表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い  作者: 雲乃琳雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/40

23、別行動

 シェイラが昼食に呼ばれて行くと、ニナリアの姿はなかった。アレンは席に着いたままシェイラに声をかけた。


「どうぞ座ってください」

「はい、ご招待ありがとうございます。子爵様」


 シェイラは腰かけると、昼食が始まった。アレンが、ニナリアがいない理由を説明する。


「ニナリアとシェイラ嬢は仲が悪いと聞いたので、今まで同席することができず、失礼しました。ニナリアとはしばらく別行動をして、滞在中は私がもてなすことにしました。よろしくお願いします」


 アレンは丁寧に話すと、頭を下げた。


(あら、そうなの?)「ええ、お気遣いありがとうございます。あの子が言ったんでしょう? ニナリアは私のことを嫌っていたので、侯爵家にいたときも仲良くできませんでした。本当にわがままな子で、手を焼きましたのよ」

(別行動は、俺が言いだしたのだが、……まあいいか)


 しおらしく言うシェイラに、アレンは黙ってそのまま合わせることにした。シェイラと歓談して昼食が終わった。


(シェイラはやはり貴族の娘だな。作法にも会話にも問題はない。王子も言っていたが普通の令嬢だ。王子妃になってもおかしくなかっただろう。侯爵の言いなりで気の毒だとも言っていた)


「子爵様、この後お時間がおありなら、城内を案内していただけませんか?」

「いいだろう」


 二人は一旦分かれて食事室を後にした。アレンは歩きながら考えていた。


(シェイラの様子から、俺との結婚を望んでいないのは分かる。首都育ちならこの地方は退屈だろう。話が出るまでは思ったより時間がかかりそうだ。

 それに、侯爵の動きはこれだけではないはずだ……)


 顎に指をあてて、自分の誤算に悩んだ。


 一方のニナリアは、魔獣の森に護衛を一人だけ連れて薬草を取りに行った。午後からは、ジェシーを連れて魔法使いの店に薬草を持って、薬の講義を受けに行った。ニナリアは魔法使いの店に薬草を卸している。ソアはニナリアの持ってきた薬草に喜んだ。


「ニナリア様が持ってくる薬草は、とても効果が高いんですよ!」

 ギクッ「そうですか、アハハ」

「さすが、魔獣の森の物ですね」

(良かった。森の効果のおかげで、助かった)


 魔法使いは魔力が魔獣を引き寄せるので、魔獣の森には入れないのだ。貴重な薬草を魔法使いの店に卸せば、領民にもいきわたる。

 ニナリアはソアから、新しい薬の作り方を学んだ。それが終わると、前から気になっていたことをソアに聞いてみた。


「アレンが、他の人が見えない黒い靄が見えたり、物が光って見える話をしてくれたんですけど、それって幽霊と関係があるんですか?」


 ニナリアは幽霊のことは怖いけど、アレンのことなので興味があった。魔法使いなら分かるだろうかと思った。ソアは少し考えた。


「そうですね。靄は瘴気の場合もありますが、幽霊の場合もあると思います」

「ソアも見えますか?」

「私は分からないですね。魔法の光や聖剣のオーラなど、みんなが見えるものが見えるだけです。

 幽霊が見える人は、死者の目を使っているんです。憑依した幽霊が見たものを、その人も見ることができるんです。幽霊が見ているので、幽霊が見えるんですよ。でもその場合は生命力が使われて、心身ともに弱ってしまうのでとても危険です」

「そうなんですか⁉ アレンは大丈夫でしょうか?」


 ニナリアは、なんとも恐ろしい話だと思った。


「領主様は大丈夫ですよ。聖剣の持ち主ですから、聖なる力を持っているでしょう。それで感じ取っているのだと思います。その見え方は正常なものです」


 ニナリアは気になっていたことが分かって安心した。魔法使いの店を出るとジェシーとお茶をして帰った。



 アレンはシェイラを連れて、城内の一階と庭を案内していた。その様子を使用人たちが見て、ひそひそと話しをしていた。使用人たちは、シェイラがニナリアに嫌がらせをしていたのは知っている。知らないのは騎士団の者たちぐらいだった。二人は訓練場まで来ていた。


「へ~、領主様、お客様を案内しているんだな。きれいな方だな」


 訓練中の騎士たちは、シェイラに見とれていた。それに、二人も気がついていた。シェイラは当然という感じで、悪い気がしなかった。アレンは、騎士たちをたしなめる。


「よそ見をするな」

『はいっ』


 騎士たちは慌てて、訓練に戻った。


「案内はここまでです」

「ありがとうございました。よろしければ今度、街も案内してくれませんか?」


 シェイラは誘ってみた。


「それは、申し訳ないができない。街の者が誤解すると、シェイラ嬢にもよくない噂が立ちます」

「そうですか。それは残念です」

「供の者を付けますので、観光に行ってみてください」

「はい、ありがとうございます」


 二人は、そこで分かれた。


(噂を利用しても良かったのだけど)


 シェイラは残念に思ったが、やはりアレンと話していても手ごたえがなかった。自分もここで暮らす想像ができなかった。しばらく過ごしてみて、ここでの暮らしは知り合いもいないし、退屈でしかない。


(ストラルトはニナリアがお似合いね)



 ニナリアが城に帰ると部屋で、メグが不満そうにアレンとシェイラの散策の話を聞かせてくれた。ニナリアは気にしなかった。むしろ、予定がはかどったなと思った。夕食は部屋で取ることにした。メグとジェシーに提案してみた。


「二人とも一緒に夕食を取らない?」

「それは、ちょっと」


 二人とも、遠慮がちに言った。


「私たちニナリア様付きなので、みんなから羨ましがられているんです。旅行に行ったりとか。これ以上優遇されますとちょっと」

「そうなのね……」


 確かに、同じ料理を用意させることになるし。他の使用人を順番に招くのも、遠慮させるだろう。お土産とかはみんなにも買ってきているけど、もっと感謝したいなとニナリアは思った。


「そうだ! 感謝祭はみんなでパーティをしましょう。家族も呼んで。私も手伝う」


 これなら同じものを食べられて、日頃の感謝もできる。感謝祭は年末前にあるお祭りで、1年の労をねぎらうものだ。


「いいですね!」

「やりましょう」


 二人も賛同してくれた。


(セルマンに予算を組んでもらって準備しよう)


 楽しい予定ができて、ニナリアは楽しく夕食を取ることができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