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 魔石の勉強





「こちらが渡された魔石ですわ」


メリッサが褐色や青黒い小石を幾つも袋から出して見せた。

大きさは小指の先程から親指程度の小粒だが、全部で16個。


「これはほんの一部だそうです。手分けして魔道士様に協力しましょうと言われました」


「この魔石を持っていた動物達も殺された後は捨てられたのかしらね…」


「直ぐに集められる量じゃないだろう…こりゃどう見てもウチ以外でもやらかしてるな」


メリッサは魔石を袋に戻すとジェイの方に差し出した。


「これはお渡しします。何か証拠になるかもしれませんもの」


「…いや、これは依頼通り磨き上げて魔道士モドキ達に渡しましょう。その方が“証拠”になります」


バートがジェイの横から魔石の袋を受け取ると、中のひと粒を取り出した。


「今から私が指導しますので、その通りに魔力を流してみて下さい」


「は、はい!」


「それじゃ、魔力無しのワシ等は他の仕事に励みましょうかの?次はイタチの皮を剥いでみましょうや」


「ううぅ…まだやるのか…」


「じゃ、私は畑の世話をしてくるね!ドロシーは?」


「私は……明日の準備かな……親が来るから……」


「わかった!それじゃまた後でね」





空き部屋のテーブルに並べられた魔石はまだ魔獣から取り出されたばかりで、色もくすんで輝きも鈍い。

いわゆる“素の魔石”と呼ばれる代物だ。

狩りの獲物がたまたま持っていたり、魔獣の討伐の際に集められる物で、魔力を持っている者があまり長く手にしていると徐々に魔力を吸われてしまう。


「よろしいですか?魔石は動物の体内に蓄積した魔素が凝り固まった言わば異物。魔素を体の毒素と認識しながらも排出する事が出来ずに結晶化したものです。体内外の至る箇所にこびり付き心身を蝕みます。これは人間にも起こりうる症状で、稀に人から取り出された魔石も存在します。そのため、魔素の濃い土地に人は住めないのです。ここまでは学校で習ったと思いますが如何でしょう?」


バートの説明を熱心に聞いていたメリッサは真剣な顔で答える。


「魔力に関する授業の始めに習う内容です」


「座学ではどこまで習いましたか?」


「魔力の使い方、制御の方法、魔石の研磨、後は……」


「そもそも魔力とは何でしょう?」


「え?生まれつき持った人だけが使える、特別な力と…」


「まぁ大雑把に言えばそうですね。魔力とは、濃縮された魔素が生物に安全な状態に変換されたものです。魔力持ちとは、正確には体に吸収された魔素を濃縮し、魔力に変換出来る体質の者の事を指します。魔素を魔力として制御が出来るのは、胎児の時に母体から濃縮された魔素を取り込み、それに順応出来た者だけ。そしてその体質は親から子へ受け継がれやすいのです」


「初めて知りました…」


「これは魔道士の試験に出る問題ですからね。そしてこの国の基盤を作った魔力を制御出来る者達が現在の貴族の祖先に当たります。貴族が魔力の制御を義務付けられているのは、魔力の暴走や過剰な魔素の結晶化を防ぐためです」


「人も魔獣のようになってしまう事があると聞きました」


「脳等に結晶ができると人格が変わり、痛みから暴れる事もあります。ただの腫瘍や病気ですらそうなりますから、結晶なぞ出来たら余程の痛みでしょう。切り取ったり、取り出せる場所なら手術もできますが、それが骨や臓器の中なら激しい痛みを伴い、やがて死に至ります。魔獣と同じですね。逆に魔物と同じく、産まれてから魔素に順応した者達もおります」


「後天性の魔力持ちの方も市井には多くおいでとか…」


「これだけ魔素に囲まれた国です。人も動物も生き抜くために変わり続けているのですよ。後天性の魔力持ちは額や胸元など身体の何処かに魔力の結晶を持っていますが、先天性も後天性も出来る事は同じです」


「魔素は、魔力の無い方の体内にも蓄積するのでしょう?」


「もちろん。魔力持ちだけでなく、全て生物が魔素を取り込んでいます。体内に魔素が溜まるとあらゆる体調不良の原因となり、持病との合併症や流産の危険もあります。簡単に治す事が出来ますが、放って置けば死に至ります。軽いものですと魔力酔いや魔素症と呼ばれていますね」


