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学園騒動






半月以上のドレス生活から一変。

落ち着いたワンピースとジャケットを渡され、久々身軽になった一行はついに王立学園の門前までやって来た。


「うわぁ大きい!」


「門番とか居ないのか?」


「ここの管理は全部魔力で操作されてんのよ。リナリア…頼むから迂闊に動かないで!?」


いきなりドロシーに羽交い締めにされ、驚いたリナリアだったが訳を聞いて両手を引っ込め小さくなった。 


「門に迎えが来るはずですが…」


「いいよ入って待ってよう?!」


そう言うと、ドロシーは門の真ん中についている石に手を当て何かを呟いた。

すると門がひとりでに開き、4人が通るとまた閉まった。


「今のはなあに?」


「学生番号と訪問者の許可コード…」


「え?!ドロシーってここの生徒?!」


「一応ね。とうの昔に中退の受理はされてるし、部外者なんだけど、過去一度でも生徒だった者には利用権利のある施設がいくつかあるから、退学処分でもされない限り入るだけならできるの」


「セキュリティが甘くないですか?」


「言ったでしょ?入るだけならって。中で好き勝手はできないようにあっちこっち魔力網が張ってあってね、何かあれば直ぐ様警備が駆けつけるわ」


ドロシーの案内で建物の中に入り、学長室に向かう途中もリナリアはガチガチに緊張していた。


「床から天上までびっしり魔導具?!」


「すごいな!俺達だけじゃ一歩も進めないぞこの建物!」


ジェイでは無反応、リナリアでは破壊の一択。


「ほら、こっち。そこの手摺にも魔力が這ってるから気を付けて」


ドロシーに案内され、着いたのはノブもハンドルもないアーチ状の扉の前だった。


「一応ここが職員室みたいな所。でも皆自分の研究室に戻るのがほとんどだから、あんまり人いないかもね」


ノックを3回。それから四角い石に指を当てると扉がスッと横に開いた。


「失礼します」


声を掛けると、残っていた数人がこちらを見た。


「こちらの学長様よりお手紙を頂いて参りました。ボーデン辺境伯爵の使いの者ですが…」


それを見て目を丸くする職員達。

一斉にザワザワと騒ぎ出した


「き…君達どこから入って来た?!」


「え…?正面入口からですけど…」


「馬車停めには何の反応もなかったぞ?!」


「いや、門を2人通った跡がある…なのに訪問者の申請が二人分?!」


「あ、私元学生なので、認証コードで入りました。訪問者申請も」


「しかし、ここに至るまでの魔力痕跡は2人分のみだ!」


慌てる職員達にリナリアは首を傾げる。


「どういうこと?」


「普通ですと、魔力の有無に関わらず、誰しも微弱な魔素の反応があるのですよ。それを魔導具などで感知して侵入者などを発見しているのでしょう」


そのハイテクセキュリティが、ボーデンの血筋の前でまさかの笊と化した。


「ひとまず学長が送ったという手紙はお持ちですか?」


「はい、こちらに」


手紙を見せると、難しい顔をした職員に学長室へと案内された。


本棚に囲まれた部屋の中で、初老の男性がにこやかに頭を下げた。


「ようこそ、学長のルブルム・ルーチカと申します」


「ジェイ・ボーデンです。父バジルに代わり参りました。こちらは妹のリナリアと従者のバートです」


「どうぞ、お掛け下さい。早速ですが依頼の話をさせて頂きます」


ツルリとした顔の人形が、紅茶の用意をして下がる。

リナリアはそれだけでビクビクしていた。


「さて、まずはこちらを…」


学長が合図すると、魔導人形達と共に数人の教員が大きな台車を引いてきた。

そこには見覚えのある巨大な魔導具の残骸が乗っていた。


「魔導師庁が機能しないため、こちらで回収させて頂きました。卒業生の最終課題に良いかと思いまして」


「それでですね、これを破壊した際の様子を詳しく教えて頂きたいのですよ!」


「そもそもこれは本当に作動したのですか?!」


詰め寄る教員達。

すると、バートが珍しく眉根を寄せて呆れたように話し出した。


「……これが卒論対象とは…こちらの学園は随分甘い指導をされているようですね……」


「なんだと??」


「こんな不格好で雑な木偶人形で満足するとは…情けない!!」


「何を仰る?!これは魔導師庁の最高傑作と…」


「はっ!冗談もそこまでにしていただきたい!!これが最高傑作?貴方方のレベルはその程度ですか!よろしい!今から詳しくご説明致しましょう!!」


いきなり始まったバートの魔導具講座は、その場では収まらず、急遽、講義室を貸し切り、その場にいた教員だけでなく

いくつもの授業が中断され大勢の生徒と研究員が集まって、かつてない程の白熱した講義となった。


〜〜この様に、複数の効果を纏めることで回路数を減らし、負担を軽くする事で魔力の消費量を抑えることが可能です。

