傷む姿と、噴く汚濁
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その少女の名は、ミドウ・シズヱと言った。
血筋の良い家柄に生まれたシズヱは、幼少の頃から身体が弱く、その大半を家庭教師と家の中で過ごしていた。それ故にずっと、学校や友人といった普通の女学生の生活に憧れていた。
やがて年齢を重ねるにつれシズヱの身体も多少は丈夫になり、ようやく医師から通学の許可が下り、シズヱはとても喜んだ。彼女の為に両親が選んだのは、とある名家の経営する専門学校。そこは洋裁学校と言いつつも、良家の令嬢や裕福な家の子女が通う、花嫁学校のような場所だった。
シズヱは多くの友人たちと楽しい女学生生活を謳歌したのち、程なく若くして病に命を散らすことになる。しかしシズヱは、自分の人生はとても幸福だった、と微笑みながら息を引き取ったという。
それから幾ばくかの月日が流れ、洋裁学校に通う少女たちの間で、ある噂が囁かれ始めた。
──曰く、学校の一階の化粧室に『花子さん』が現れる、と。
その『花子さん』は一番奥の個室から姿を見せ、悩みの相談に乗ってくれたり、恋占いをしてくれるのだという。決して少女たちに害を為さず、寄り添い、優しく見守る年上の親友のような存在──それは洋裁学校が閉校となり、新しく私立の女子校が開校して以降も、変わる事が無かったのだ。
……そう、数年前までは。
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「ある時期から突然、旧校舎への肝試しに行った女生徒が失踪する事例が相次ぐようになった。運良く逃げ帰った生徒の証言によると、皆『花子さん』に友達が連れ去られた、と言う──。だっけかな」
旧校舎での事件のあらましを確認するように語るカラハと、真意を隠すかのようにカラハの視線からかたくなに眼を逸らすマイカ。その胸に乗せた足に体重を掛けながら、カラハは尚も言葉を続ける。
「おかしいよなァ? 元々の『花子さん』のシズヱはいなくなって、代わりにお前が『花子さん』になった途端、次々と生徒までもがいなくなる、なんてなァ?」
何でだろうなァ……? と白々しい台詞を吐きながら、苦しげに呻くマイカの胸を、グッ、グッ、とカラハはリズミカルに潰した。その旅に彼女の肺から空気が絞り出され、意思とは無関係なのだろう、身体が人形のように跳ねる。
「……ッ、し、知らな、いッ、……くッ、……」
あくまでシラを切るつもりのマイカにカラハは胸を踏むのを止め、彼女の身体から足を下ろした。途端、噎せ混みながらも大きく空気を吸うマイカの喉が、ゼィーッ、ゼィーッ、と激しく苦しげな音を立てた。
「知らねェで突き通すなら、まあそれは一旦置いといてやらァ。じゃア今度は、お前の事件について聞かせて貰おうか」
そう言いながらカラハはマイカの身体を見下ろす。薄らと青白い月明かりのみが照らす中、少し屈んで手を伸ばし、マイカに巻かれた鎖をすっとなぞる。鈍い色の金属はたちまちゆるりと緩み、やがて意思を持ってジャラジャラと音を立て動き始めた。
「……っ、何これ!? ちょっ、……嫌、やめ──」
抵抗しようと暴れる彼女の意思など気にも留めず、鎖はマイカの手足を絡め取り、先程までとは違う姿勢で身動き出来ないよう縛り上げる。胸を反らすような形で腕を後ろ手に拘束し、足は股を大きく開く形で固定された。自分の姿を認識したマイカは、鋭く短い悲鳴を上げた。
「嫌ァッ!? こんなッ、やめてッ、イヤアァアッ! 見るなッ……!