「教会で祈ると治るというのは本当なのですか?」


「ぶっちゃけ本当です!と言うのも、教会にはどんな神を祀っていようと大体大型の魔道具がありますので、周辺の魔素は吸収されてしまうからです。別に教会でなくても稼働中の魔道具の近くにいれば治ります。まぁお布施など集まらなくなるので周知はされてませんが…そもそもの魔素症の治療もこの方法で行いますから」


「(この人もぶっちゃけとか言うんだ…)魔素症が地方で多いのは魔道具があまり普及していないせいなのですね!」


「貴方は素晴らしい生徒ですね!教えがいがありますよ」


「ありがとうございます!」


「次に魔力制御についてお話します」


「お願いします!」


「学校ではおそらく今も制御石を使っていると思いますがどうですか?」


「その通りです。始めの日に一人1つ、魔力制御に馴れるまで持っているようにと貸与されました」


「あれは人工の魔石で、持っていると自動で魔力を循環させてくれる様に出来ています。身体を流れる魔力の感覚を掴めたら魔石無しでも無意識で出来るようになります。同時に自分の持っている魔力の限界値もわかります。過剰なら放出し、不足したら取り込む。これを自然に出来るようにならねばなりません」


「ノ…ノート!ノートを取らせて下さい!!」


「構いませんよ。魔力を必要な分だけ手の平等に集中させ、適切な出力で放出出来る様になると、媒体を通して魔法が使えます。この媒体になるのも魔石や魔道具なので、魔石は魔力持ちには無くてはならない物になってしまいました」


「高位貴族の方には媒体を持たない方も居るそうですね」


「常に大量の魔力を維持できる者や、生まれ付き膨大な魔力量を保持している者は、稀ですが属性の付与まで自身の魔力で賄ってしまえるのですよ。訓練すれば一発くらいは誰でも出来るそうですが、その後は魔力が底をついて暫くは枯渇状態が続くそうです」


「魔力が無くなると…どうなるのですか…?」


「そうですね。魔力持ちは“魔力を無くしてはならない”という教育を徹底されますからね。要は魔力が使えなくなるのです。魔道具等に頼って生活している者にとっては死活問題でしょう?貴族学校は寮の施錠から個人の認識まで魔力によって行いますから、魔力が欠乏するととても厄介なんですよ」


「人体に影響などは…?」


「はっきり言って、無いですね。むしろ体が軽くなったという報告もあるくらいです。魔素、魔力とはその程の“異物”なのですよ。では次にその魔法の媒体ともなる魔石の研磨を実践していきましょう」


「はいっ!!」


「魔石の研磨の経験はおありですか?」


「家で…いつもやらされていたので…」


「ではいつものように1つ研いてみて下さい」


メリッサは手の平の赤黒い魔石に集中し、指先を動かしながら丁寧に魔力を送り続けた。

やがて表面が滑らかになり、形が整い、濁った赤色が澄んだルビーのような輝きを持ち始める。


「はい、そこまで。なかなか上出来ですね。危なげもなく、魔力も安定していました。通常の魔道具なら問題無く作動するでしょう」


「ありがとうございます…」


「しかし、このままではやたらと魔素を取り込み、やがてまた曇ってしまいます。今から私がやって見せますので、良く見ていて下さい」


バートは一番大きな褐色の粒を選ぶと、指先で一定方向に、まるで曇りを削る様に魔力を流していった。

すると石の中で光の揺らめきが見え、燃えるガーネット様な美しい魔石が現れた。


「これは…」


「先ず表面を魔力で覆い、中の魔素が逃げないように、また増え過ぎない様にします。それから、一定方向に魔力を流して表面を磨くことで、魔素の出入り口を明確にします。そこに魔力を込めると、中の魔素が濃縮され、魔力の核が生まれます。最後に表面を多角面に整える事で内側の魔素を反射させ、一気に魔力が放出されるのを防ぎます」


「まるで芸術品のようですね…」


「工程が多いので複雑に見えますが、原理さえ理解出来れば簡単ですよ」


「このトンデモ精度の魔石を簡単と言い切ったわ…」


「では、メリッサさん。やってみましょう!」


「はいぃぃぃっっ???」


その日メリッサは、一日中バートのスパルタ魔力操作レッスンを受け続ける事となった。





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