対精霊貴族 2
少し経つと今度は恥ずかしくなってきた。こんな風に子供みたいに大泣きして……あ、子供だからいいのか。とも思うけど、高校生まで生きてきた中身を考えると恥ずかしくて堪らない。
まだ、ヒックヒックとしゃくりあがるのも止められない。
もちろんずっとずっと欲しかった家族が出来た嬉しさも、じわじわと沸きあがってくる。
恥ずかしさと、嬉しさで顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
でも、きっと泣き過ぎてめちゃくちゃ不細工だと思うの。
流石に百年の恋も冷めるはず……うーん。冷めるかなぁ……ヴィル様は大丈夫かもしれないなぁ……不細工な顔見ても、嫌いとか嫌になるとか無さそうだな。
ある意味すげぇな、ヤンデレへの安心感。
だってそんくらい好き過ぎないと、ヤンデレなくない? じゃあ大丈夫か。
それなら、私の前世を含めて長年の悩みも全て救ってくれたヴィル様にお礼がしたい。
お母様の胸からそっと顔をあげて振り返る。目をかっぴらいて私を見てるヴィル様。見逃さない感がすごいな。やっぱりヴィル様なら、不細工な顔見ても嫌ってならなさそう。そう思ったら、ちょっぴり面白くなってしまう。
「ヴィル様……ヒッㇰ……助けてくれてありがとう」
ちゃんとにっこり笑えてたと思う。真っ赤な顔で、目とか腫れちゃってて、しゃくりあげるのも止められてないけど……それでもちゃんと私の気持ちを、今、伝えられたと思う。
ヴィル様は目をさらに見開いた後、小さく「うん」と言ったまま、じっと私を見つめ続けていた。
お母様が、また明日以降落ちついていらしてくださいと言うまで二人で固まった様に見つめあっていた。
ヴィル様はしぶしぶ帰っていった。その後姿すら、帰りたくないと物語っていて、やっぱり可愛いと思う。好き。
そして事件の詳細を騎士団から聞いてから、急いで帰って来てくれたお父様とよくわかっていないだろう妹と四人で今までの事を少しずつ話した。
最初にお父様とお母様は、祝福を持っていてもいなくても私が生まれて本当に嬉しかった事を話してくれた。
そして、第二子が生まれた時に祝福のない娘が、非難を受けたり蔑まれたりなどされない様に気をつけていたのだという。
だって、祝福の娘が祝福されているのは、周知の事実だからだ。
だから、まさか祝福の娘本人が実の娘じゃないかもしれないと不安に思っていたなんて、考えもしなかった。
代々、うちの家系にしか祝福の娘が生まれなかったから我が侯爵家はこの役職についていて、森の管理をしているんだそうだ。
ただ、数代にわたって祝福の娘が生まれなかった為に、他の分家筋や他家の介入が強くなって来ていた為に困ってはいたらしい。
そこに待望の第一子で祝福の娘が生まれ、一族揃ってお祝いとなった。更には王家や高位貴族は皆、祝福の娘の重要性を理解している為にかなりのお祝いを貰ったり、色々融通してくれているらしい。
それは、他の貴族や平民等は知らない事であった為に、大々的にされる訳ではなく密かに、でも確実にかなりの資産となっていった。
それに気がついた遠い分家の子爵夫人は、なんとかしてその恩恵を受けたかったのだという。
近しい家系の人達はむしろ祝福の娘を神聖視し過ぎるきらいがあって、逆に距離をとって遠くから拝むくらいの感じらしい。
しかし遠くの分家筋で、他家から嫁に来ていた子爵夫人は祝福の存在を知らなかったのだといっているとの事だ。いや、知らなかったというよりも自分の都合の良いように解釈し、祝福を嘘だと決めつけ不貞の言い訳の様に解釈していたとの事だった。
だから、それをネタに娘を懐柔し息子の嫁に……ゆくゆくは侯爵家を自分のものにしたかったというのだ。
だから、あの人の子供二人はそれが真実だと思い込み、私を脅迫していた。
そして私も前世の記憶や色の違いから、二人の言葉を信じてしまい怯えて過ごしていた。
それが全てだった。
以前の私の真実はどこにあったのかは……もうわからない。けれども……。
「ヴァイオレット、いままで気が付かなかった不甲斐ない父を許してくれ。ヴィオは大人しくて、人見知りだったから……てっきり構われるのが嫌なのかと思っていたんだ」
そんなことない。いつもみんなと一緒が良かった。今までいられなかった分も、ずっと一緒にいたい。拙い言葉で一生懸命にお父様に伝えると、お父様は泣きながら「ちゃんと確認せず、ヴィオに辛い思いをさせたね」と抱きしめてくれた。
まだ六歳だもん。これからもたくさんお父様とお母様と妹のローズと一緒に過ごせる。それが嬉しい。
今あるこのぬくもりをいままでの分も、これからの日々を毎日大切にしたいと思った。
その日は、初めてお母様と寝た。こちらの貴族社会では親子で寝る事はほとんどしないのだが、お願いしたら喜んで寝てくれた。
一瞬、ヤンデレヴィル様の使い魔とかにお母様と寝るとか見られているかも……と思って辺りを見たけれど、ゲームに出てくる黒猫もカラスも見当たらないから、まだ大丈夫かな。
まぁ、見られてもいいんだけど、心構えがね、必要だからね。あのコ達は大きいから、使い魔になったら直ぐにわかるよね!
そうヴィル様とこれから婚約者として会えるのも楽しみだな。
なんとしても、死亡エンドを回避してヴィル様のヤンデレ化を防ごう!!
これで少しお外とかで運動始めて、健康になっていけば衰弱死は避けられるよ……ね?