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計算高い動画  作者: 鳶野一作(とんび)
2/2

計画実行

放課後のチャイムが鳴る学校。生徒達が帰った教室で三人の男子が話をしていた。

「本当にやるのかよ?」

一人の大柄な男子が大きな声で言った。その言葉に反論する形で痩せ型の男子が言った。

「最近、動画の再生数が伸び悩んでてさ。ここらでもう一度何かデカい事しないと、

どんどん衰退していっちまうよ。」

「確かにお前の言う通りだけどさ…。でもいくら何でも爆発ネタはヤバくないか?」

何やら危険な話をしているようだが、痩せ型の男子は得意な顔で反論した。

「ところがさ、この間俺んちで企画会議したっしょ?で、お前らが帰った後にさ、パソコンの画面にこれが映っててこれだ!って思ってさ。」

そう言って、痩せ型の男子は一枚の紙を出した。大柄な男子はその紙を手に取り、じっと眺めながら疑わしそうに言った。

「『絶対安全のフェイク爆発』ね…。確かに計算上は上手くいくかもしれないけど、安全性とか何の確証も無いんだろ?だったら止めた方がいいと思う…。」

「大丈夫だって。俺も確かめたけど、火薬の分量さえ間違えなければ平気だって。

だよな、企画担当。」

痩せ型の男子が企画担当と呼んだメガネの男子が、自ら取り出した紙を見ながら言う。

「まぁ、確かに昨日お前に言われてシュミレートはした。だけど、今まで何度も言って来たが全部がシュミレーション通りにいくとは思わない方が良い。あまりにも危険すぎる。」

メガネの男子にそう言われた後、痩せ型の男子は右手で握り拳を作りながら思い詰めた表情でこう呟いた。

「やるしか…ないんだよ。もう。」

久親(ひさちか)…。」

痩せ型の男子の名前は青日久親(あおび ひさちか)。彼等は動画配信サイトの『三羽ちゃんねる』のリーダー担当で進行は彼が行う。動画内では「ひーくん」の愛称で慕われている。

「よし、じゃあ今から動画の構成とかを会議す…。」

久親が机を並べながら、そう言う途中で大柄な男子が急に椅子から立ち上がり少し震えながら久親に言った。

「お、俺は…。今回は撮影に協力出来ない。」

大柄な男子の名前は黄雲颯太(きぐも ふうた)。『三羽ちゃんねる』の盛り上げ担当で、身体の大きさを活かしたリアクションで視聴者を魅了しており「ふーさん」と呼ばれている。身体の大きさと比例するほど肝は大きくない小心者ではあるが、心優しい少年である。

「おいおい、今更何言ってんだよ。これやらないと新しい配信者にどんどん登録者数を抜かれちまうんだぞ。」

久親が颯太に詰め寄ったが、颯太は決意を固めた表情で久親を見て反論する。

「だって、失敗したら大変じゃないか。本当に事故動画になっちまうよ。俺は…そんな危険な動画には協力出来ない。」

そのやり取りにメガネの男子が口を挟んだ。

「僕も今回は参加しかねるな。シュミレーションはしたけど、100%で無い以上危険だ。久親、悪い事は言わない。止めておいた方がいい。」

メガネの男子の名前は赤鳥満(あかとり みつる)。「三羽ちゃんねる」の企画・立案を担当している。頭の良さを活かし、的確なマーケティング調査・流行の波を読みどういう動画なら盛り上がり収益に繋がるかを日々研究している「三羽ちゃんねる」の頭脳担当である。ファンからは「みー様」と呼ばれている。

「満まで何言ってんだよ。俺たち今までど撮影も三人でやってきたじゃねぇか。だからさ、もう一度一緒に盛り上げるためにやろうぜ。」

久親が必死に満を説得しようとしている中、颯太が大きな声で久親に言った。

「俺は嫌だ。参加したくない。やるならお前一人でやってくれ。」

颯太の説得もしないといけないのか、と思ったのか面倒くさそうな顔で久親に言った。

「本気で言ってんのかよ?盛り上げ役のお前がいないで、どうやって動画を盛り上げるんだよ。」

「そんなのは知らない。やるならお前一人でやればいい。」

「満も…同じ考えかよ。」

話を振られた満が、メガネを上げて久親に淡々と答えた。

「あぁ。さすがに考え直した方がいいと思う。こいつと同じ意見で、失敗したらそれこそシャレにならんからな。」

満にそう言われた久親は観念したのか諦めたのか、何かを悟った表情で二人に言い放った。

「マジかよ…。あー、あーそうかよ!わかったよ!じゃあ、今回は俺一人でやってやるよ!

