表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/82

侯爵夫人のコマドリ


広い庭園に咲き誇るコーラルのツルバラと青いクロタネソウの花が風に揺れ、木漏れ日の中で輝くような美しさを放つ中、その屋敷の女主人は重い溜息を吐いた。


アルバトロス侯爵夫人ことアイビー・アルバトロスは二通の手紙をテラスのカフェテーブルに放り投げると、レターセットを持って控えていたメイドからペンと便箋を受け取った。


「久々に手紙を寄越したと思ったら…」


「バジル様と甥御様からのお手紙ですね?!」


控えていた侍女のワゴンにコーネリアスともう一羽、極彩色の大きなオウムが、留まってしきりに餌をついばんでいた。


「リナリアが修道院に送られたそうよ…」


「まさか!姪御様が?!」


「どうやら人違いで王都の兵に拉致されたんですって…あり得るかしら??貴族の娘を攫っておいて人違いで済まされる訳ないでしょうにねぇ?!急ぎ会いたいそうだから、返事を書くわ。久しぶりに弟家族と会えるというのに、まさかこんな事で集まる事になるなんて…」


優雅に手紙を認めると、封などせずリボンで丸めて二羽の足に括り付け、侍女がテラスからワゴンを庭先へと移動させた。軽い羽音と共に飛び立つ二羽を見届けると、今度は部屋に戻り別の手紙を書き始める。


「手紙にあった令嬢について情報を集めましょう!リリアとサフィニアなら貴族学校の中の事はわかるでしょうし、マーロウは御婦人方の話を集めてくれるでしょう」


夫人が手紙を書いている間に、侍女が大きな銀色の鳥カゴを持って来た。中で六羽のコマドリが囀っている。


「さぁ、この手紙をお願いね!?」


侍女が細長い手紙をくるくる丸めて糸で小鳥たちに結び付けていく。飛び立つ3羽の小鳥を見送ると夫人は立ち上がってメイド達を呼んだ。


「さぁ、お茶の支度をなさい!お客様がいらっしゃるわよ!ジャムのクッキーをどっさり焼いて、卵のサンドイッチも忘れないでね!?カモミールティーも用意してちょうだい!」


「恐れながら、バジル様はカモミールは苦手と伺っております」


「だからよ!あえてよ!半年も音沙汰なく放ったらかされた姉からの細やかなプレゼントよ」


「承知致しました。」



こうして侯爵邸の午後のお茶会の支度は着々と整っていくのであった。




〜〜〜〜〜



ブレンダム王国の王都の西側には大きな時計塔が聳えており、その麓にはこの国の貴族子女が通う学校が建っている。

全寮制のこの学校には13歳から18歳の貴族の子供達が、共に学び、高め合い、友情を育んでいる。


その2年生の女子寮の一部屋の窓にコマドリが留まった。


「まぁ!ベルじゃない?!お母様から何かお手紙?」


リリア・アルバトロスは窓を開けるとコマドリを招き入れ、その足から手紙を外して読んでいく。


「うん……うん?……う〜〜〜ん………そうねぇ…これからお友達とカフェに行く約束だから、そこで何か聞いてみるわね?!」


リリアはコマドリを肩に乗せ、鞄を手に部屋を出て行った。



同じ頃、5年生の女子寮のバルコニーにもコマドリが飛んで来ていた。


「あら?フルート!お久しぶりねぇ、お母様から何かご用かしら?」


サフィニア・アルバトロスは手にしていた紅茶のカップを静かに置くと、コマドリから手紙を受け取りサッと目を通した。


「……………そう……そんな事が……わかったわ、こちらも少し探ってみましょう、情報収集はお手の物よ…」 


サフィニアはティーセットを片付け、コマドリを鳥カゴへ移し餌をやると、机の上の本を手に取り、図書室の方へと歩いて行った。





〜〜〜〜〜





王都の中心街では、最近新しくできたパティスリーが女性達の話題になっていた。

店のオーナーは侯爵家の次男だそうで、若くして店を構える腕前もさる事ながら、その美貌を一目見ようと通う女性客も多いとか。


その侯爵令息であるマーロウ・アルバトロスは執務室の窓に一羽のコマドリが留まっているのを見つけた。


「やぁ!ヴィオラじゃないか?!すまない、今日は窓を閉め切っていたよ」


執務室の机の上にコマドリを乗せると、その柔らかな背を優しく撫でる。


「母さんから急ぎの知らせかい?ちょっと待っててね?!」


マーロウはポケットから眼鏡を出して掛けると、小さな手紙を読んだ。


「なになに………………え?…………は?………?…………??」


何度か読み返してから、眉間を押さえつつ椅子に座り直すと、眼鏡をポケットへしまい直す。


「まぁ、その…なんだ…??うん…僕も店のレディ達に聞いてみよう…何かわかればすぐ知らせを書くよ!」


マーロウはコマドリを専用の小屋の中で休ませると、ジャケットを羽織り店の方へと歩いて行った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