企む者達
ボーデン伯爵へ
この度は、王都の貴族達が本当に申し訳無い事をした。
長きに渡り犯してきた罪の数々、膝元に置きながら気が付かなかった私にも非があったと認めよう。
そして沢山の報告ありがとう。
全て目を通し、貴族院と裁判所で罪状の精査と、関係者を洗い出し中なので、少し待って欲しい。
( 気付かなかったのはお互い様なんだし、あんまり急かさないで欲しいな!?)
それと、もうひとつ、今回の一番の問題であったボーデン伯爵令嬢を誘拐して、冤罪を被せようとしていた貴族子女達が、郊外へ逃げてしまったので許してほしいです!
たぶん馬車でボーデン領に向かっていると思われます。
自分達の計画が誰にもバレずに進んでいると信じているらしく、どうやらボーデン伯爵令嬢を直接脅しに行ったようです。
こちらも馬車で追いますが、たぶん連中の方が先に着くと思うので、対処してもらえたらありがたいです。
やりすぎない程度にならギタギタにしても良いと許可を取りました。
お手数を掛けてすみませんが、よろしくお願いします!
マーシャル・リッチ・ブレンダム国王より
「と、まぁ、国王からザッとこんな感じの手紙が王都の別邸に届きました」
「ザッと過ぎませんか?」
ボーデン領のひとつ手前の穀倉地帯、アルバトロス領の本邸にて。
「領地を閉ざすのはひとまず様子見ですかね」
「腐れ貴族共の処罰次第という所かしら?アルバトロス家にも慰謝料が払われるそうですので、ひとまず鉾は収めましょう。その代わり、うるさいコバエ共が来たらギタギタにしてやりなさい」
「ジェイにも報せましょう。最後の一撃はリナリア達にこそ残しておいてやらないと」
「貴族相手でなく、罪人を処罰するつもりでおやりなさいと伝えて。手加減など無用だと!」
「ーーーという内容の手紙がアルバトロス夫人より届きました」
昼近く、鳩の蒸し肉をむしっていたリナリアにバートがそう告げた。
「そう…王様から謝罪の手紙ねぇ…」
「予想を遥か上回る大事感ですね……」
一緒にカブを剥いていたメリッサも、顔を青くしていた。
「魔導士の連中が帰ってからやけに静かだと思ったら、あっちは既に大詰めみたいだな」
「ここまで終わってるのに、やらかした本人達はまだ古い情報に踊らされてるのね」
「可哀想に…」
鍬を担いだジェイが憐れむようにつぶやいた。
「それから、旦那様とアルエット様が見届け役としてこちらにいらっしゃるそうです。」
「高みの見物する気満々か?!」
「いえ、露払いに来られるそうです」
「相手さんそんな大所帯で来るの?」
「馬車が6台に馬が7頭こちらに向っているそうですので、かなりの数になりますね」
「なら、支度は万全にせんとですわなぁ!」
そう言ってタオ爺はガハガハ笑いながら、スレイプニルのいる厩へ向って行った。
「ルー、私達も気を引き締めないとね」
「リナリア!あなたは私達と隠れていないと…」
「そうね、院長先生にはここを少し騒がせてしまうことをお伝えしなくちゃ!大丈夫、何があっても私達が必ず守るからね!」
リナリアは鳩の骨をバキバキとへし折りながら、メリッサににっこり笑いかけた。
王都から辺境地ボーデン領へ向かうには、4つの領地を跨いで進んで行かねばならない。
辺境に領地を持つ4家門。
郊外のディール伯爵領とアルメリア伯爵領。
その先、辺境のアルバトロス侯爵領と最奥のボーデン辺境伯爵領。
王都から来る者達は、この領地間で道料としての関税を払い、安全な道を通ることが出来る。
盗賊なども居ないわけではないが、各領地の警備は厳しく、滅多に出くわすことはない。
