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新たな聖女






リナリア達が談笑していると、ノックの音がして何人ものメイドと城兵が入ってきた。


「失礼致します。これより王妃殿下よりお話がございます!」


(((王妃殿下!??)))


驚くリナリア達を、シルヴィアがまた目で制する。


(表情を変えてはなりません!常に冷静な微笑をたたえていなさいませ)


全員が立ち上がり、かしずいて待っていると、足音もなく王妃が現れ、いつの間にか用意されたソファに腰掛けると、他の者をさっと下がらせた。


「顔を上げて、楽にして頂戴。ここにはプライベートで参りましたのよ」


シルヴィアの合図で顔を崩さず、座る3人。

アルメリアは落ち着いていて、王妃と視線を交わしていた。


「お久しぶりでございます、殿下」


「元気そうで嬉しいわアルメリア、あなたの活躍を報告書で読んだ時、とても懐かしかったわ。」


母と王妃は、かつて同じ学園のクラスメイトだったという。

幾度も表彰を受け、皆の憧れだったアルメリアにいつも悔しい思いをしていたとか。

この話にはリナリアも初耳で驚いた。


「それはそうと、本題に入りましょう。まずは王妃という立場から、この国の危機を救って頂き、本当に感謝しております…それから……リナリア、貴方には本当に迷惑を掛けました。これは一人の至らない母親として、謝罪をさせて下さいな…」


王妃にじっと見つめられ、リナリアはガチガチに固まった。


「あ!いえ…そのような…お言葉は……」


「私は息子の教育を間違えました。公にはしておりませんが、第一王子ラインハルトはしばらく療養という体で、監視付きで国領の一部へ送られ、そのまま廃嫡となるでしょう。どこで道を間違えたのか…あら、ごめんなさい!今のは聞かなかったことにしてね?!」


「ぃあ!は…はい…え……と…」


(もったいないお言葉でございます!)


あまりにもぎこちないリナリアに、シルヴィアの肘が入ると少しは会話ができるようになった


「も、もったいないお言葉でございます!私は自分にできることをしたまででございますので、何かしらのお役に立てたのであれば光栄です!」


ちら…と母とシルヴィアの顔色を伺うと、まぁ落第はしていないなという点数は取れたらしい。


「それからね!?ドロシー、そしてメリッサ!お二人をここへ呼んだのには実は訳があるの!」


王妃はにこやかに話を続けた。


確かに、ひと月前までは現段階で平民の二人は証言者になることはあっても、直接城に行く事はないと思っていた。

が、配られた召喚状には、しっかり二人の名も記載されており、首を傾げた記憶がある。


「実はね、この国でも他国でも、最近は聖女が持て囃されて、どんどん史実や記録と誓う姿の象徴が独り歩きしていてね?!この際ブレンダム国でも、正式に認定してみてはどうかという話になったのだけど…」


いつの間にか広まった聖女“と、その高魔力保持者”説…

社交界でも、魔力の多い女性が聖女と呼ばれ、羨望や称賛を浴びているという。

そのため、特に魔力の強い貴族女性達は、更に自身の魔力を磨こうと、魔石や魔導具、魔物の素材を買い漁り、結果、密猟による利益を加速させていたらしい。

なら国が適切な基準で選定し任命した方が、無駄な争いや諍いも減るだろうという考えだ。


「それでね!今回初めての聖女認定はシルヴィア、ドロシー、メリッサの3人を指名したいのよ!」


王妃は「したい」というが、間違いなくこれは希望ではなく、王家からの命令だろう。


「発言をお許しください殿下…何故私達をご指名なのてしょう?」


シルヴィアが平静を装い、王妃に質問した。


「ご存知かもしれないけれど、魔の森を守るボーデン家を表舞台に出す訳にはいかないの。その上で一番大きな功績をお持ちなのが貴女達なのよ?!」


魔素に侵された者達を、敵味方関わらず聖なる光で癒やし、救った清らかな乙女達。

そういう話なら皆が納得する聖女の姿となるだろう。

今後の選定も、人命の救済や国の繁栄に繋がる行為を基準にすれば、国益にもなるだろうという魂胆だ!と、王妃はにっこりと答えた。


(いや…ほぼ敵しかいなかったけど…)


(私達…バート様に言われた通りにしただけなのに…)


「身に余る光栄にございます。お二人も、腹を括りなさいませ!私達3人、王国の聖女となりますよ?!」


(マジかぁ………)


(どどどどうしましょう……)


顔を引きつらせる二人の姿勢を正し、シルヴィアが胸を張る。


「正式な認定式はまた改めて行うわ。それまではここだけの話にしておいてね!?それと最後に…アルメリア、私達からはこんなものしかお渡しできませんが、どうか受け取って頂戴…」


すっと侍女から差し出されたトレイの上には、金の輪で留めた豪華な巻紙が乗っていた。


「ありがたく頂戴致します。殿下、私共はこれからも良き臣下として王家に尽くす事を誓います」


再び跪くアルメリアに続き、皆が一斉に傅くと、王妃は微笑んだまま、「それではこれで失礼しますね」と、また音もなく部屋から去っていった。


その後ドアが閉まると共に、リナリア達3人は崩れ落ち、シルヴィアとアルメリアに再び説教を食らうのであった。


「良かったわねぇリナリア、王妃様にお言葉を頂くなんて、貴族の娘なら一生の思い出よ?!」


「お二人も、これで私達3人一蓮托生ですわね」


「ところで、何を頂いたの?」


アルメリアが広げていた巻紙を、リナリアが覗き込む。


「まぁ今回の慰謝料というか迷惑料というか口止め料というかそういうモノよ」


どうやら納得の上をいく内容だったらしく、ほくほく顔のアルメリアは紙に再び封をしていた。


「そうそう、明日は別の裁判の結果が出るから、それも行かないとね」


「まだあるの?!」


貴族の裁判はこれにて終了。

明日は、貴族では無い者達の裁きを聞かねばならないらしい。


「そうがっかりしないで、直ぐに済むから。さ、お茶のおかわりでも頂きましょう?!」


その後は、次々と運ばれてくるお菓子や軽食を、思い切り楽しんでいると、ヘロヘロになった男性陣が戻って来て、ようやく堅苦しい王城から出ることが出来た。


「あぁ〜〜〜……空が眩しいわ!」


「もうヘトヘトよ…直にでもベッドに飛び込みたい……」


馬車の中では、皆ぐったりとして、足も投げ出し騒いでいた…








「お疲れ様、大丈夫だったかい?メリッサ!」


「とても緊張したわ。でも平気よ、ロビンス様こそ大変だったでしょう?!」


気がつくとメリッサをエスコートし、さっさと馬車に乗り込むロビンス。

二人の距離は更に縮まっているようだ。


(多分だが…アイツ、父に黙って婚約指輪を用意してるぞ…)


(早くない?!色々と!)



「ちょっと!白目向いてんじゃ無いわよ!そんなにくたびれたの?ほら、こっち寄っかかっていいからガクンガクンしないで!!」


「うぅ、ゴメン…事務仕事は苦手で…」



(ジェイとドロシー嬢もお似合いな気もするんだがなぁ)


(アレはアレでお互い無自覚らしい…)


(じれじれだな…)







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