この魔導兵器の弱点は、動きが緩慢で、他者の魔力による干渉が可能な点です。この場合の対策は〜〜


「すごい熱気…」


「ああなると止まらねぇんだ…アイツは」


「そういえばメリッサ達もすごい勉強してたものね」


放置された3人は、人気の無い食堂で昼食を食べ、サボり学生がたむろす中庭を周り、一休みしてからバートの所へ戻った。

割れんばかり拍手と、人いきれ。

涙を流す者までいる講堂からバートを引き取り、ようやく依頼達成となった。


「素晴らしい講義でした!!我々が如何に遅れた存在であったか痛感致しました!なんとお礼を申し上げたら…よろしければ今後もまた講師としてお招きしたいのですが?!」


「……そうですね、私も仕事がありますので、臨時の講師としてなら…」


「是非ともお願いします!!」


机に頭を擦り付けんばかりの学長と別れ、4人は再び廊下に出た。


「後ろから誰かついてくるけど…」


「ここのセキュリティの責任者だって。俺達が引っかからなかったから直に見に来たんだろ?」


セキュリティ責任者は、廊下を渡り階段を降りて正面玄関から外に出ても、相変わらず魔力反応は2人分しか示さない事を確認すると、膝から崩れ落ちてしばらく呆然としていた。


「ここの管理は、どんな侵入者も他所からの潜入者も逃さない鉄壁の警備システムなんだって。王城より厳しいって話だったんだけどね」


「いや…俺達以外はちゃんと発見出来てるならいいじゃん…?!」


「では次の依頼人の場所へ参りましょう」


「「まだあるの?!」」



馬車に乗り、街中の更に人通りの多い中央街の広場。

そこに建っていたのは大きな教会だった。


「ここ…?!」


「聖エレンシア教会です。ブレンダム王国で一番大きな教会で、女神ディーナ信仰の中枢です」


「教会が何の用だ…?」


「ボロネーズ修道院の一件について、正式な謝罪の前に当事者にお会いしたいと」


中に入り、聖水で両手を清め、女神の像に祈りを捧げると、シスターが静かに現れて案内してくれた。


通された応接間では、深々頭を下げた司教が待っていた。


「皆様よく起こし下さいました。ボロネーズ修道院での話は聞いております。真に申し訳ないことを…」


「でも、そのおかげで今回の悪巧みが明らかになりましたし、修道院での生活もとても快適でしたから!」


「それで、今回の依頼というのは…?」


「それなのですが…こちらをまずはご覧下さい…」


司教が出してきたのは装飾のされた短剣だった。

宝石や銀の細工に繊細な模様が彫られている。

箱に入ったそれを取り出し、包んだ布ごとジェイに差し出される。


「これは?」


「聖なる乙女の剣と呼ばれている物で、この教会が所有する聖物です」


「魔導具…ですか?」


「わかりません。かつて聖女となった乙女より賜ったとされ、聖女信仰のシンボルのひとつとなっています。これを…」


何か言いかけた司教を他所に、ジェイが短剣の柄を手に取った。


(抜けないな…)


(抜けたら聖女認定的なヤツですよ…有名な聖女伝説のひとつです)


(リナリア抜けんじゃない?)


(どうかな?)


リナリアが手に取った途端。



………シャキッ………



(((抜けた…………)))


「あ、本物の剣じゃないんだ。先は尖ってるけど刃が研がれてないわ。本当に飾りなのね」


「ぬ…ぬぬぬ抜けたァァァッ!!???」


腰を抜かす司教と、おろおろするシスター達。


「あぁぁ!!ごめんなさい!!やっぱりコレ魔導具でした?!壊しちゃった??!」


「……うーん…どうやら魔石の解除が条件で抜けるようになっていたようですね。魔導具の一種ですが、壊れたわけではありませんよ」


バートは冷静に短剣を鞘に納めると、次はドロシーに手渡した。


「あ…抜けない!」


「柄の魔石が魔力を吸収するようですね。その魔石の中の魔素を完全に抜かないと、鞘から外れない仕組みなのでしょう」


魔力持ちはもちろん、魔力無しでも手も足も出ない代物を唯一扱えるのは聖女のみ……とされてきた短剣。


「はい、リナリアもっかいやってみ?!」


「あ、抜けた!」


「2回もぉぉぉ!!????」


空いた口が塞がらない司教を余所に、抜き差しを繰り返すリナリア。


「あああ貴方様は…聖女様であられましたか……!!!」


「面倒な事に巻き込まれましたね…」


「コレ、どうするつもりだったんですか?」


「…聖女の名を騙る不届き者が裁判に出るとお聞きしまして、特別に判定にこちらをお使い頂ければと…」


「真偽は別として、教会は認めないと言えるわけですね」


「少しでも有利になるならと思いましたが…まさか…ボーデンの姫君が真の聖女とは!!!」


「えぇ…………」


新たな問題に頭を抱えつつ、司教との対話はもうしばらく続くのであった。





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