なか
ある暴君が牢屋の中で暴れ叫んでいた。
とはいえ、誰も同情しない。
なにせ、彼は好き勝手に人々を虐殺したのだから。
そんな折、彼の前に一人の縛られた男が連れてこられた。
それを見た暴君は声にならないほどの怒りを発する。
「コイツがアンタを嵌めた」
事実だ。
男の勇気ある行動のために暴君は今牢屋にいる。
「好きにして良いと、上からのお達しだ」
そう言うと縛られた男は牢屋に放り出される。
直後、暴君は叫びながら爪と歯を立ててまるで猛獣のように男の身体を欲望のままに傷つける。
最早、何も出来ない。
ならば、せめてこの男を殺してやる。
そんな暴君の望みを叶えるように、男は叫び血を流し、そして泣いた。
牢屋の中が血で染まる。
暴君は恍惚の表情を浮かべながら行為に及んでいたが、やがて男の身体を見て顔色を変えた。
まず、歯ぎしりを、次に目を見開き、最後には外に向かって怒鳴り散らした。
そして、そんな暴君の怒りは牢屋の中で孤独に響き渡るだけだった。
所変わって宮殿の中。
暴君の前に差し出された男と瓜二つの男が穏やかな表情で報告を聞いていた。
「そうか。奴はちゃんと『なか』に気づけたのだな」
くくくと笑う男と共に虐げられ続けた人々もまた笑った。
なんとも心地良い報告だろう。
あの暴君が怒り散らして暴行した男は実際のところはただのロボットだったのだ。
とはいえ、実に精巧なものでそれが機械であると気づくには相当な『破壊』をしなければならないが。
「牢屋に入っても滑稽だな、奴は」
人々はそう言って笑い続けた。