コント「かくれんぼ」
プルルルルル♪
プルルルルル♪
プルル――――ガチャ
「はい、もしもし」
『も~い~かい』
「は? なんだイタ電かよ、切るぞ」
プルルルルル♪
プルルルルル♪
プルル――――ガチャ
「はい、もしもし」
『み~つけた~』
「んだよ、またかよ。てめぇいい加減にしろよ?」
『も~い~かい』
「いいわけねぇだろ?」
『今、家にいるんだよね?』
「は?」
『じゃあ待っててね。すぐそっちに行くから』
「つうか誰だよお前、電話かける家間違ってんじゃねぇのか?」
『ねぇ、聞いてる?』
「いやお前が聞けよ」
『ねぇ、いま家の近くにいるの』
「は?」
『ねぇ、いま家の前まで来たの』
「え? 何?」
『ねぇ、いまドアの前にいるの』
「ちょっ!」
ピンポ~ン
「――――!」
ピンポンピンポ~ン
「ヒっ!」
ピンポンピンポンピンポ~ン
『ねぇ……早く開けなさいよぉ……』
「ヒィィィィッ!」
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポ~ン
『ねぇ……ねぇってばぁ……』
「ヒィ”ィ”ィ”ィ”ィ”ィ”ィ”ッ!」
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン――――
「お、お前はだ、だだだだ、だ、誰だぁっっっ!」
『何を言ってるの? 美紀子に決まってるでしょ?』
「み、美紀子?」
『アンタあの時言ったわよね? "隠れてる俺を見つけたら結婚してやる"って』
「は、はぁ!? し、知らねぇよ!」
『やっと見つけたわよ』
「い、いや、ガチで知らねぇよ! つうか何だよその『かくれんぼ』的なプロポーズは! ちょっと格好良いけどさ!」
『知らないなんて言わせないわよ!』
「いや本当に知らないし!」
『私5年も探し続けたのよ?!』
「5、5年? 5年も『かくれんぼ』やってんの? つうかそれ完全に遊ばれてるだけのような――――」
『逃がさないからね!』
「いや本当に知らないです! つうか『鬼ごっこ』みたいになってるし!」
『うるさい! 責任とれ!』
「本当に知らないんです! いやもう良く分からないけど謝っておきます! ごめんなさい!」
『ごめんなんて言葉だけで済むと思ってるの?! 絶対に逃がさないわよ! 分かってるわね永野!』
「……永野? あの、うち伊達ですけど」
『……伊達? ここ永野の家だよね?』
「伊達です」
『でも、ここに永野がいるって――――』
「あ」
『何? 隠すと為にならないわよ?』
「怖っ! いや、恐らく永野っては私の友人で、一時期そいつがここに住んでいた事があって……」
『本当に?』
「本当です!」
『ねぇ、アンタ本当は永野でしょ? 相変わらず往生際が悪いわね』
「本当に伊達です! つうか声で分かりません?」
『5年も会ってないんだから顔も声も覚えてないわよ』
「声どころか顔も覚えてない奴と結婚するつもりなの? アンタすげぇな」
『あら? そのツッコミの感じは永野そっくりだわ。アンタやっぱり永野でしょ?』
「声も顔も覚えてないけどツッコミは覚えてるの? つうか永野じゃありませんから!」
『どうも信用出来ないわねぇ。とりあえず外に出てきて顔見せてよ』
「な、何するつもりですか?」
『何もしないわよ』
「本当に? 本当に何もしない?」
『アンタが永野じゃないなら何もしないわよ』
「分かりました……じゃあ……」
ガチャリ
「あら? ちょっとアンタ誰よ?」
「だから伊達だって言ってんだろ!」
「ぷっ」
「何笑ってんだよ」
「『伊達だって』とか、ぷぷっ」
「いやシャレじゃねぇよ! 何か恥ずいな!」
「まあ分かりました。間違えました。ごめんなさい」
「間違い?! こんなホラー的な間違いある?!」
「人は過ちを犯す生き物ですから。ごめんごめん」
「軽っ! つうかさっき『ごめんなんて言葉じゃ済まない』とか言って追いこんでくれましたよね?」
「ろくめん」
「いや『ごめん』から『ろくめん』に増えたからって多く謝ってるわけじゃねぇだろ。つうか馬鹿にしてんだろ!」
「うるさい永野!」
「だから俺は伊達だって言ってんだろ? つうか何でソッチがキレてんだよ」
「ぷっ」
「だからシャレじゃねぇよ!」
「じゃあこれで」
「いや許した訳じゃねぇから」
「永野は小さい男ねぇ」
「だから俺は伊達だって言ってんだろ!?」
「ぷっ」
「だからシャレじゃねぇってんだよ!」
「も~い~かい」
「いや何で俺が待たせてるみたいになってんだよ! つうか『かくれんぼ』続いてんのかよ!」
「『かくれんぼ』好きですか? なら御礼代わりに少しなら付き合ってあげてもいいですよ?」
「うるせぇよ! ああもういいから帰れよ!」
「も~い~かい?」
「もういいよっ!」
2021年08月23日 初版