生まれ変わっても私は私だった。
次に目を覚ましたのは、あの事件から一週間近くも過ぎてからだった。
何に驚いたかと言うと、ヴァイオレットの体力の無さだ。
本当に、ほんと〜うに体力が無いのだ。
もちろん一週間も意識不明の寝たきりでいたから、体力や筋力がかなり落ちているのは理解できる。この世界では、意識不明で食事や水が飲めなくても魔法で治療すれば生命維持が出来る。
出来るけれど、やはり身体はかなり衰えているのだ。
目が覚めた時、口の中がカラッカラのカッピカピで水も飲めなくて本当に驚いた。もちろん侍女が付きっきりで、口元をガーゼで定期的に浸すなど面倒を診てくれていたのにも関わらずだ。そして、上手く水も飲めなくなっていた。具体的には飲み込みにくくなってしまっているのだ。喉の筋力すら衰えて、ゴックンと飲み込め無いのだ。
自分で水を飲まないという事は、治療魔法で死ななくてもこうなるのだと知った。
さらに追い打ちをかけたのは、立ち上がろうとした時に足がプルプル震えてつかまり立ちでも立てなかった事だ。危うく漏らしかけた。乙女としての終わりを迎える所だった。直ぐに侍女が抱き抱えてお手洗いに連れて行ってくれた。子供で良かった……。
そして、私は恐ろしい事に気がついてしまった。そう。数年後に起こるであろう私の死因だ。
もしかしたら……衰弱死かもしれないと。
八割方そうなんじゃないかと思う。いままでのヴァイオレットの記憶を思い出してみても、なるべく両親や妹に会わない様に、自ら部屋に閉じこもっていた。とは言えまだ六歳なので、ここ数年の記憶しか残って無いが……本当に基本的にメソメソ泣いたり、風邪を引いて寝込んだりして部屋で過ごしていた。
本当に……何やってんのよ……ヴァイオレット。
最悪、衰弱死じゃないなら、エコノミークラス症候群で治療が間に合わなかったパターンかもしれない。そのくらい部屋に引き込もっていた。
まずは体力をつける様にしないと……本当にこのまま衰弱死してしまうかもしれない。いや、このままだと十二歳を前に死んでしまいそう。
だって本来の展開だと、ヴァイオレットはヴィル様の事をよく知らないままなのだ。気がついたら家で寝ていて『あれは何だったんだろう? 夢?』くらいの認識でいたはずだった。
この時点でヴァイオレットにとってヴィル様は、お茶会で何回かお話しした事のある男の子。残念だけど……ただそれだけだ。
もちろん、人見知りのヴァイオレットが話せる優しい男の子だと思っているし、お茶会にヴィル様がいると安心して、嬉しくなって近寄って行くくらいには好意的だ。(ヴィル様の周りに人が近寄らないから)二人で静かにお茶会中過ごせるのも、ヴァイオレット的には良かったというのもある。
ヴァイオレットの両親は、とにかく優しい人達だ。他家がなるべく関わらない様にヴィル様を避けているのも知っていたが、我が家は立場的に中立を貫ける為、好きな様にさせてくれていたのだ。
もしかしたら、ヴィル様の境遇を知っているからこそ、二人が仲良くなるなら……と見守っていてくれていたのかもしれない。
その辺りの事情はもちろん原作に無いし、私が今この状況になって想像するだけなんだけど……だからこそ、ヴァイオレットはお茶会にヴィル様がいなくなって、落ちついて話す相手もいなくなって出かける事もしなくなってしまったのかもしれない……。
そうなると、引き込もり一直線でその先にあるのは……ゴクリと唾を飲むのも一苦労な私は危機感で震える。
震えを察知した侍女さん達がパタパタと窓を閉め、肩にショールを掛けてくれる。
至れり尽くせりすぎるから。……いや、勤め先の娘が死にかけたのだから、当然なのか。でも、今のは怖いのもあるけど今後の事を考えて武者震いしただけだからね? あ、知らないよね。武者震い。むしろ、やる気出てるんだよ?
はい。これ、全て心の中の独り言です。
もうね。水が飲み込みにくいのでお察しの通り、声も出しにくいの。心の中は前世を思い出したせいか、かなり強くなったとは思うけど……基本的な性格はおんなじなんだよね。
生まれ変わっても、私は私だった。
ため息を一つついて、ベッドに座ったまま窓の外を眺めた。うん。せめて……。
「……せめて…………お庭に……出られたら」
そしたら体力つくかも。
今日も遊びにいらして頂きありがとうございました(〃´ω`〃)
明日も頑張ります〜!