靄が見えたり、物が光って見える話をしてくれたんですけど、それって幽霊と関係があるんですか?」
ニナリアは幽霊のことは怖いけど、アレンのことなので興味があった。魔法使いなら分かるだろうかと思った。ソアは少し考えた。
「そうですね。靄は瘴気の場合もありますが、幽霊の場合もあると思います」
「ソアも見えますか?」
「私は分からないですね。魔法の光や聖剣のオーラなど、みんなが見えるものが見えるだけです。
幽霊が見える人は、死者の目を使っているんです。憑依した幽霊が見たものを、その人も見ることができるんです。幽霊が見ているので、幽霊が見えるんですよ。でもその場合は生命力が使われて、心身ともに弱ってしまうのでとても危険です」
「そうなんですか⁉ アレンは大丈夫でしょうか?」
ニナリアは、なんとも恐ろしい話だと思った。
「領主様は大丈夫ですよ。聖剣の持ち主ですから、聖なる力を持っているでしょう。それで感じ取っているのだと思います。その見え方は正常なものです」
ニナリアは気になっていたことが分かって安心した。魔法使いの店を出るとジェシーとお茶をして帰った。
アレンはシェイラを連れて、城内の一階と庭を案内していた。その様子を使用人たちが見て、ひそひそと話しをしていた。使用人たちは、シェイラがニナリアに嫌がらせをしていたのは知っている。知らないのは騎士団の者たちぐらいだった。二人は訓練場まで来ていた。
「へ~、領主様、お客様を案内しているんだな。きれいな方だな」
訓練中の騎士たちは、シェイラに見とれていた。それに、二人も気がついていた。シェイラは当然という感じで、悪い気がしなかった。アレンは、騎士たちをたしなめる。
「よそ見をするな」
『はいっ』
騎士たちは慌てて、訓練に戻った。
「案内はここまでです」
「ありがとうございました。よろしければ今度、街も案内してくれませんか?」
シェイラは誘ってみた。
「それは、申し訳ないができない。街の者が誤解すると、シェイラ嬢にもよくない噂が立ちます」
「そうですか。それは残念です」
「供の者を付けますので、観光に行ってみてください」
「はい、ありがとうございます」
二人は、そこで分かれた。
(噂を利用しても良かったのだけど)
シェイラは残念に思ったが、やはりアレンと話していても手ごたえがなかった。自分もここで暮らす想像ができなかった。しばらく過ごしてみて、ここでの暮らしは知り合いもいないし、退屈でしかない。
(ストラルトはニナリアがお似合いね)
ニナリアが城に帰ると部屋で、メグが不満そうにアレンとシェイラの散策の話を聞かせてくれた。ニナリアは気にしなかった。むしろ、予定がはかどったなと思った。夕食は部屋で取ることにした。メグとジェシーに提案してみた。
「二人とも一緒に夕食を取らない?」
「それは、ちょっと」
二人とも、遠慮がちに言った。
「私たちニナリア様付きなので、みんなから羨ましがられているんです。旅行に行ったりとか。これ以上優遇されますとちょっと」
「そうなのね……」
確かに、同じ料理を用意させることになるし。他の使用人を順番に招くのも、遠慮させるだろう。お土産とかはみんなにも買ってきているけど、もっと感謝したいなとニナリアは思った。
「そうだ! 感謝祭はみんなでパーティをしましょう。家族も呼んで。私も手伝う」
これなら同じものを食べられて、日頃の感謝もできる。感謝祭は年末前にあるお祭りで、1年の労をねぎらうものだ。
「いいですね!」
「やりましょう」
二人も賛同してくれた。
(セルマンに予算を組んでもらって準備しよう)
楽しい予定ができて、ニナリアは楽しく夕食を取ることができた。




