その頃の領地では
時は少し遡って、その日の昼過ぎ頃。
ボーデンの屋敷の庭からコーネリアスが一足先に戻って来るのが見えた。
庭先でジェイとバートがそれを迎える。
「お帰り、コーネリアス!良い子だ!」
「ピュルルルー!!」
ジェイが手を振ると、コーネリアスは空からリナリアに託された物を二人に向けて落とした。
湿っぽい何かがジェイの手に触れる。
「??なんだコレ…?……ジャガイモの皮ぁぁぁっっ?!!!!」
「リナリア様からのメッセージでは?」
「生ゴミが???!嫌がらせじゃなくて?!」
「良く見てください、皮の裏に何か書いてますよ!?」
ジャガイモの皮の裏に何かで引っ掻いた様な文字が見える。
[ かみ ちょうだい ]
「便所かよっ??!!!!」
「いや、リナリア様なら自然の中で用を足した後の始末は心得ておられます。事の詳細を記す為の筆記用具が無いのでこのような手段を選ばれたのでしょう」
「妹が用足した後始末してる所とか考えたくない!!!」
「ふむ…破れにくい漉き紙と水場でも使える鉛筆を用意しましょう!不用意に何か送って万が一敵意のある者の手に渡っても困ります。指示があるまで言われた物だけ送ることにしましょう!」
「万が一…って?!」
「お嬢様を攫った者が、王都の兵に扮した盗賊などの可能性も捨てきれません!その時はお嬢様に指示を仰ぎこちらから切り込みます!」
「発想が物騒極まりない!?」
「タオ・リー殿も先程から槍の素振りをされておりまして、スレイプニルと共にいつでも出撃できるそうです」
「さっきっからなんか目の端でちらちら甲冑が動いてる様に見えるなーと思ったら!??」
「私の投擲も準備万端です!」
「しまっとけ!!」
そこから筆記用具一式をコーネリアスに持たせ、更に待つこと1時間。
「あ!戻って来ました!」
「ピーーヒュルル!!」
今度はジャガイモの皮でなく、送った紙を使っての手紙を落として行った。
「どれどれ…」
【兄さんへ
どうやら人違いでボロネーズ修道院に送られました。冤罪の証明ができないので、しばらくここで様子を見ます。領地内だし心配しないで!?友達もできました!今はルーと畑を作っています。次はハーブ類の種を送ってね。何かわかったらまた知らせます。
追伸
王都のルナリアという伯爵令嬢について調べて下さい。私が間違われたのはその女性だそうです。
追追伸
ハウアー爵位家にムカついたので、取引を中止して下さい。
わからない事だらけですが、私は元気です!】
「なんてこった!!!」
「ボロネーズ修道院なら規律は厳しいですが、安全な場所ですね。ひとまず安心です」
「安心できる内容だった!??頭の痛い話しか書いてなかったのに?!まず人違いって何??領地だからって平気なもんなの??なんでそれで畑作ることになるの??子爵にムカついたって何があったの??それで本当に元気なの???」
「脅されて書いている風ではありませんね、それなら暗号を使われるはず…大丈夫です。お嬢様を信じて待ちましょう」
「聞き間違いならいいが、暗号ってなんだ?」
「リナリア様には万が一に備えてボーデン家共通の暗号をお教えしております。」
「オレ!知らないけど!???」
「筆跡もリナリア様の物で間違いありません」
「華麗なスルー!!!」
「タオ殿にも出撃はしばらく様子を見る旨を伝えて参ります」
「あ……そこは中止じゃないんだ……?」
こうしてリナリアとジェイの奇妙な文通が始まったのだった。
「いや!文通じゃないよね?!」




