コーネリアスは忙しい
魔鷹のコーネリアスは、ジェイの居る所へならどこであろうとついて行く。
このところ、リナリアの居る崖の上の修道院とボーデン家を行ったり来たりしていたが、今度は王都のアルバトロス邸とのやり取りになり、少しくたびれていた。
王都までは、山を2つ超え、湖の真上を抜けて行くと、気流に上手いこと乗れるため半日程度で目的地まで辿り着ける。しかし帰り道は逆風になるので、遠回りで山を3つ超え、平野を渡りきらないと帰れない。
コーネリアスは、この平坦な代わり映えのしない平野が好きではなかった。
飛ぶならもっと刺激のある、強くて複雑な風に乗って、豪快に進みたい。
でもジェイのためなら、多少の我慢もしてやろう。
なんせ自分は彼の相棒なのだから!
そんなコーネリアスの今日の手紙は、アルバトロス邸へ、ジェイが修道院へ向かうという報告。
「夜駆けになるが…頼めるか?」
なんの問題もない。夜でも上空からは王都の灯りがよく見える。そこを目指すだけの夜間飛行の何が大変なものか。
「キュルルルルー!!」
コーネリアスは得意になって飛び立った。
夕日に映える辺境の彼方から、夕闇の濃い中見える王都まで。
〜〜〜〜〜
夕暮れの貴族街は、買い物を終えて帰途に就く婦女子方と、これから繰り出す男性陣とで賑わっていた。
その一角。きらびやかなホテルのレストランに、豪奢な馬車が停まった。
中からベールで顔を隠したドレスの女性が、バカラ公爵の嫡男と、ヴァレリー侯爵の長男の差し出された手を取り、エントランスへ入って行った。
「さぁ、こちらへどうぞ!僕らのお姫様!?」
「ありがとう!嬉しいわ!こんなにステキな所へ連れてきて貰えて!」
「君のために特別席を用意したよ!今夜は誰の目も気にせず楽しもう!」
シャンデリアの輝く王侯貴族専用の特別室に入ると、3人は早速ワインを飲み始めた。
「おいしいわ!ラインハルト様も来られれば良かったのに…」
「殿下は今、王宮から出られませんからね、我々だけで楽しみましょう!」
「ほら、プレゼントがあるんだ!前に話した妖精のランプだよ!?君の好きなピンクの宝石もたくさん付けてみたよ!」
「ステキ!キラキラ光って夢みたい…」
「私からはこちらの髪飾りとブローチを…今度、合わせてドレスも作りましょう!」
差し出されたプレゼントはどれも高価なものばかり。宝石を散りばめた特殊魔道具に、大粒の宝石をいくつも使ったアクセサリー。婚約者でもない女性に送るには度が過ぎていると言えるだろう。
「なんて大きな宝石!?お姫様になったみたい!私にはもったいないくらいだわ…」
「そんなコトないさ!君にこそ似合ってるよ!」
「卑しい者達の妨害さえなければ、あなたこそ王太子妃だったのです!本当によくお似合いですよ!?」
「…でも…私は魔力も低くいし、コントロールも上手くいかなくて…」
「だったら僕が教えてあげるよ!魔力だって、簡単に上げられる秘密の方法があるんだ!」
「おい、クリスティアン!それは…」
「いいだろう?別に悪用する訳じゃないんだし!彼女のために使った所で誰にも迷惑は掛けないさ」
「確かにそうかも知れないが…」
「そんな方法があるなんて知らなかったわ!どうすればいいの?」
「誰にも言っちゃいけないよ?!魔道士塔の秘密でね…魔物の肉を食べると、全身に魔力が満ち溢れてくるのさ!効果は短いけど、食べ続ければ徐々に魔力が上がるんだ!」
「まぁ!そんな方法があったの?!」
「肉にまで魔力を宿した魔物は、獲るのも規制されているけど、手に入れるルートはあるんだよ!君のためになら喜んで探してくるよ?!」
「それを食べたら私も魔道士様の様な力が手に入るかしら?」
「もちろん!」
「他にも、補助的な物ですが、魔物の一部や魔石を身につけると強力な魔力を纏う事ができますよ!?毛皮や魔力結晶などですね。王族の方は皆、防御や守護の加護が込められた魔石や毛皮を身に着けるのです」
「今度それもルナリアのために作って来るよ!」
「ルナリア様のためなら何だって手に入れて参りましょう!」
「ありがとう二人とも!私とても嬉しいわ!楽しみにしています!」
魔石も魔物の素材も、特別な条件を満たしたものだけが捕獲の対象になり、狩猟が許可されているのだが、彼らはそれを知っているのだろうか。
知らないにしても、魔物素材は本来とても希少で、宝石と同等かそれ以上の高価なものばかり。易々と手に入る物ではない。
更に、魔物肉の流通ルートも特殊で、専門に卸す業者などに予約しても時の運。それも信用のある限られた者にしか、売買されないため、新参者が手に入れるためには、堅い所からの紹介がいる。
そういった事情を、彼らは理解しているのだろうか?そしてその掟を破った場合のリスクを、本当に理解しているのだろうか…
その夜、3人の乗ってきた馬車は朝まで動くことはなかった。
〜〜〜〜〜〜
コーネリアスは王都のアルバトロス邸に朝日と共に到着し、昼前には飛び立ち、のんびり飛んで日が落ち切る前にボーデンへと戻って来た。
「また途中でつまみ食いしたろ!!??」
「クルルルルルル……」
「身内の手紙だって汚しちゃダメなの!なんか鳥でも食ったんだな?!全身羽毛でフワフワまみれだし、手紙は血まみれだし………」
「ルルル……クゥ〜〜〜…」
「とりあえず1回風呂な!!」
「ギュピィィィィ!!!」
ジェイがコーネリアスを洗っている間に、バートが荷車に次々荷物を積み込み、スレイプニルがタオ爺に引かれて厩舎から出て来た。
「それが終わったらすぐ立ちますよ!?返信によれば、当主様が留守の間、その代役をジェイ様にお任せになるそうです」
「そっかー俺が当主代理かぁ…前回の当主代理の時は毒蛾が大量発生して、その前は謎の巨大魔獣の討伐に駆り出されて……あれ?あんまりいい事ない……?」
「ブルルルルッ!ピィィィッ!!!!」
コーネリアスが身体を震わせ、水を切って毛づくろいをしている間、コーネリアスが飛ばした水で濡れたジェイが、着替えて荷車に乗り込んだ。
「へぇ、斧にノコギリ、縄と解体道具一式、魔獣避けにこっちは野営箱?おいおい、森でサバイバルでもするのか?」
「それはあちらの状況次第ですね。時と場合リナリア様のご命令ならサバイバルでも開拓工でも、なんでもこなしましょう!」
「…当主代理は俺なのに………?」
「さぁ参りましょう!ジェイ様、早く荷台に乗って下さい!」
「安定の御者じゃない俺………」
「荷物が落ちないよう見てて下さい。それではタオ殿、お願いします!」
「任せておけ!行けぃスレイプニル!!全速前進!!」
「全速じゃなくても良くない??!ねぇ?!!」
「何のこのくらい!そよ風じゃわい!コーネリアスもしっかりついて来い?!ハッハッハッハッ!!!」
「ヒヒィィィンッ!!!」
「キュピピィィッ!!」
「イヤだぁぁぁぁぁっ!!!!」
こうしてジェイを荷台に張り付けたまま、荷馬車は走り出すのであった…
「しっかりなさって下さい、情けない…」
「助けてくれぇえぇぇぇぇ!!!!」