必死で藻掻くマイカ。だがカラハは気にも留めず彼女の脚の間にしゃがみ込むと、無造作にワンピースの胸元を掴んだ。それまで羞恥に赤らんでいた頬が、さっと恐怖の青に染まる。
「な、何するの……!? 駄目ッ、嫌ぁ──」
マイカの制止の声など気にも留めず、カラハが何気無く掴んだ腕を振る。ビリリィッと大きな音を立ててワンピースの布地が見事に裂けた。首元から裾まで一気に真っ二つに破れ、服に隠されていたマイカの身体が本人の懇願も虚しく露わになる。
「駄目ッ! 見ないでえッ!」
月下に晒された彼女の身体は、──無残なものだった。
少し大きめに見える胸は痛々しく腫れ上がり、左右の大きさや形が違う程にいびつに歪んでいた。所々に黒い内出血の痕や細長い皮膚の破れ、それに煙草によるものだろうか、点々と小さな火傷も見て取れる。片方の先端は酷く潰れ、もう片方は千切れかかっていた。
白く滑らかであったろう腹はまるで絵の具をぶちまけたかの如く、大小無数の痣が色取り取りに埋め尽くし見る影も無い。そして何より、醜く大きく膨らんだ腹の中身が何であるか、──彼女の境遇からすれば想像に難くなかった。
恐らく服を破られたことで、精神力によって抑えていたタガが外れたのだろう。腹の痣は股や腿まで広がっていき、首や頬にも絞められた痕跡や腫れや傷が浮き上がる。いつの間にかワンピースの残った部分もボロボロと掻き消えて、肩や二の腕の変色も露わとなった。
そして最後に、一枚だけ残った下着が、崩れ千切れ溶けるように散ってゆく。
とうとう露出した下腹部は、他にも増して悲惨な状態だった。
散らばる無数の火傷痕、赤く腫れ上がった肉、千切れた皮膚、爛れた傷跡。引き摺り出され裏返り破れ血と汚物を垂れ流す菊門、小水と血を流し続ける広がった不浄の穴。──そして股の奥からは大量のねっとりとした白濁が、彼女の呼吸に合わせてごぼり、ごぼりと噴き出し続けていた。
「見ないで……見ないで……」
マイカは眼の周囲に痣を作り鼻血を垂らしながら、ポロポロと涙を零し歯の何本も欠けた口でうわごとのように呟き続けている。綺麗だった髪は焦げ縮れ千切れ、汚れで固まり酷い有様だ。
恐らくこれが、暴行事件に遭ったまさに直後の状態なのだろう。普段は妖力と精神力で抑えていたのであろうが、これが亡霊としての本来の姿なのだ。
「なァ、マイカ」
カラハは泣きじゃくる彼女の傍にしゃがみ込むと、優し気な口調で語り掛ける。しゃくり上げながらぐしゃぐしゃの顔でカラハを見上げるマイカの姿は、とてもあやかしとして何人もの少女を『喰った』ようには見えなかった。
「何があったか、全部、教えてくれねェか」
するとマイカはカラハの言葉に浅く呼吸を吐き出すと、しばらくは葛藤するように口を開いては閉じてを何度か繰り返していたが、やがて嗚咽を堪えながら荒い吐息で掠れた言葉を絞り出す。
それは、切実な苦悶と懇願。
「……助、けて、……苦しいの、溺れる、の、……」
その言葉の合間にも、膨らんだ腹は苦しげに上下し、黒ずみ変形した股の間からは生臭く腐った内容物を、どぷ、どぷ、と漏らし続けている。カラハは、わかった、と短く呟くと、おもむろに立ち上がりそしてマイカの腹に手を乗せた。
冷たい肌にカラハの掌の温度が広がってゆく。感触を確かめつつ内部の様子を探り、一番効果的だと思われる部分にカラハは手を移動させた。マイカの息が徐々に落ち着きを取り戻し、身体から強張りが抜けてゆく。
カラハは、そんな心も身体も弛緩した瞬間を見計らって、──思い切り腹を押した。
「っ、ひぎゃあぁああぁぁっ!?」
マイカの身体がビクンと跳ね上がり、不意打ちに喉から絶叫が迸った。胎内までパンパンに詰まった白濁が、押し潰されて破裂したかのように猛烈な勢いで股奥から噴出した。ぶびゃあっ、と粘い液体は音を立てて流れ出し、辺りに腐臭を撒き散らしながら股の周囲に溜まりを作ってゆく。
「おぉ、どんどん出るぞこりゃァ。凄ェなあ?」
ひゃは、と嗤いながらカラハは全体重を掛けて平らになるまで腹を押し続ける。力を込める旅にマイカの喉はヒッヒッと息を吐き、白目を剥いて為されるがままだ。
ようやく腹がへこんだところでカラハは手を止めた。開きっ放しの股奥と口からは、ごぼごぼと泡が噴き零れている。
「下っ腹は凹んだが、上はまだだな。胃が膨らんだままだ。そりゃ苦しいわな──どんだけ飲まされたんだか」
呟きながらカラハはゆっくりと立ち上がり、放り出していたバットを再び助手から受け取った。
行為にかそれとも悪臭にか、少し嫌そうな表情を浮かべるドーラと眼が合った。それでも顔色一つ変えていない助手の様子に、カラハは内心少し驚いたが、表には出さずマイカに向き直る。
「それ、どう使うんです?」
さして興味の無さ気なドーラの言葉に、カラハは口の端を少し歪め、バットを逆手に構える。
「あー、こうすンだよ──そらッ!」
そしてカラハは、だらしなく開いたままのマイカの股奥に、思い切りバットを突き立てた。
闇を裂くような絶叫が、夜に響いた。
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