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戻る頭蓋と、砕く音




今回の話も、かなりグロテスクな表現が含まれます。苦手な方はご注意下さい。

それでは、お楽しみ頂ければ幸いです。




  *


「くっくっく! いい吐きっぷりだったな、マイカ?」


 笑いながらカラハはバケツを持って、踵を鳴らしマイカの傍に歩み寄る。そしてごろり転がる彼女の頭蓋骨に、思い切りバケツの水をぶっかけた。


 どろどろの汚泥の固まりのように見えていたそれが、周囲の糞便を洗い流され、辛うじて本来の形を取り戻す。丸い頭蓋骨は月光を受け、眼窩を虚ろに晒している。


 カラハは躊躇無く手を伸ばし、すい、と朧に光るそれを持ち上げた。


「……あ、……わたしの、骨」


 それは形こそ綺麗なものの、まだ多くの糞便がこびり付き表面は茶色く染まり、内部には実体の在る物無い物ない交ぜで、びっしりと小さな何かが蠢いていた。眼窩の奥の明かりがちらちらと、か細く揺らめいている。


「マイカ。よく頑張ったなァ……それにしても酷ェ姿だぜ? ちょっと先に綺麗にしてやるから、そっちに寝転びな」


「……え、……う、うん」


 不安にかそこはかとない恐怖を表情に浮かべながらも、逆らう気力すら失せているのだろう。マイカはカラハの言葉に促されるまま、吐瀉物の山を避けてコンクリートの床に寝そべった。ひやりと夜に冷たい地面の温度を、不思議と心地良く感じながら。


「こう、でいいの……?」


 一旦頭蓋骨をそっと置きもう一杯のバケツを手に取ると、カラハは無言でマイカに近付き、ザバザバと彼女の全身に満遍なく水を掛ける。粘り気の強い汚泥が水で流され、肌が露わになりその白さを取り戻してゆく。


 すっかり綺麗に、とはいかずとも先程よりは随分とマシだろうか。マイカ本人も少しは人心地が付いたようで、溜息めいた大きな息を漏らした。


 カラハは空のバケツ二つを重ねて後ろに投げ捨て、再び頭蓋骨を持ち上げる。それをマイカの眼前に見せ付けるように掲げると、彼女の傍にしゃがみ込んだ。


「……さて、と」


 そしておもむろにマイカの足を持ち上げ、大きく股を開かせる。股奥を露出させて閉じられないように片膝を踏みつけ、黒い鎖で足を、ついでとばかりに全身を縛り付けた。


「な、何……、何するの……?」


 恐怖に震え引き攣るマイカの様子に、自然とカラハの顔が緩む。自分は今までで一番のおぞましい笑みを口許に浮かべているに違い無い──そんな事を思いつつ、髑髏をマイカに見せ付ける。


「逢いたかったんだろォ? この水子によォ。……今、戻してやっからなァ? お前の腹によォ」


「──え、……な、何を……意味が、分からな……」


 鎖で容赦無く縛り付け身じろぎも許さず、そしてカラハはマイカの股に彼女の頭蓋骨をゴリッと押し当てた。


「っ!? な、何──嫌っ、嫌嫌イヤあっ!?」


「くくッ──じっとしてろよォ」


 ようやく何をされるかを理解したマイカが激しく抵抗を試みるが、既にがんじがらめにされて指一本たりとも動かす事は出来なかった。彼女に許されているのは、ただ叫ぶ事と、涙を流す事だけ。


「嫌っ、やめてっ、イヤアアアアアァアッ!」


 響くマイカの絶叫をむしろ楽しむように、カラハは牙を鳴らし嗤いながら、既に有り得ない程に股間にめり込んだ頭蓋骨に足を乗せ、容赦無く体重を掛ける。


 ギチッ、ミチミチッ、ギチチッ。肉の、或いは骨同士の刷れる音が、空気を震わせる。彼女の股から鈍く足裏に伝わった感触が、絶望の叫びと相まって、カラハの興奮がいや増した。


「テメエの髑髏だッ! 今度は失くさないようちゃんと仕舞っとけよォ!?」


 叫びと同時にカラハは思い切り踏み抜く。肉が裂け千切れる感触と共に、ズボリッ、と湿った音を立ててマイカの内部に茶色じみた骨は飲み込まれた。


「うごおおおぉおおぉおっ、ひぎいぃいいいいぃいッ! あがあああぁああぁああぁあ!」


 もはや口から迸る音は意味を成さない。完全に裂けて三つの穴が繋がった股部から血と尿と便と、そして頭蓋骨の中に居たであろう何だか解らない這い出た小さなモノを撒き散らし、マイカは目を見開いて全身を跳ねさせ、そしてのたうち転げ回った。ぼこり飛び出した腹の皮は張り切り静脈が浮かび、転がる度に地面に擦られ汚泥と血にまみれる。


「良かったなァ! 赤ちゃんが腹に戻ってよォ!? ああ、でもそれじゃスカートも履けねェなァ!? ちィと引っ込めてやるよッ!」


 高らかに笑いつつ、泣き叫ぶマイカの胸元に蹴りを入れ動きを止めると、カラハは臨月の如く突き出た腹を仰向けに転がし、その隆起に足を乗せる。


 散々に悲鳴を撒き散らした喉は枯れ、既にマイカはただヒュウヒュウと荒い息を鳴らすだけで、その瞳はもう何も見ていない。いや、恐らく理性では何をされるかを理解していて、そして認識する事を拒否していた。苦痛に歪めた顔を固まらせ、ただ涙と鼻水と涎を垂れ流す。


「仕上げだ──くっくっく、じっくり味わえよォ……?」


 ギリ、とカラハのブーツの靴底が腹越しに硬い骨に擦れ、有り得ない音を立てた。恐怖すら拒否して、マイカはただ、来るべき時に身構えもしない。


 上げられた踵が一瞬、動きを止めた。


 そして──。


 ゴリゴリゴリゴリッ!


「ひぎゃああぁああぁあぁああああああああぁあっ!」


 その音と同時に、マイカは絶叫した。もはや声とは呼べない叫びが喉を掻き毟り、濁音がこだまする。


 粉々に砕かれた頭蓋骨の破片が一斉に内部で突き刺さり、内臓を破り腹を突き抜け、裂けた股から大量の赤が茶と黒と黄と薄桃と白を混じらせ押し流すように噴き出した。そして腹の表面からは、裂けた隙間から小さな骨片と血が切り裂かれた内容物とともにどくん、どくんと流れ出る。


「……っ、は……が、あ、……」


 余りの苦痛に気絶したのであろう、マイカは白眼を剥きもはや声を上げる事すら出来ないようだ。カラハは細かく痙攣し血を流し続けるマイカの腹から足を下ろし、ひとしきり笑うと、興味を失ったようにふっと真顔に戻る。


 そして──ゆっくりと、きびすを返した。


  *




しゃれこうべをナニしてアレして……という、前回と今回の二話が第一章中最大のリョナ回です。

お好きな方にはお楽しみ頂けたでしょうか。苦手な方にはすみません。

次回、ようやくマイカを送り出すお話です。

次回も乞うご期待、なのです!



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