前世の私と今の私
そんな軽い気持ちのつぶやきは、侍女にしっかりと拾いあげられていたらしく翌日には、一階の改装が始まった……らしい。自分の部屋でほぼ寝たきりの私には、よくわからない。
「お嬢様〜良かったですね。中庭に繋がる応接室を今、改装しておりますからね。あと数日でお部屋移動が出来ますよ」
お付きの侍女達が代わる代わる嬉しそうに話してくれる。それをベッドでクッションにもたれながら、静かに聞いていた。
一人は花瓶の花を生け替えながら、一人はお茶の用意をしながら楽しそうにしている。その姿を見て、本当に私はこの家の人達に大切にされていると思う。思うんだけど……。
「奥様がみえましたよ」
「……お母……様」
皆が「良かったですねお嬢様」と言ってスススっとさがっていく。
「ヴィオ。良かった。今日は昨日よりも、ずっと顔色も良さそうね」
ベッドに座りながら、優しく声をかけてくれる。そっと髪を撫でられると、たまらなく嬉しい。本当に、お母様に愛されているのかもしれないと……期待してしまう。
でも……怖い。
前世の私には両親も家族も親戚も……誰の顔も見たことが無かった。物心ついた時には施設にいたからだ。
私は施設では、手のかからない『いい子』だった。
小学校の入学式は施設の先生と行った。みんな両親や家族と来ていたのが物凄く印象に残っている。
授業参観の日に、私は一人なんだという現実を知った。最初は悲しくて、夜に一人になってから泣いたけれど、高学年になれば授業参観日は休んだ。
誕生日は施設の先生が「おめでとう」と言ってくれた。何がおめでとうなんだろう。
いくつの時の誕生日だったか忘れちゃったけれど……あの日は、私だけお父さんもお母さんもいなくて、悲しくて世界にたった一人でいるみたいで……ずっと泣いていた。
「なんで私にはお母さんもお父さんもいないの?」
「私のお誕生日なのに……私はいらない子なの?」
「どうして私を誰も愛してくれないの?」
かろうじて、生物学上の母親と言われる人がいる事は知っている。
何らかの事情があって、一緒には住めないのだと……まだ小さい頃に先生から簡単に説明があった。大人になったら詳しく話をしようと言っていたけれど、理由は高校生になっても聞く事は出来なかった。
小さい頃は「いつかお母さんが迎えに来てくれる」と思って過ごしていた。成長するに連れて、今度は怖くなっていった。
私はいらない子かもしれない。だって、誰も迎えに来てくれない。いや、そんな事ない。きっと迎えに来れない理由があるんだ……と少しでも、生きる希望が欲しかったのだと思う。ううん、もしかしたら……弱虫な私は、真実を知る勇気が無かっただけかもしれない。だって、お前なんかいらないとハッキリ突きつけられるなんて堪えられない。
怖くて怖くてたまらなかった。
高校に入る頃には、もう家族を……母親を求める様な事は表面的には無くなった。みんなが楽しそうに生活しているのをみていた。私は、みんなと違うのだと感じていた。
部活にバイトに彼氏……私は、こんな風に生きられないと思うと辛かった。
早く自立して一人で生きていく術を身につけなきゃいけないとわかっていた。やる事も無かったし、何かに追いたてられる様に勉強をしていた。友達もほとんどいなくて、する事も無かったのもあるけど。だから、成績はかなり良かった。学校の先生は、いい大学も目指せるかもと言っていたけれど……塾に行ける訳でもない、養護施設から出なきゃいけない私には現実的には厳しかった。
同じ施設にいる一つ上の先輩がとても良くしてくれた。詳しくはわからないけれど、彼女は虐待を受けていたから、ここに来られて良かったと話していた。
彼女が家から持って来ていた、漫画やゲームを貸してくれて一緒に楽しんだ。
色んなゲームや漫画かあったけれど、私は乙女ゲームが好きだった。
愛されるヒロインを見ているだけで現実を忘れられた。こんな誰からも愛されるヒロインが羨ましかった。現実ではない二次元のイラストが、また良かった。
あれは夢だ。
女の子の夢。現実とは別の夢。見ているだけで楽しくなる夢なのだ。
最初はメインヒーローに溺愛される系が好きだった。そんなヒーローを選ぶ事が多かったけれど、色んなゲームをやってみると次第にヤンデレる程に愛されるって素敵だと思う様になった。
そこまで愛されるって羨ましい。
そんな頃にこのゲームに出会った。先輩はマッチョ好きだから、いつも騎士様系を選んでいたはずだった。そして、この二人の王子は私の好みだろうと言って貸してくれた。
メインヒーローは第ニ王子で溺愛系だった。そして、他の攻略対象だと悪役になる不憫な第一王子はヤンデレ系ヒーローだった。
もうね、全てがツボだった。過去の亡くなった婚約者に一途な所も好き。最初は冷たい言葉で拒絶するのに、少しずつ仲良くなると笑ってくれたりするツンデレな所も好き。好きだと自覚してからは、嫉妬で監禁しようとしたりしてくる所も好きだった。
なんでヒロインはその愛に応えない事もあるんだろう。そこまで愛してくれる人ってすごいと思うんだけど……まぁ、ヒロインはたくさんの人に愛されてるからなぁ。
ヴィル様のその一途な愛……私にくれないかな。
私はヒロインを通してその世界を見るのが好きだったけど、ヒロインを自分に投影してプレイする事は最後まで出来なかった。
だって、私はあんな風になれない。
……そう、現実でいつもわかっていたから。例えゲームの中でもそうは思えなかった。
だって、実の親だって愛をくれなかったんだもん。私は……あんな風に愛せるヴィル様が、すごく素敵にみえた。
「ヴィオどうしたの? まだどこか痛むの?」
勝手に涙が溢れだし、お母様を慌てさせてしまう。ああ、こんな事では嫌われてしまう。どうしたらいいのかわからない。こんな面倒な娘は要らないと言われてしまうかもしれない。
どうしよう。とうしたらいいの。私は……どうしたらいいの。
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