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9.侯爵子息 再び

「またお前か。休日まで俺のストーカーか?」



振り返った先にいた人物に思わずタメ息が出た。

会う可能性があったとはいえ、出来ることなら関わりたくはなかったと心底思う。


当の本人は『やれやれ、困ったものだ』と独り言のように呟きながら近付いてくる。

そのすぐ後ろには、校内でも常に行動を共にしている取巻き―――確か、レオとショーンと呼ばれていた2人も続く。


目的地へ向かう途中だったのだろう。狩猟で使うための銃を携えて。




(狩りなら森ん中歩いて行きゃいいのに)



なぜこの道を?と疑問が湧くほど、俺達が今いる場所から森は目と鼻の先だ。

この辺りは特に危険もない筈なので、狩りへ出掛ける人がわざわざ舗装された道を歩く意味がわからない。



それになんか喋ってるし。『モテる男はつらい』?




(へー……―――ほんっっとに!なんでこいつに告白したんだアリアは!?まだライアンのほうが……)


チラッと首だけ後ろを向くとライアンと目が合う。

俺の死んだ魚のような目とは正反対に、まるで王子様のような笑みを貼りつけた彼は慰めるように俺の背中をポンポンと軽く叩く。


(きっと普通の令嬢ならこれだけで頬を紅く染めるんだろうな。―――うん。俺はなんとも思わないが)



『なんとかしてくれ』と、心の中で訴えるように見つめれば

「僕を見つめても」

と、困ったように眉尻を下げられた。


(……訂正しよう。やっぱどっちも無理!)


ナルシストと腹黒は、例え転生前が女だったとしても対象外だ。

知り合って間もない俺でもわかる。コイツはこの状況を絶対楽しんでる。





「―――ぃ、おい!俺様を無視するな」


俺達のやり取りに、目の前で立ち止まっていたロイが喚く。

なぜかレオから『恥ずかしがってるだけです』と謎のフォローも入る。そしてその言葉を信じたのか、ロイは両腕を組むと『そうか』と呟いた。


(おいっ!どうしてそうなるんだ!!?)



ライアンから視線を外し正面に向き直ると、軽く息を吐き出して心を落ち着かせる。

一瞬、ライアンがニヤリと笑ったのは見逃さない……が、今はそれよりもこっちを片付けることにしよう。

本日一番の令嬢らしい笑みを貼りつけながら。



「―――いいえ?今日は勉強のため父の視察に同行していますの」

毅然とした態度で伝えた。

(だから早々に立ち去ってくれ。もう関わりたくない。)

「へっ!?……いや、だって伯爵いないじゃないか」

彼はまるで予想外とばかりの反応をする。


「呼んだ~?」



そこにタイミングよく返事をするロバートさんに、ロイの肩がビクッと上がる。

どうやら位置的に馬車に隠れて見えなかったらしい。

「あれ?君はブランシュ侯爵の……」


突然現れたロバートさんにロイが固まった。



なんて白々しい。さすがはライアンの叔父だと感心する。

最初から気付いていたであろうロバートさんは狼狽するロイに人好きのする顔を向け、


「先日はブランシュ侯爵とも―――」

と会話を続けていく。



(こっちは最初から気付いていましたけどね!)


ロバートさんが加わればさすがのロイも大人しくなる。

軽く2,3言葉を交わした後、逃げ出すように『失礼します』と去っていった。



「さぁ行こう。帰りが遅くなってしまう。」


何事もなかったかのように歩き出した。

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