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5.学園

翌日から座学も追加してレッスンを続ける。

今日で5日目。頭はもうパンパンだ。


俺の世話係兼マナー指導は、アンの推薦でソフィアが行うことに決まった。

初日に俺を起こす際、固まっていたメイドの一人だ。

始めは『私がやります!』とアンが張り切っていたのだが······メイド長がつきっきりではいけないとメリッサさんに窘められてしぶしぶ了承した感じだ。

なんだかんだでアンさんは面倒見いい人だ。基本は鬼だけど。


メリッサさんも先生として時々指導してくれる。

そしてさすがは伯爵夫人。

『朗らかで優しそう』なイメージだったのに······アン以上に厳しかった。




レッスン終了後のティータイム。

向かいで紅茶を飲んでいたメリッサさんが話し始めた。

「明日は学園へ行っても良さそうね」

「明日から······ですか?」

「えぇ。一日様子をみる、という感じかしら」


突然の提案に少し不安になる。


「心配しなくても問題ないわ。私の姉に相談したら、息子に連絡とってくれてね。私の甥なんだけど『ライアン』って、あなたと同学年の子なの。同じ学園に通っているから助けてくれるそうよ」


どうやらアリアの従兄妹がいるらしい。

ずっと休んでもいられないし·········よし。

「わかりました。少し不安は残りますが、明日は登校します」


その後は、学園の説明や登下校の手段について確認した。



いやぁ······違う世界なことはこの前わかってたけど、まさか魔法系の学園とか移動に魔方陣とか······どこのファンタジーアニメだよ!!


っと、一人でツッコミをしてしまったのは見逃してほしい。



―――――


次の日。起床時刻より一時間も早く目が覚める。


(なんだかんだで俺も緊張してんだなぁ)

昨日の夜も寝付きが悪くて、景気づけにワインを三杯ほど飲んだ。

体はお酒に弱いアリアでも、中身が俺のせいか全然酔わない。

まぁ、わかっていたけどね······うん。




「お嬢様、お時間です」

ソフィアに付いて部屋を出ると、廊下を歩いて北側にある階段から地下へと下りた。

一番下までいくと何やら重厚そうな扉が。


「ここから行くの?」

「左様でございます」

ソフィアに促され中へ入ると、薄暗くて何もない部屋の中央には魔方陣が描かれている。


(おっ!この上に乗ればいいんだな)


魔方陣の真上に立ってみる―――が

「······なにも起きないんだけど」


こう『青白い光がブワァーとか、風が下から吹いて―――』とかを想像していたが······なにも起きない。

移動もしていない。


「そんなすぐに移動出来ませんよ。許可が必要なんです」

「許可?」

「えぇ。お嬢様、首に着けているペンダントを出してください」

ソフィアに言われて制服の襟のところからペンダントを取り出す。

朝の支度中に渡された、緑の石がついているだけのシンプルな物だ。

「その石の部分に触れたまま『ルイート学園へ』と」


「ルイート学園へ」


やっぱりなにも起きないじゃん――と思った瞬間。

石が光った気がして······気がついたら知らない廊下にいた。


「さぁ、そのまま歩いてください。ご説明は後で」


ソフィアに押されて少し前を歩きながら、後方から指示される。

すれ違う生徒達に笑顔で挨拶をしながら部屋の前に着く。どうやらここが目的の場所のようだ。

チラリとソフィアを見ると頷いたのでノックすると、中から『どうぞ~』と間延びした声が聞こえた。




入室すると目の前には生徒が一人。

「初めまして。でいいのかな?僕はライアンだよ。君は『リョウ』だよね?」

笑顔で手を差し出す彼が、昨日言っていた従兄妹らしい。

青色の髪に緑色の目をした、スラッと体型の爽やか美少年タイプの男だ。


「初めまして、リョウです。協力してくれてありがとう。学園では『アリア·グレース·モアリス』として生活するからよろしく」


差し出された手を握り返した。



「へぇ~、本当に違うんだ。驚いたよ」

「信じてなかったんかい!·········はっ」


―――ヤバい、思わずツッコンでしまった。


恐る恐る後ろを振り返ると·········と~ってもコワい顔をしたソフィアが『これはアンさんにご報告しなくては』と呟いておりました······。


あぁ、今日は家に帰りたくない―――。

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