ヴィルフリード 2
本当に使い魔って便利だ。
可愛いヴィーが毎日運動したり、頑張って食事している所なんかも良く見える。頑張っているね、ヴィー。
一人で立ち上がる事も出来なくて、ぷるぷるしている姿も絵姿にして残したい程に可愛いらしかった。
小さなフルーツを食べる姿も、花を愛でる姿も全てが可愛い。
婚約者として贈り物をすれば、どんな物でもとても嬉しそうにしてくれる。僕から贈られた物なら、何でも嬉しいと言って笑ってくれたのだ。
……なんだそれ。これ以上僕を喜ばせてどうしたいんだろう。
たまに悲しげな表情をするのは、ご両親が関わる時だ。何がそうさせるのだろうか。ヴィーの不安はみんな僕が取り除いてあげたいのに。
そんな(僕にとって)幸せな毎日の中で親戚らしい男がヴィーの所にくると聞いた。僕だって毎日面会の申請をしていても、まだ会えていないのに。いても立ってもいられなくなった僕は、なんとか理由をつけてヴィーの家に向かう事にした。会えたら嬉しいけど、会えなくてもいい。ヴィーに何かあったらいけない。とにかく近くに居たかった。
今回の二人は分家の子爵家で年の頃が近い為に、友達としてどうかと何回か会った事のある二人の様だ。
だがどうだろう。ヴィーの表情は暗く、うつむきがちなのが心配だ。その理由は直ぐにわかった。
二人は大人が居なくなると、ヴィーに対して高圧的にこの家の娘じゃないと言い出した。
は? 何を言っているんだ? この対精霊貴族の象徴であり、祝福の娘であるヴィーがこの家の娘でなければ、誰がこの家の娘だというのか……。
バカなのか? いや、仮にもこの家の分家筋なんだよな?
いや、何か意図があるのか? クソ。ヴィーを泣かせるなんて殺してやりたい。でもこの後ヴィーの口から、出た言葉に時が止まった。
「私……ヴィルフリード様と、婚約してる……よ?」
ああ、ヴィーちゃんと言えて偉いね。そして、事実なんだけど、ヴィーの口から聞くとまた嬉しいよ。
「「は?」」
何がは?だ。二人が驚愕の表情を浮かべている意味がわからない。
「はっ! お前なんかと第一王子が婚約なんかするはずが……は? えっ……いや、不義の娘のお前なんかが王子と婚約していいのかよ。不相応ですって断われよっ!」
「そうよ! 不相応よ!」
虫ケラが何かギャーギャー言い出した。本当にムカツクな。
「いつも言い聞かせてただろっ! いいか! お前はこの家の本当の娘じゃないんたからな! 俺の言う事を聞くんだぞ!」
「ヤダ……私……ヴィル様がいい……」
「なんだと! このっ……!!」
そう言って男の方がヴィーに手を上げそうになったから、使い魔を通してヤツを締め上げた。ヴィーに手を上げるなんて許せない。
それよりもヴィー……なんて?
……僕が良いって言ってくれたの?
ああ、このまま時が止まれば良いのに。ヴィーやっぱりヴィーが好きだ。
いけないいけない、あの男を無意識に締め上げ過ぎて、大騒ぎになっているね。治めに行かなきゃね。
「理由は私から説明させて頂きますよ」
そうして、おもむろにプレゼントの魔石を取り出す。もちろん、これに悪意ある魔法や物理攻撃から守る魔法はかけてあったけど、流石に記録魔法なんてかかってない。だから、先程使い魔を通して記録した音声を今記録させて流す。
「さて……私が言うよりも聞いて貰った方が早いかな? 先日の贈り物の一つに魔石がある。それは悪意から婚約者のヴァイオレットを守る様にいくつかの魔法をかけておいたんだ」
さあ、言い訳もないね。目撃者も多いし悔しいがコイツラは法律の元に裁こう。僕の仕返しは……その後だ。
可哀想なヴィーはそのまま、お母上に抱かれながらこの家の事や自分の事を聞いていた。小さな背中を震わせて泣くヴィーを見るのが辛いのと同時に、どんな姿のヴィーも可愛いくてその姿を目に焼きつけておきたい。使い魔を通して見るよりも鮮明なヴィーは、更に可愛い。
どうせなら、僕に抱きついて欲しいのに。
そんな事を考えていたら、ヴィーがお母上の胸からそっと顔をあげて振り返った。目元を赤く染めて泣くヴィーが可愛い。
「ヴィル様……ヒッㇰ……助けてくれてありがとう」
声まで可愛いとか、天使か。ありがとうって言った? いや、それよりも今、僕の事を愛称で呼んだ?
いやまあ、僕も勝手に愛称で呼んでるけど……そうか。うん。そうだね。僕達は相思相愛なんだね。
脳内はかなり嬉しくて、たくさんの言葉が溢れるけど、口に出来たのは「うん」のだた一言だけだった。
もっとなんとか言いたい事がたくさんあったけど、そんなの全部、全部吹っ飛んで……ただ可愛い笑顔のヴィーに見とれてた。
気がついたら、王宮の自室だった。
なんでだ!