但し、いいか!また人気動画になっても、もうお前らとは組まないからな!今後は俺一人でやる!解散だ!」

「そんな事言って、初めからそのつもりだったんだろ?お前。」

大声で反論してきた久親に対して、満が険しい表情でそう言った。

「何だよ?何の話だ。」

何のことを言われているか分からないのか、久親は満の疑問に答えられなかった。その答えられない久親に対して満は言葉を続けた。

「最近、芸能事務所からのスカウトが頻繁にお前の所に来ているみたいじゃないか?僕が知らないとでも思ったのか?」

満のその指摘に今度は颯太が反応した。

「何だよそれ?俺はそんな話知らないぞ。久親、どういう事だよ?」

「そ、それは…。」

颯太に問い詰められても言葉を返せない久親に向かって、満が結論じみた事を淡々と述べる。

「だからお前は動画の再生数や登録者数が下がると色々困るから、こんな過激な馬鹿げた事にまで手を出すことにしたんだ。元々自分本位でしか考えて無かったんだよ。その証拠に僕たちにはそんな話は一言も話してこなかった。つまり、僕たちを切って自分だけ芸能デビューをするつもりなんだよ。こいつは。」

「本当かよ。、久親…。」

満の言葉にも、颯太の質問にも答えようとしない久親に対して、しびれを切らした颯太が久親の胸ぐらを掴んで大声で言った。

「なぁ!どうなんだよ!お前さっき言ったじゃねぇかよ!今まで三人でやってきたって!

本当に俺たちを切るつもりなのかよ!なぁ…どうなんだよ!?」

段々と涙声になってかすれていく颯太の顔を見ても、久親は答えようともせず胸ぐらを掴まれながらも颯太の顔を直視しようとせず目をそらしていた。そんな埒が明かない様子を見かねたのか、満が颯太の肩を叩き、何かを諭すように言った。

「颯太、もう止めにしようぜ。今日で『三羽ちゃんねる』は解散だよ。」

そう言った満の言葉にようやく久親が反応を示し、満に質問を投げかけた。

「お前の気持ちはそうなのかよ。本当にそれでいいんだな!?」

「だってもう無理だろ。近いうちに僕たちは切られ、お前は芸能人の仲間入りする事が分かってるのに、これ以上一緒に何をやれって言うんだよ。馬鹿らしい。」

満は久親の質問に冷めた表情で冷たく言い放った。その言葉を聞いた後、久親は颯太の方を向いて聞いた。

「お前は?お前も同じなのかよ!?」

「俺も…。今、満が言った事が本当だとしたら、もうお前の事は信用出来ない。」

久親は少し寂しそうに答えた颯太の手を振り払って、乱れた服を直しながら二人に背を向けたまま静かにこう言った。

「お前らの気持ちは良く分かった…もう、好きにしろ。」

その言葉を聞いた満・颯太両名は久親に何も言葉をかける事もせず教室を出て行った。二人が出て行った事を確認した久親はそのまま椅子に座り、机に突っ伏して声にもならない声で泣いていた。三人の別れと気持ちを象徴するかのように教室は夕日が沈み徐々に暗くなっていった。その日、彼らが高校一年生の時に遊び半分で始めた動画撮影での”楽しかった時間”が終わった。『三羽ちゃんねる』は三人がただ色々とはしゃいで遊んだり、実験をしたりと三人が計画した『楽しい』を色んな人に共有してもらうコンセプトで始まった。程なくして人気も出てきて三人は校内で人気者になっていき、やがて全国的にもファンは増えていった。しかし最近は段他チャンネルの人気と勢いに押され動画の再生数や登録者数も伸び悩んでいた。そこで久親は起死回生の策で『爆発ドッキリ』の動画を計画したのだが、結果はメンバーの颯太と満に拒否されてしまった。しかし、色々な感情や思いが頭の中で交差している久親には”辞める”という言葉は無く、一人で今回のドッキリを決行する事にした。その決断が彼の学校の歴史の中で前代未聞の大事故に繋がる事になるとは、この時誰も思っていなかった。

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