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アルバトロス邸のお茶会




「いらっしゃい!よく来たわね!?バジル!!」


広い侯爵邸の庭先に、アレクサンダが籠を降ろすと、勢い良く降りたバジル氏が恭しく挨拶する。


「久方振りですね姉上!ご無沙汰しておりました!」


「本当によ?!私だって、こんなせせこましい街の中でジッとしてるのなんて性に合わないのに!?たまには声も掛けて欲しいわ!」


「お………ひさし……ぶり…で…す…おば…うえ……」


死にそうな顔の長男が、その後ろからふらふら現れた。


「アルエット!また一段と男前になったわねぇ?!こちらへいらっしゃい。ホラ、髪がボサボサよ?!」


「あ…いまは…あまり…したを…むきたく…なくて……」


「2人共コテージにどうぞ!美味しいケーキがあるのよ?!ソニア、お茶の支度を!」


「かしこまりました。」


ソニアと呼ばれた侍女が、素早く動いてティーセットのワゴンを引いてくる。


「ありがとう!ソニアさんもお変わり無いようですね!」


「ええ、お陰様でございます。さぁ、どうぞこちらへ」


「あの……いま…は……ケーキはちょっと……」


「酔い止めと、気分が良くなるハーブティーもございます」


「なら…もらおうかな…」


3人がテーブルに着くと、紅茶とケーキが運ばれた。


「これはマーロウの店のケーキかな?いやぁ我が甥っ子ながら本当に良い才能が育ったもんだ!」


「それで?リナリアの件ですが?何か進展はあったの?」


「いやぁ!本人が元気にしてると言っていたし、まだ詳しくはわかってなくてねぇ!」


「実の娘が攫われて、ここまで悠長な親も無いわね!?」


「でも畑を作っているそうだ!自由にやれてるみたいだよ?同じ領内の事だし、そこまで心配はしなくても…」


「私がリリア達に同じ事をされたら、起兵して裁判所を取り囲むくらいしますよ!?」


「またそんな危ない発想を……」


「まぁいいでしょう!こちらでわかった事をお話します。と言っても、僅かですが…」


そう言って、アルバトロス夫人は娘達から送られた手紙の内容をざっくり話した。


「…うーん…ではそのルナリアという伯爵のご令嬢が、今何処に居るかわからないのか…」


「何処かに匿われて居るとしても、何やらきな臭い感じがしますよ?!これは勘ですが。ややこしい事に巻き込まれた気がします!」


「本当にリナリアを害そうとする奴等の仕業なら、首謀者を突き止めてコテンパンにしてやるさ!」


「それができる相手なら良いですがね…?マーロウがそろそろ来る頃だから、その時また話を聞きましょう!それまでゆっくりティータイムよ!」


「時に、姉上…なぜ私のカップだけカモミールティーなのでしょうか…?それもモーニングカップの……」


「体に良いのよ!?」


「でも苦手で……」


「姉のお茶が飲めないって言うの??」


「…イタダキマス……」






(一口飲んだら、酔いが消えて気分が一瞬でスッキリしたこのお茶は一体……)


「ただのハーブティーでございます」


「びっくりした!いや…ありがとう、楽になったよ!(何が入ってるんだろう…)」


「特製ブレンドですからね、レシピは秘密です」


「ソニアさんには昔からお世話になりっぱなしだなぁ…(昔から変わらないな……そういえばソニアさんて歳いくつなんだろう…)」


「その疑問はお忘れになる事をお勧めします」


「心を読まないでソニアさん!!(こっわぁ!!)」



〜〜〜〜〜



アフタヌーンティーを楽しむ人々で賑わうメインストリートを、一際目立つ白馬が馬車を引いて行く。


「うーん…やっぱり飛ばせるのは街の手前までだったねぇ」


「しかたないですよ。道も狭いし、人通りもありますし。勢い余って誰か撥ねてしまっては大変ですから」


ボーデン伯爵夫人とその三男のロビンスが、のろのろ進む馬車の列にはまり、アンヴァルが走れなくなった事にイライラしていた。

やっと大通りを抜け、貴族邸の並ぶ一角へやってくると、アルバトロス邸が見えてきた。

門番は遠目からでも目立つアンヴァルを見つけると、何も言わず門を開け、中に入れてくれた。


馬車止めでアルメリアが降りると、迎えたメイド達がサッと荷物を運び、馬丁がアンヴァルを厩舎へと引いていく。


「お義姉様!!ご無沙汰しておりましたわ!」


「アルメリア!早かったのね?!会えて嬉しいわ!ジェイもいらっしゃい!ここまで疲れたでしょう?!」


「久しぶりです、伯母上!」


「さぁ中に入って!もうすぐ食事の支度をさせますからね!それまでゆっくりくつろいで!」


コテージのサロンに案内されると、バジルとアルエットが待っていた。


「アルメリア!早かったな!疲れてないか?」


「ええ、お陰様で、ジェイも気遣ってくれたし。アルエット!あなたこそ大丈夫だった?」


「もう酔いも治まりましたよ…でも、帰りは一緒に乗せて下さい!」


すると、もう一人後からサロンに入ってきた。


「ただいま母さん!と、そちらの美しい御婦人は伯母様ですか?!お久しぶりです!」


「お帰り!あなた、同じ王都に住んでて滅多に帰って来ないんだもの!こんな時以外にも顔を出しなさい?!」


「マーロウ!元気そうねぇ、お店の話は聞いてますよ?!立派にやってるのねぇ!」


「マーロウ、元気そうだな!」


「マーロウ兄さん!またイケメンに磨きがかかったんじゃない?!」


皆で挨拶を交わし、ひと息つくと、今度はソニアが晩餐の支度ができたと知らせに来た。

それぞれテーブルにつくと、豪勢なご馳走が運ばれてくる。

皆が久々の再開を喜び、食事を楽しんだフルコースの終盤。軽くワインも入った頃、夫人が場の空気を引き締めた。


「それでは、そろそろ大事な話に移りましょう!まずは集めた情報を整理していきますよ?!」


各所から送られて来た手紙の内容を繋げて要約すると

修道院に送られたリナリアは、畑を作る程元気で、楽しくやっているらしいので、しばらく様子を見ること


本来修道院に送られるはずだったルナリアという色々やらかした令嬢は、行方がわからないということ。

主にこの二つになった。

そこへマーロウが渋い顔で話始める。


「実は、近くのオーダードレスの店に、バカラ宰相の子息と、グローバー騎士団長の子息と、べランタ公爵の子息が、同じ令嬢を連れてそれぞれ来店したそうなんです。」


「同じ令嬢ですか!?」


「服装も髪型も変えて、いずれも深いベールの帽子をしていたそうですが、声と仕草と何より男への甘え方が全く同じだったそうです。」


「それがもし、その令嬢だとしたら、大変なことでしょう?!修道院に入らなければならない女性を匿うなんて…」


アルエットが身を乗り出す勢いで憤る。


「落ち着くんだ、アルエット!裁判所と騎士団への抗議文書は王都に着いた時点で出してもらった。それでも動きがなければ、こちらにも考えがある!」


「私の秘蔵の姪っ子を攫った罪は重いわよ?!」


「実行者には特別厳しく事情をお聞きしなければね!?なぜ我が家の娘を連れ去ったりしたのか…」


「僕も、店のお客様や周辺に気を配っておこう。レディ達の情報力は侮れないからね!」


こうしてアルバトロス邸の夕べは過ぎていくのだった。





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