それより魔物や魔獣に襲われないための自衛が必須とされていた。
王都を出て最初の領地、アルメリア伯爵領は長閑な穀倉地帯で、如何にも田舎といった風景が続いていた。
特に目新しい物も無いので、魔導士庁の馬車はいつもここを素通りして行く。
「こんな田舎の家畜臭い宿など、泊まれたものではないからな」
「次の町はもう少し大きくて、宿も広いからそこで休もう!」
「お気遣い、嬉しいですわ!」
白い馬車の中では男が3人と女がひとり。
件の罪人、クリスティアン、ブライアン、アルセインとルナリアが乗っていた。
「ボーデン伯爵の元へ着いたら、私が公爵家として裁きを与える!そうすれば我らは一躍英雄だ!」
「罪人を捕らえ王の前へ突き出せば、王太子殿下の不当な扱いも解消される事でしょうね」
「そうすれば、いずれは俺達5人でこの国を統治するのも夢じゃない」
「魔物素材も捕り放題で、僕の研究も捗るだろうなぁ」
そんな会話がなされている後ろから、黒塗りの厳つい馬車が魔導士と荷物を乗せて続く。
その中の一つにベランタ侯爵が、革の鞄をしっかりと押さえながら揺られていた。
(いよいよだ…憎きボーデンを貴族の座から引き摺り下ろし、私の方が正しかったと国中に認めさせてやる…何が魔獣の保護だ…あんな化け物など気にする必要はない!私は更に強大な魔力を手にし、いずれは国を動かす力を手に入れるのだ!この計画は誰にも邪魔させん…)
ベランタ侯爵は拳を握り、怪しい笑みを浮かべていた。
「そう言えば、武器ってどうするの?」
この日の昼食は、鳩肉とレタスとカブの和え物、イノシシ肉の串焼き、トウモロコシと玉ねぎのスープ、チーズたっぷりのパン。
それらをもぐもぐ食べながら、リナリアがジェイとバートに尋ねた。
「相手が魔道士なら、向こうの武器は当然魔道具だろ?対策とかどうする?!」
「基本は発動される前に討つ事ですが、そうですね、今回の魔道士達は私が対処しましょう」
「お一人で、危険ではございませんか?」
シルヴィアがスープにパンを浸しながらバートを見る。
「策はあります。メリッサ様とシルヴィア様が磨いた魔石で連中を足止め致しますので」
この数日、メリッサとシルヴィアはバートの元で魔石の研磨よ特訓を続けていた。
ルーとジェイが獲ってくる獲物からは、ごろごろ魔石が出てくるため、素材には困らなかった。
「兄さんは狩り用のナイフと弓しか持ってなかったじゃない?」
「うーん…銃は火薬の匂いで魔物が逃げるから置いてきちゃったんだよなぁ……剣も…あ!隣の要塞に飾ってあったヤツ使えるかな?」
「あれは大剣ですが、実装用ですので充分使えますよ」
「うん、じゃそれで!」
「ワシは持ち前のがありますじゃ!」
「私はどうしよう…?」
「ルーがいるからいいんじゃないのか?」
「頼り切りって訳にもいかないでしょう?」
「コーネリアスもいるし、アレクサンダも来るし、なんならスレイプニルがヤル気満々で待機してるから大丈夫だろ?」
「そうねぇ、まぁ、なんか考えとくわ」
「スレイプニルって、あの黒いお馬さんのことですよね…?」
「はい、大変気性が荒く、かつては大爪熊と渡り合い、何度も我が家の窮地を救ってくれた暴れ馬です」
「ひぇっ……あんなにおとなしい子が…?」
「頭が良いので、自身の敵味方の区別がしっかりしてるんですよ」
「コーネリアスも強いし、アレクサンダは言わずもがなだからな!」
「そうなると一番の不安要素はジェイ様ですね」
「え…?」
「いきなりやられちゃわないでね、兄さん…」
「……善処します……」




