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決戦






次々と動かなくなる魔道具。

慌てふためく魔道士達を他所に、リナリアは最後の大きな魔道具へと向かおうと振り向いた瞬間


「これ以上貴様の好きにさせておけるか!」


残っていたリーダーと思われる魔道士が、リナリアの腕を掴んだ。


「あっ!」


振り解こうとするが、ギリギリと力を込められ、離すことができない。


「貴様、どうやったか知らんが、魔道具を破壊することが出来るようだな?!だがそれもここまでだ!見ろ!我が魔道士庁の最高傑作を!!」


さっきまで機械の塊のようだった魔道具が、ガタガタと変形し何やら手足のようなものが生えていた。


「この魔道人形は術者の命に従う最強の殺戮兵器だ!貴様らの悪足掻きもここまでだな!」


「じゃぁ、やってみなさいよ!」


この人形が不格好のまま未だ動かないのは、恐らく魔力が足りないからだろう。

やるならさっさとやればいいものを、最後の一手を躊躇っているということは、恐らく道具としても兵器としてもまだ不安定なのではなかろうか。


「それとも単なる虚仮威しなの?動かなきゃなんの意味もない木偶坊じゃない!」


リナリアに煽られ、魔道士が遂に動いた。


「この阿婆擦れが!!思い知るがいい!我等が兵器の力を!!」


魔道士はリナリアを突き飛ばすと、両手を人形に向け、魔力を注ぎ込んだ。

いや、注ぎ込もうとしたというのが正しいかも知れない。

人形は相変わらず不格好のまま、だらんと手足を垂らして微動だにしない。


「な…どういうことだ?!何故動かない?おい!」


「あー無理無理!あんたウチの妹に触ったんだろ?じゃぁもう魔力なんか残ってねぇよ。諦めな?!」


その後ろからヘラヘラ現れたのはジェイだった。


「随分掛かりましたね?!それで?得物は見つかったのですか?」


「あ……うん……一応……」


ジェイは後ろ手に隠していたシャベルをチラッと見せた。


「武器を探すと仰って、持ってきたのがまさかの…」


「あれだけ悩んでシャベル…」


「すいませんでしたぁ!でもみつかんないの!!俺、元々森林とか岩場で隠れて罠とか弓とかナイフで獲物仕留めるのが専門だったからぁ!真っ向勝負なんて猪討つ時くらいしか無いし!一番手にしっくり来たのがコレだったのぉっ!!!」


「ふざけるなぁっ!!!」


項垂れ膝をつく魔道士の叫びが、3人の会話を遮った。


「貴様!私に何をした!!」


「別に、何もしてないわ」


「嘘を吐くな!!私の…私の魔力が…」


「あなた方は本当に何もご存知ないのですね…」


バートとジェイが倒れた魔道士を捕縛し終えると、いつの間にか周りの日和見兵達もいなくなっていた。


「奴ら、魔道具が動き出すと巻き込まれまいと我先に降伏して来おったわ。使い捨てにされるのがわかったんじゃろう。今スレイプニルに見張らせとります」


「ありがとう。もしこっちに向かって来る奴がいたら通してやってくれ」


「承知しました!」


そう言うと、タオ爺も橋向うに放っぽってきた兵達の様子を見に戻って行った。


「さて、残るは…」


場違いな白馬車が一台。

皆の視線が向いた時、扉がいきなり開いて綺羅びやかな服の男が飛び出してきた。


「この悪党共が!我が名はブライアン・ベランタ!今こそ悪を討つ……」


走りながら言い掛けたその時


「ガフガフガフ!!!」


庭をぐるぐる走っていたルーが横から突っ込んできた。


「ごふっ!!」


横滑りに倒れると、そこはボロ雑巾と化したクリスティアンの上だった。

ルーは邪魔な荷物を離すと、リナリアの側へと戻って行く。


「クリスティアン!!こんな姿になって…」


「ブラ…イア…ン……おれに…かまうな…ま…まどう…ぐ…を…」


「わかった!!君の犠牲は無駄にはしない!」


ブライアンはクリスティアンを追ってきた従者達にその場を任せ、また元気に走り出しだ。

そして例の魔道兵器に辿り着くと、渾身の魔力を注ぎ始める。

が、それより先に魔道兵器を弄っている者がいた。


「バート、それ動かせるん?」


「そうですねぇ、複雑に出来ておりますが機構は基本と変わらないようですし、魔力さえ充填できれば…」


「田舎魔道士が汚い手で触るな!!」


ブライアンが魔力を放出し切ると、魔道兵がおもむろに立ち上がった。


「おお……遂にやったぞ!我らの最終兵器よ!さぁ、悪しき者共を地獄へ…」


ギゴゴゴ………


魔道兵はそんな言葉を遮って巨大な腕をブライアンの脳天目掛けて振り降ろした。


ドゴォォォン!!!


