打ち合わせ
スタッフに案内された私はJPテレビ内の出演者に与えられた控え室にいた。1年ぶりの帰国でろくに打ち合わせをしておらず朝から次々スタッフがやってきては内容のすり合わせや確認をしていく。収録前から既に疲れを感じていた。やっと映画関係者が部屋から出たので一息つくためコーヒーを口にしてのんびりしていた。(トントン)扉を叩く音がなり「どうぞ」と声をかけると女性が中に入ってきた。
「波瑠ちゃん久しぶり!元気にしてた?波瑠ちゃんが出演するって聞いて会いたくて来ちゃった!帰国してたなら連絡してくれれば良かったのに!父も颯太も波瑠ちゃんに会いたいと言っていたわ!収録終わったら父の執務室に必ず行ってね!近々食事もしましょう!楽しみだわー!」相変わらず一方的に話してくる女性はここJPテレビで女子アナをしている従姉弟の渡瀬優里亜だ。あの災害で家と家族を失った私は東京に住む父方の親戚である渡瀬家で高校を卒業するまでお世話になった。渡瀬家はマスコミ一家で叔父はJPテレビの重役、娘と息子もJPテレビのアナウンサーとディレクター、叔母は結婚前までローカルテレビのアナウンサーだったと聞いた事がある。娘の優里亜は私の2歳上で東京に住む元気で明るいお嬢様というイメージだ。性格は変わらず賑やかで明るい。今は世の中の憧れである女子アナとして更に磨きがかかったようで人気者らしい。華やかな世界が苦手な私と違い楽しくて華やかな世界が好きな優里亜には適した職業だと思う。ただ昔から優里亜は私に付き纏い、私の周りの物や人に興味をもつので正直一緒にいると疲れるタイプだ。物や趣味などならまだ良いが友人などにも積極的に関わろうとするので昔友人達に嫌がられた。優里亜本人はまったく気づかないので少々面倒くさい。そんな性格は今も変わらずなので出来る限り距離をとるようにしている。相変わらずの優里亜は一通り喋りまくっていたが森元が入って来たのに気づくと「あらっ、あなた、まだ波瑠ちゃんの側に張り付いてるのね」と棘のある言い方をして部屋を出て行った。
「ありがとう。森元君助かったわ」困ったように眉を下げた私をみて「相変わらずな方ですね」と言って微笑んだ。
収録が始まり映画制作関係者と席についた。基本自由に話して良いと言われており小説の内容や映画化されるとどう表現されるのか気になるシーンを中心に会話した。キャストはまだ決定しておらずイメージを匂わせる程度に留めた。最後に主題歌の話になると映画監督が自信満々に「実は今回雨悲来先生の作品を映画化すると聞きつけて是非主題歌は自分にと連絡をしてきたアーティストがおりましてね、かなり大物ですから期待できると思います」みずから期待値を上げて撮影は終了した。
「雨悲来先生、今日はありがとうございました。次回はキャスト候補のオーディションになると思いますので何度かメールで連絡取らせてもらいますんでお願いしますね!」監督と脚本家の先生達と別れの挨拶が終わる頃近くにいたスタッフに声をかけられ叔父の執務室に案内された。
中に入ると叔父に両手を握られ「やあ、波瑠ちゃん元気そうで良かったよ。我が家を出てから全然連絡をくれないから叔父さんは寂しかったぞ」瞳にほんのり熱を感じるのは気のせいだろう。
「ご無沙汰してしまいすみません。取材したい事が多くてバタバタと過ごしていました」
「そうか、忙しいのはなによりだよ。今回はJPテレビの番組に出てくれてありがとう。君が出てくれると番組の評判が上がるから嬉しいよ。今度はうちの局のドラマをお願いしたいって颯太が話していたよ!是非頼むよ。」叔父は笑いながら言質を取ろうとしてくる。
「しばらくは決まった仕事が入っており忙しいんですよ」柔らかくお断りする。
「なんだー冷たいなー。家族も同然なんだからよろしく頼むよー。」
「ふふふ、私は自分の管理ができない様で仕事のスケジュール管理は全てマネージャーに任せていますのでそちらにお願いします。」叔父に向かい微笑んだ。
この人も昔から全然変わらない、、、。
「たまにはゆっくり食事でもしようよ。優里亜と颯太も楽しみにしてるんだ」なかなか話を終わらせない叔父と来週末に食事の約束をして部屋を出た。(また叔父に利用してされそう)どんよりとした気分でホテルに帰った。