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コーネリアスのお使い



ボーデン伯爵家の伝書鷹コーネリアスは、次男のジェイが雛から育てた魔鷹である。

翼を広げると3mはあり、子供くらいなら軽々運べる程の巨鳥だ。

とても賢く人懐こくて、手紙からちょっとした物資まで最速で運んでくれる。

問題は、いくら頭が良いと言っても鳥なのであまり多くの目的地を覚えていられない事と、必ず一回は目的地まで連れて行かなければならない事だ。

帰りは例え海の向こうからでもジェイの待つボーデン家へと戻って来られるだろうが、知らない所に向かう事はできない。



あの日は本当によく働いた。

隣の領地まで約半日。のろのろ遅い馬車を空から焦れったくなりながら追い掛け、やっと目的地に到着してからも長い事待たされた。

何度か森に出掛けてつまみ食いもしたが、なかなかご主人様は出て来ない。

ようやく帰れると思ったら、今度は狩りが始まった。

コーネリアスは呼ばれない限り主人の狩りは邪魔しない。

ぐるぐる旋回しながら様子を見ていると、大物を仕留めたご主人様が手を振ってくれた。


脂の乗った金鹿は久々のご馳走だった。

夢中で食べているとご主人様が青いリボンを足に結び付けた。

青は屋敷に向かえという印だ。

心行くまで金鹿を堪能すると、ジェイが血塗れになってしまったコーネリアスに、水を浴びせて体を拭いた。


「頼むぞ!相棒!?」


「キュルルル!!」


コーネリアスは一声鳴くと、小さな紙片を咥え空へ羽ばたいて行った。


待機して焦れていた分を取り戻す様に、猛スピードで空を駆け、屋敷で庭掃除をしていたリナリアの元へ手紙を届けると、今度はリナリアの馬車を先導しながらジェイの元へ戻る。

スレイプニルなら普通の馬より早いので多少は楽だった。


その道中、馬車に異変が起きた。

止まったと思ったらリナリアが何処かへ連れ去られてしまった。

馬車とリナリア、どちらを追うか迷っていると、地上から自分を呼ぶ声がした。


「ガゥガゥッ!ワォーーーーゥ!!」


コーネリアスは正直、余りこのルーとかいう狼の事が好きでは無いのだが今は緊急事態。こういう時の判断の良さはあちらが断トツ上なのは承知している。


目標を見慣れぬ馬車に定め、追って行くと、谷を渡った先の城のような所に入って行ってしまった。

ルーが橋を迂回するため、谷沿いを駆けて行く間、コーネリアスは建物の周りを注意深く飛び回り、リナリアを探した。

コーネリアスは眼が良い。地上何十mからでも、どんな小さな獲物も見逃さない。

全ての窓、扉、外の通路を何度も確認していると、北側の建物の物影に、外に人が出て来て作業を始めた。

何度か回って眺めていると、服装を替えたリナリアだと気が付き、急いで降りていく。

丁度ルーも森を抜けたところで、二匹はほぼ同時にリナリアの元へ辿り着くことができたのだった。


そこからが大変だった。


芋の皮を運ばされたかと思ったら、トンボ返りで紙束を届け、また手紙を持たされる。

更にジェイの両親が暮らす別宅にまで飛ばされて、さすがのコーネリアスも正直言ってくたびれた。

夕刻前にもうひと往復頼まれたが、地面に寝そべってストライキを起こす程だった。


「…………悪かったよ……お前だって疲れただろうにな……残りは明日にしよう!……しかし……コーネリアス、お前…鳥なんだから…せめて大の字で羽広げて寝っ転がるのは止めないか?」


何と言われようとコーネリアスにとってこれが一番寛げる格好なのだ。


こうしてコーネリアスの多忙な日々は過ぎていくのであった。






「どうなさいました?ジェイ様?!」


「コーネリアスがまた地面で溶けてて、なんの生き物かわかんなくなってるんだ…」


「かわいいじゃないですか?子供の頃のジェイ様みたいで」


「俺、こんな口開けて白目剝いて寝てた??」




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