「ウワァァァッッ!!!」


間一髪で避けたブライアンは、転がりながら地べたを逃げ回っている。


「あ、できましたね!でも細かい動作は土台無理のようです。調整が効かないのは細部の作りが雑なためですね。手足をぶん回すしかできません」


「いや、充分戦力じゃないか?」


いち早く魔力の充填に成功したバートが、先に主導権を握り、魔道兵を動かした。


「こ…こんな…はず…では…」


クリスティアンも従者達に担がれ、ただただ逃げるしかない。


「こうなったら……ルナリア!!」


ブライアンが馬車に向かって大声を出した。


「ルナリア!例の魔道具を渡してくれ!」


すると馬車から少女が顔を出した。


「ですが…それでは皆を巻き込んでしまいます…」


「構わん!あの機械兵を止めるにはそれしかない!大丈夫、私達は君を信じている!ルナリア!」


「…っわかりました!ブライアン様!」


馬車から走り出てきた少女が、小さな球状の魔道具をブライアンに手渡した。


「馬車に戻れ!」


「はいっ!」


小走りに不安げな顔で振り返りながら馬車に戻り、乗り込む際祈るような格好をする。


「あれが……私を陥れた令嬢…?」


「ルナリア孃で間違いないようですね」


「名前以外ぜんっぜん似てねぇな……」



「ハハハハハッ!貴様らも道連れだ!覚悟しろっ!!」


ブライアンは手にした魔道具を地面に叩きつけた。


ブワッと見えない何かが吹き出て、悪寒ににも似た感覚が体を突き抜けていく。


「しまった!バート!!」


「これは……魔素…です…か…」


バートが胸を抑え、崩れるように倒れるのをジェイが受け止めた。


「私がわかる?意識を保ってて!気を抜いちゃダメよ?!」


リナリアもバートの手を握り、必死に話しかける。

次第に、バートの体から力が抜けていった。



高濃度の魔素が辺りに広がり、ブライアンもクリスティアンも従者達もバタバタ倒れていった。


ゴゴゴ……


魔素に晒されると魔道具も壊れてしまう。

魔道兵も動きを止め、その場で固まってしまった。


「ハハ…ハ…これで…貴様らも…終わり…だ…?」


息も絶え絶えのブライアンが顔を上げると、そこには慌てふためくボーデン兄妹が動き回っていた。


「なん…だ…と…?!!」



「バートしっかりして!とりあえず建物の中に入るわよ?!」


「体はどうだ?まだ苦しむか?」


ジェイとルーがバートを担ぎ、代わりにシャベルを受け取ったリナリアがブライアン達をキッと睨みつける。


「故意に魔素を流出させる行為は重罪よ?!ましてや魔道具に仕込むなんて…これで悪党じゃないなら一体なんなの?!」


「なぜ…動ける…貴様…」


そこへ、派手な杖を手にした少女が馬車から飛び出てきた。


「ブライアン様ぁっ!今助けま…」


「せいやぁッ!!!」


内股でちょこちょこ走り寄ってくる場違いなドレス姿に向かって、リナリアがシャベルを振り降ろした。


バキンッ


「キャァァァー!!」


砕け散る杖と、倒れ伏す少女。


「せ…聖女の杖が……」


「は?聖女?!」


「この杖がなかったら、魔素を祓えないわ!どうしてくれるの?!」


「それが魔素を消す魔道具だったわけ?」


「魔素で苦しむ人々を救う聖女の杖よ!!なんてことしてくれるの?!」


「ふざけんなぁっ!!」


リナリアはルナリアの頬を引っ叩いた。


「魔素は一歩間違えば命を奪う猛毒よ!!それをぶち撒けといて救うって?!何様のつもりよ!?」


「わ…私は、聖女になるの!この国を救う聖女になってラインハルト様と…」


「お貴族様の聖女ごっこなら余所でやんなさいよ!!ボーデン家が罪人?!オマケに私は悪女ですって?!どっちが犯罪者よ!!」


「う……うぅ…」


泣き崩れるルナリア。しかし、ただ泣いているのではない。

だんだんと手足が痺れ、息が浅くなる。


「く…くる…し……」


「魔素症の初期症状よ。仕方が無い……」


リナリアは倒れるルナリアの体に手を置いた。




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