襲来
あの後、慌てた侍女が主治医を呼んでまた安静指示が出されてしまった。「ヴィオ……」と部屋を出るお母様の悲しげな顔が寂しさを募らせる。
変わらなくちゃと思っても……違う私になっても、違う人生でも、私は変われないのかと、ますます落ち込んだ。
生まれ変わっても、変われないのか。
それからも、体調を考慮して大人しく部屋で過ごしていた。もちろん、脳内では運動して体力をつけようとか、家族と距離を縮めたいとか、色々考えているけれど……身体が動かない。もちろん、体調的にはかなり良くなって来たので、部屋の中で歩く事は出来る様になってきていた。侍女達がマッサージやリハビリの様な事を一生懸命してくれているので、回復も進んでいる気がする。
そうではなくて気持ち的に、身体が言う事をきかないのだ。
「お嬢様〜今日も殿下から素敵なお花が届いていますよ! 早く元気なお姿でお会い出来るといいですね」
けれども、そう。嬉しい事に私とヴィル様は、あの事件の直前にもう婚約が決まっていたらしいのだ。なので、誤解(?)も解けたヴィル様からお花やお菓子、アクセサリーやお手紙なんかが届く。なんて嬉しいんだ! 推しからのプレゼント!!
これはあの事件で、ヴィル様が幽閉されてしまった本編では無かった出来事だろうから……本当に私だけにしてくれたプレゼントなのだ!
そう思うと嬉しくて、たまらない。
元気になったらヴィル様に会えるだろうか。いや、婚約者だもん! 会えるに決まってるよね!
幽閉も回避できたし、これからはヴィル様といちゃいちゃな婚約者生活が出来るのかもしれない!!
ほわぁぁ~ヤバい! ヴィル様といちゃいちゃとか、ヤバい!!
彼氏とか出来た事ないからどうしたらいいのか全然わからないけど、一緒に過せるだけで嬉しいかも。
早く元気になりたい。
そうして、毎日少しずつ身体を動かし日常生活を普通におくれる様になった頃、あの子達がやってきた。
「ヴァイオレット大丈夫? ずっと寝たきりだったんですって?」
そう言ってベッドに走りより、心配そうな顔で私の両手を無理矢理握るのは又従兄妹のアンネだ。
「俺達も心配だったんだ。元気そうで良かったよ」
心配している顔でその側に立つのはその兄でオスカーだった。
この子達は分家の子爵家で、妹のアンネは私と同い年でオスカーはその二つ上の兄妹だった。そのため、又従兄妹で歳の近い友人として交流するようにと、以前から家に来ていた。
両親や大人のいる前では、二人はとても良い子で優しいふりをする。
「ヴァイオレットに久しぶりに会えて嬉しいわ! またたくさん私達だけで仲良くお話しましょう」
そう言って侍女達を部屋から出し、三人になると豹変するのだ。侍女達がお茶の用意を済ませ全員退室したのを確認すると、馬鹿にした様にニヤニヤ笑いだす。
「なぁ……お前、本当に一ヶ月近く寝込むとかお荷物だな」
「そうよ。ここの本当の娘でもないくせに、迷惑だけかけるとか何様なの?」
「本当の娘が生まれたんだから、お前なんて要らないんだからな」
そうよそうよと二人でずっと話続けている。
そう。私はこの家で……私だけが違う色を持っていた。
お父様はシルバーグレーの髪にペリドットの様な瞳。お母様は黄金の髪にサファイアの様な瞳の色をしているのだ。そんな二人から生まれた妹は黄金の髪にペリドット色の瞳を持つ。
…………私だけ。
髪はラベンダー色で瞳はローズクオーツの色なのだ。色以外の容姿は似ているので、親戚なのか……誰も、何も言ってくれないから……こんな子供に言わないのは、前世を思い出した今なら解るけれど……。
思い出す前は、この二人に言われて初めて自分がこの家の子供じゃない可能性に気がついた。
「俺が分家とはいえこの家系の血を入れる事で、お前はこの家を継げるんだからな! お前なんかと結婚してやるんだから、ありがたく俺に従えよな」
二人はいつもの様に、私を貶しながら盛り上がる。……ん? んん?
「私……ヴィルフリード様と、婚約してる……よ?」
「「は?」」
二人が驚愕の表情を浮かべながらこちらを振り返る。私だって「は?」だ。だって、前世から大好きだったヴィル様と婚約してるんだよ! なんでオスカーなんかと結婚の話になってるの?
「はっ! お前なんかと第一王子が婚約なんかするはずが……は? えっ……いや、不義の娘のお前なんかが王子と婚約していいのかよ。不相応ですって断われよっ!」
「そうよ! 不相応よ!」
二人のあまりの剣幕に怯みそうになるけれど、大好きなヴィル様との婚約を私が断る訳がない! そして、ヴィル様がヤンデレる要素を態々作る訳がない!! このまま、ギリギリヤンデレくらいのラインで二人で幸せになりたい!
それって溺愛くらいに留まらないだろうか。……違うかぁ~。
「いつも言い聞かせてただろっ! いいか! お前はこの家の本当の娘じゃないんたからな! 俺の言う事を聞くんだぞ!」
意識を少し飛ばしていたけれど、ハッとする。そう、この二人がそう言うけれど、ヴィル様の事は関係ない。この家の本当の娘じゃなければ、ヴィル様が結婚してくれない訳じゃない。
ヴィル様はただヴァイオレットを好きなのだから。
……ヤンデレる程に。それだけは確実だ。うん。素晴らしい信頼。ヤンデレを信頼する日が来るとは、流石に思わなかったけど……。
あはは。そうだよね。大丈夫。ヴィル様の盲目的な愛は変わらないんだから大丈夫。
私は精一杯の勇気と共に言う。
「ヤダ……私……ヴィル様がいい……」
「なんだと! このっ……!!」
なんとか声に出すと、オスカーはさらに激昂し大声で怒り出した。そしてそのまま叩かれるっ! と身体をぎゅっと縮こまらせて備える。
すると「ギャー」とアンネが叫んだ。オスカーは顔を紫色にして苦しんでいた。私もそれを見て声にならない悲鳴をあげた。
アンネの悲鳴を聞きつけ控えていた侍女達やお母様、そして子爵婦人も部屋に飛び込んで来た。
「どういう事なのっ?」
オスカーもアンネも苦しそうにしながら、子爵婦人の元に泣きながら駆け寄った。お母様は私の元に駆けてきて、泣いている私を抱きしめてくれた。
ああ、お母様は私を……理由も何も聞かなくても、どうであっても抱きしめてくれるんだ……と、ますます涙が止まらない。
「理由は私から説明させて頂きますよ」
そこには、いるはずのないヴィル様の姿があった。
キターっ!来ました( *´艸`)