夜空が澄んでいた
冷たい海風が頬に突き刺さる。
「ドームかぁ。」
思わず声が溢れる。
嬉しかった。けれどその反面悔しかった。
きっと私にはまだそのチャンスは巡ってこないだろう。
ぎゅっと手を握りしめ、歩き出した。
事務所までまだかなり距離はある。
さてどうしようか。スマホを取り出してタクシーを呼び出す。
近くのベンチに座ってスマホをいじりながら、タクシーを待っていた。
「あれ?鈴音ちゃん?」
聞き慣れた声がした。上を見上げると、凛人がいた。
「あれ、なんでりんちゃんがいるの?」
「さっきまでドラマの撮影、なんか夜の海って雰囲気が良いらしくてさ。」
はぁとため息をついていた。
「お疲れ様。」
「なんで鈴音ちゃんはここにいるの?」
不思議そうな顔で見つめてきた。
「あー、今タクシー待ち。さっきまで、ちょっとね。」
なるほどとニヤニヤした顔で凛人は問い詰めてきた。
「優陽とイチャイチャしてたのかぁ!」
「ちょっと声大きいって!」
突然名前を出されて動揺してしまう。
「はいはい。」
小さい子をあやすように凛人は言った。
「ねね、タクシー俺も相乗りしたらだめ?」
「え?マネージャーは?」
「なんか、さっきトラブルあったらしくて、、。」
相当困っているようだったので、了承した。
しばらく二人で話しながら待っていると、タクシーが到着し、タクシーに乗り込んだ。
「ここまでお願いします。」
りんちゃんは私の事務所の住所を運転手さんに伝えていた。
「ねぇ、りんちゃんはどこまで行くの?」
「俺も鈴音と同じところで降りるよ。」
当たり前じゃんみたいな顔で見られても困る。
私の事務所になんか用事でもあるのかな。そんなことを考えていると凛人が言った。
「鈴音ちゃん、今日音楽祭あるんでしょ〜?家帰ったら見よっかなぁ。」
「えっ?!ちょっと?!見なくていいから!」
「見まーす。」
そんなくだらない話をしているうちに事務所に着いた。
財布を出そうと鞄を開けようとしたら、凛人がサラッと払ってしまった。
タクシーを降りて、凛人にお金を払おうとしたがサラッと断られてしまった。
事務所までと言ったが、少し事務所から遠い場所に降ろしてもらったので、事務所まで歩く。
「ねぇ、鈴音ちゃん。」
「なにー?」
「優陽の事、どのくらい好き?」
いきなりそんな質問をしてきた。
「それはまぁ、うん。めっちゃ、。」
自分でも照れているのが分かるほど、恥ずかしかった。
「そっか。」
ニコッと笑って凛人は言った。
その後は特に話すことなく事務所まで着いた。
そうすると凛人は立ち止まった。
「ばいばい。またね鈴音ちゃん。」
「えっ?りんちゃん事務所に用があるんじゃ無いの?」
「あるわけ無いじゃん。笑笑」
笑って答える。
「じゃあ、なんで、、?」
「友達の彼女だからさ、なんかあったら困るでしょ。」
そういうことかと納得したが、申し訳ない気持ちになった。
「ありがとう、でもりんちゃんどうやって帰るの?」
「マネージャー呼ぶよ。じゃあまた。」
そういうと、凛人は歩き出した。