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北の塔


服を着替え、メリッサと別れて北の塔に向かったリナリアが軋む階段を上がって行くと、目の前に赤毛の女性が腰に手を当てて立っていた。


「おっそいわよ!!いつまで待たせるの?!新入りのクセに生意気よ?!」


「すみません、さっき到着したばかりなもので。私はリナリアです、お名前を聞いても?」


「口応えすんじゃないわ!あーもー!なんであたしがこんなヤツの世話なんかしなきゃなんないのよ!」


「あのー、見取り図とか貰えれば勝手に見て回りますよ?」


「はっ!そーやって逃げようとする奴がいるからアタシが来てやってんでしょ!?いいからついて来なさい!」


「…わかりました…」


「ふーん…アンタずいぶんしおらしいけど、だからってこっから出して貰えるなんて考えないコトね!サッサと来なさい!」


仕方なくズンズン進んで行く赤毛の女性について歩く。

辺りを見回すと、どの窓にも鉄格子が嵌っていて、中には鉄製の扉もいくつかあり、何の部屋か少し気になった。

あちこちから、誰かを怒鳴る様な、なじるようなキンキンとした甲高い叫び声が聞こえて来る。


(なるほどね…更生施設って訳か…)


「ホラ!ボーッとしてんじゃないわよ!アンタの仕事場はこっち!」


更に奥に進むと、突き当りが食堂になっていて、その隣が調理場と、食材の下拵えをする洗い場になっている。洗い場の外に出るとポンプ式の井戸があり、その横には積み上げられた泥付き野菜がいくつも山になっていた。


「コレ全部洗って運んどきなさい!夕方までに終わんなきゃ食事抜き!わかった?」


「あ、はい」


「ここじゃ泣き言言っても誰も助けてなんかくれないわよ!お嬢様だった頃の事は忘れることね〜平民と同じ事しなきゃ生きていけないんだもの!言い忘れてたけど、森の中からは逃げられないわよ?!魔獣に食われたくなかったらこの庭から出ないことね!」


「ご忠告ありがとうございます」


「じゃ、アタシはもう行くから!逃げようったってムダだからね!?」


「あのー、タワシの場所とごみ捨て場教えて下さい」


「…タワシはそこの小屋の中!ゴミはあっちの穴!」


赤毛の女性はそれだけ言って戻って行ってしまった。


(名前聞けなかったな…)


リナリアは腕まくりすると、道具小屋を開けてタワシを探した。ホコリだらけの小屋の手前の棚に、タワシやハサミ、箒などが置かれていたが、その奥には鍬や鋤などの農具や、ノコギリや金槌などの工具が詰め込まれていた。それらは触られた形跡がない為、ずっと放置されていたのだろう。


(おお!これは良い物見つけたわね!)


ひとまずタワシを掴むと井戸に向かい、ポンプのハンドルを動かして大きな桶に水を汲み上げた。


(よし!やりますか!)


ジャガイモ、ニンジン、カブ、タマネギ、キャベツにトマトにカボチャまである。


(すごいわね!ここで採れたのかしら?立派な物だわぁ)


根菜の泥を落とし、ジャガイモは芽と緑色になった部分を切り落として、ニンジンとカブは葉を切って水を張った桶に分けておく。

タマネギの皮をむき、キャベツの外葉を外し、カボチャは鉈で半分に割って中の種とワタを掻き出して、外側の傷んだ所を切り落としておく。


(……終わっちゃったわね…)


本物の貴族のお嬢様ならいざ知らず、田舎貴族のリナリアの家では、食事の支度も洗い物も家族全員でやっていた。

2時間もしない間に、全ての野菜は下拵えまで終えられて調理場に運ばれてしまった。


(えーっと…ゴミはあっちか!)


大量に出たゴミを抱えて、さっき教えてもらった方へ行くと、確かに大きな穴が空いていて無造作に色々な物が捨てられていた。


(こ……これは……!!!)


それを見てリナリアは持っていたゴミを足元に落としてしまった。


(なんてこと!これは……これは……)


「宝の山だわァァ!!!」


思わず叫んでしまったリナリアだったが、聞いている者はいないので気にすることも無い。

リナリアは目を輝かせ、目の前のゴミの山に突っ込んて行った。


「これはカボチャのツル!もう花まで咲いてるの?

こっちはウリね?!スイカまであるの??豆が何種類生えてるのかしら?ニンジンの花が咲いてもう種が取れそうじゃない!ジャガイモがあっちにもこっちにも!大豊作だわ!これは…まさかリンゴの木?!こんなに大きくなって…レモンまで発芽してるわ!あぁ!幸せ過ぎて困っちゃう!!」


台所から出るゴミの、種や生きている部分がここに溜まり小さな菜園となっていた。


(でもこのままじゃゴチャゴチャし過ぎてみんな枯れてしまうわね…畑を作らなきゃ!)


こうして誘拐される様に人違いで修道院に放り込まれたリナリアの勝手な菜園計画が始まったのだった。




夕刻近く、食事担当のシスター達はいつもよりキレイに洗われ、下拵えまで済んだ野菜の山に驚いていた。しかし、夕食の時間になってもリナリアは現れなかった。


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