対精霊貴族
「理由は私から説明させて頂きますよ」
颯爽と歩いてくるヴィル様の姿……ひんっ! なんてカッコイイのっ! 涙も止まったわ! いや、逆に流れるわ!
そして、みんなも時が止まった様に動かない。そりゃそっか。だって、仮にも第一王子様だもんね。一番最初に復活したのは私のお母様だった。
「殿下にはご機嫌麗しゅう……」
「よい。突然すまないな。いつものプレゼントがてら、体調が良ければ顔だけでも……と思って寄らせて貰ったのだ。来て良かった」
「いつも娘にお心遣いありがとうございます」
ひょぇ〜王子様ともなると六歳でこんな感じなの? カッコイイ! お母様の腕の中からヴィル様を堪能出来て嬉しい。ちょっぴり声が高くて子供感すごいのに、話してる感じが王子様っぽい。いや、王子様なんだけども。とにかく新しいヴィル様だわ!
「さて……私が言うよりも聞いて貰った方が早いかな? 先日の贈り物の一つに魔石がある。それは悪意から婚約者のヴァイオレットを守る様にいくつかの魔法をかけておいたんだ」
まっすぐにベッド脇のテーブルに歩いて行くヴィル様は、迷う事なくテーブルの上の小さな箱をひょいっと持ち上げた。
箱の中には小さな宝石が見えた。あれが魔石なの? 私には宝石に見えるけど……。ヴィル様が小さく何か唱えるとジジジという雑音と共に、先程のやり取りが、バッチリ音声として聞こえてきた。
「……さて、言い訳は聞かなくてもいいよね」
王子様らしくにこやかに笑うヴィル様。子爵夫人はヒッと小さく声を漏らし、小さくなっている。オスカー達はガタガタ震えながら子爵夫人にしがみついていた。
そんな彼らを冷たい目で一瞥した後、騎士に向かって指示を出していた。
「話はまとめて騎士団で詳しく聞かせて貰うから……連れて行け」
ヴィル様の後ろについていた護衛騎士の一人が三人を連れて行く。特に誰も抵抗せずに青い顔で騎士様に続いて行った。
「ああ、ヴィオごめんなさい。あなたにあんな事を言っていたなんて……しかも以前からなの?」
私は怖くて怖くて堪らなくて、ただ答える為に、うつむいたまま静かに頷く。
「ああ、本当に気がつかなくてごめんなさい。あなたのその色は祝福の色なのよ。家の家系では待ち望んだ、数代ぶりの祝福の娘なのよ」
そう言って話してくれたのは、我が家の特異性であった。
我が侯爵家は妖精の森の管理を任されている特殊貴族だ。国から特殊任務を受けて森の管理をしている。
王家や神殿とはまた違う力関係なのである。なのでどちらにも従う事も無く独立しているのだ。そのためいつでも立場は中立を貫いている。
妖精や精霊といわれる存在は、こちらにあまり直接干渉しては来ない。けれど確実に存在しており、対応を誤ると国家規模で損害がでてしまう。
そこで、精霊や妖精が好む場所や出没地域に対精霊貴族が置かれる。我が国では我が家だけだが、他国では数家存在していたりもする。これは精霊との親和性によるので、なりたくてなれるものではない。
そして、それぞれの対精霊貴族の一族には祝福の娘が定期的に生まれるという。その娘は特に精霊や妖精に好かれ、意思疎通を測るだけでなく様々な事を成し得ると言われているとの事。
他国では精霊の愛し子や精霊王の嫁とも呼ばれたりもする。もちろん本人の意志に委ねられているので、他の人と結婚もできる。
時に王家はこの力を取り込みたがるが、この力は両刃の剣なので扱いは慎重らしい。娘本人が嫌がると国が滅んだりした事もあるからだ。
そこまで聞いて、ふと気がつく。そうか……それで私達は婚約者だったのだと。
ゲームでも謎だったのだ。何故私は死亡するまで、監禁されていた第一王子の婚約者であり続けていたのか。
だって、監禁されている王子の婚約者とか意味がわからなくない? 家の弱みを握られている訳でもなければ、わが家の方から王家に取り入りたい訳でもないからだ。
王家としては、祝福の娘を取り込むのもよし、不要な第一王子を我が家に送り込んで協力という名の利益を得るのも都合が良かったのだろう。
優しい父母は、娘に好意的な不憫な第一王子を助けてあげたかったのかもしれない。
やっと婚約の理由もわかったし……それに…………
「わ……私……お母様の、本当の子供なの?? ……このお家に、いても、いい…………の?」
「ヴィオ!! あなたにそんな事を思わせていたなんて! 本当にごめんね。ああ、むしろ祝福を受けなかったローズのフォローが必要だと思い込んでいたの。ごめんね。二人とも大切な私達の子供よ!」
「私の……お母様? ……いもうと?」
「あたりまえです! 大切な私達の娘です!!」
「ふっ……うわぁぁぁぁん」
その言葉に急に安心して、私は号泣していた。良かった。私、二人の子供だった! そして、妹がいた!! 私の欲しかった、ちゃんとした家族だった!
そう思ったらもう涙が止まらなくて、ずっと泣きじゃくり続けた。そんな私をお母様はずっと撫でてながら、大切な娘なのだと言い続けてくれた。
そして、ヴィル様はそれをただ静かに微笑みながら見守ってくれていた。