魔導士の受難
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お父様へ
心配をお掛けして申し訳ありません。
私は今、とある修道院におります。
兵に攫われた時はどうなる事かと思いましたが、魔導士様が見つけて下さり、身の安全を保証して下さいました。
私は、これから王家と魔導士様のために、しばらく大事なお役目を任される事となりました。
事情はまだお話できませんが、貴族の娘として誉れな事であると思い、伯爵家のためにもせめてお役に立てればとお引き受けしました。
その間お父様やお兄様達にお会いすることは出来ませんが、必ず家へ戻りますので、どうかお許し下さい。
ここでの生活は慣れない事ばかりですが、不便なく無事に過ごしております。
どうぞご安心下さい。
あなたの娘リナリア・ボーデンより
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「良いですね。本物より殊勝な所が特に」
「万が一これで伯爵様がリナリア様と間違えられる可能性は?」
「皆無ですね。我等の連絡手段は特殊ですから。笑い飛ばして回し読みしたらなりすましの証拠として裁判所へ届けて終了でしょう」
「なら安心しました。直ぐにメリッサさんへ渡しましょう」
人気のない書庫の隅で手紙を書き上げたバートとシルヴィアは、外で待機していたメリッサに素早く手紙を託した。
「では宜しくお願いします!」
「お任せ下さい!」
メリッサは廊下を駆け抜けると、中庭で待たせていた例の二人を見つけ笑顔を作った。
「エディ様!ユーリ様!お待たせしました!」
「リナリア様!」
「これが父への手紙です。私からだと信じて貰えるよう、このリボンも添えて置きます。きっとわかって下さるはずですわ…」
「確かにお預かり致しました」
「父に…私は元気だとお伝え下さい!何も心配いらないから安心して欲しいと…」
「ご安心下さい。必ずやお父上に届けます」
「お願いします!」
にこやかに二人を見送るとメリッサはため息をついた。
「これでしばらく時間が稼げるといいんだけど。ひとまずは上手くいったみたいで良かった…」
そこへジェイとリナリアが顔を出す。
「ありがとうメリッサ!本気で信じてたわよアイツ等。一瞬してやった!みたいな顔したの見逃さなかったんだから」
「リボンごめんね、せっかく可愛かったのに」
「いいんです、どうせ義妹が一度捨てたお下がりだし。髪ももう切ろうと思っていた所ですから」
「所で、アイツ等あの手紙をどこへ持って行くつもりなのかしら?」
「そういや今は邸が空っぽなんだよな。皆で休暇にしちゃってさ。残りたいヤツだけ残って好きな事してるんだよ」
「…すごい自由……」
「1日掛けてボーデン邸に着いても、本人は王都に居るって知らされるだけだし、早馬を出そうにも何処にいるかも分からないんじゃ無理だしね」
「何にせよ王都に戻るしか無いって事ですね!?」
「戻ってもそこから父さん達を探すとなると、かなり時間が稼げたと思う」
「その間にこっちは足元を固めましょ」
修道院の最上階の陰からは、双眼鏡を構えたバートとシルヴィアが遠ざかる馬車の様子を伺っていた。
「あの馬車は…魔道具ですね」
「ええ、御者要らずで後部から風圧で助力するタイプの物ですわ。魔導士達は毎回あの馬車で行き来しております」
「何とも贅沢な…あれでどのくらい早く走れる物なんでしょうか?」
「確か…ここから王都まで4〜5日で着けるとか」
「まぁまぁの速度ですかね。しかし、単純計算でも往復で一週間以上、月に2回で半月以上も遊び呆けている訳ですか魔導士庁の連中は……」
「決まった面子を入れ替えて一度は必ず訪れて居るようです」
「予想以上に好き勝手していたようですね。手を打っておいて正解だったな……」
やがて、修道院から見えなくなった馬車の中では、魔導士の二人が笑いながら話をしていた。
「やれやれ、クリス様も面倒な事をさせるよな」
「全く、田舎貴族なんて王家からと言って人を寄越すだけで言いなりなのにな」
「しかしあの娘は使えるな!あの忌々しいボーデンだぞ?!これでフザけた規制だの条約だのを撤廃させるいい切札ができた!」
「いっそ領地ごと返還させて国営にして貰えれば魔素材が取り放題だろうに!」
「手紙はどうだ?余計な事は書いてないだろうな?」
二人はおもむろに手紙の封を乱暴に破き、中身をくまなく調べ出した。
「本当に手紙以外は入ってないな…何かしらの魔力も感知しない」
「内容も…俺達の名前も地名等も書かれていない。怪しまれても筆跡は本人の物だし、このリボンもあればある程度信じるだろう」
「後は王家の極秘任務だとか言って無理矢理でも納得してもらうさ」
「ボーデンの邸はあっちだったか?ちょっと操作してくる」
レバーを引くと馬の進路が変わり、ボーデンへ続く道へと向かって行く。
やがて建物が見えてきたが、その門は固く閉ざされ、中では何かが走り回っていた。
「何だアレは…」
「ゴァァァァ!!」
突如、門に向かって突進してきたのは巨大なニワトリだった。トサカの代わりに真っ赤な魔石が輝いている。そのニワトリが振り上げた禍々しい程の鉤爪で門を蹴りまくって来た。
ガッシャーーーンガッシャーーーン
「ゴァッ!ゴァァァァ!!」
「ギャーーー!!」
二人が尻もちをつき、這いつくばって逃げようとすると誰かがやってきた。
「あらあらトリスいけませんよ、お客様を驚かしては!うふふ、ごめんなさいねぇ!?この辺りの方はすっかりトリスに慣れてしまっているもので。街の方かしら?領主様にご用でしょうか?」
よろよろと立ち上がる二人を大ニワトリが睨みつけるが、小柄な丸っこい老婆がにこやかに間に入り、ニワトリを抑えつけてしまう。
「わ…我々は魔導士庁の者だ!ボーデン伯爵に会いに…」
「あらあら、ごめんなさいねぇ。旦那様は今王都に向かわれたもので、こちらには居りませんの」
「王都だと?!」
「それはいつですか?」
「ええと、一昨日の朝でしたわね」
「なら、今から追って行けば我々の馬車なら追いつけるだろう。おい、あんたはこの家の者だろう?ここへは魔導士庁の者が会いに来たとだけ覚えておけ」
「はいはい、かしこまりました。代理の者にお伝えします」
「行くぞユーリ」
「ああ、急ごう」
挨拶もなしに去って行く二人を見送りながら、老婆はニワトリの方を向いた。
「いい子ねトリス、良く我慢できました。次にあの二人が来たら遠慮無く蹴っていいからね。さてと、モリガンはどこかしら?」
キョロキョロ辺りを見回すと、一羽のカラスが老婆の前に現れた。
「カァァ!!」
「モリガン!お前、ジェイ様の居場所がわかるね?!」
「カァァァ!!」
「いい子ね、今来た怪しい二人の事を知らせておきましょう。頼んだわよ」
「カァァ!!」
カラスは老婆からの書付けを咥えると、空へと飛び去った。
「カァカァカァ!!」
「これでよし!さぁさ、トリスも羽根を伸ばしておいで、皆走り回っているわよ?!」
「ゴァァァ!」
ボーデン邸の庭では、広い芝生の上で何羽もの大ニワトリや、それより大きな七面鳥らしき鳥類の他、厳ついポニーや地獄の番犬のような顔付きの犬が走り回り、遠くの池には何やら大きくうねる背びれがうごめいていた。
「みんな楽しそうねぇ!」
猛獣達が暴れまわるその中で、老婆が一人穏やかに花の植替えをしているのだった。




