4.ワインの木
お酒の味には驚いたが、夕食は恙無く終了した。
デザートと一緒に出された紅茶は普通の味だったので、アレはなにかの間違いだったんじゃないかと思いたい······。
「ところでリョウ。君、お酒には詳しいのかい?」
ロバートさんに『もう少し話そう』と誘われ、今はソファーに向かい合って座っている。
大分打ち解けたので、夕方とは違いリラックスした状態だ。
「そこまで詳しいとは思っていませんが、結構飲んだりはしてましたよ。大好きですし」
そう、俺は別に詳しいわけじゃない。うまい酒を求めていただけだ。
詳しいっていうのは、居酒屋店主のやっちんみたいな奴のことをいうんじゃないか?
あいつよく酒蔵見学に行ってたし······。
まぁ延々と酒について語られる時もあったので、俺もなんとなくならわかるが。
「やっぱりそうか。お酒が飲めるとわかった時のリョウはすごく嬉しそうだったから」
あー······だからあのウィンク。
「それで······どうだった?この国で初めて口にしたお酒は。リョウの国とは違っていたかな?」
普通に話しているだけの筈なのに、少し空気が変わった気がした。
嘘もお世辞も言ってはいけないような雰囲気だ。
「······正直に言っていいですか?」
ロバートさんが頷いたのでそのまま続ける。
「自分が知っている酒とは違い、味が薄く······水のように感じました」
「······そうか」
俺の回答が最初からわかっていたかのような反応。
飲んだ時、一瞬固まったのバレてたのか?
でもなんか困ってるっぽい顔しているような······。
「実はね、ここ最近ワインの木が枯れてきているんだ」
「ん?······木?―――あっ、葡萄?」
「ブドウ?」
疑問に疑問で返された。
まさか、葡萄を知らないのか?ワインの······木!?
混乱している俺と不思議そうな顔のロバートさん。
なぜだろう。ここにきて初めて会話が噛み合っていない気がする。
「え~と······リョウの国でもワインの木、あるよね?」
やっぱりワインの木って言ってる!しかも、あるのが当然みたいに。
あれ?本当は木からなるのか?―――いや、違うし!!
「俺の知る世界では、ワインの木はないです。ワインは葡萄から作ります」
そう、発酵させて作るんだ。
『ワインの木』は存在しない。
「あー······リョウの国では······そうか」
『気にしなくていい』と話を切り替えようとするが明らかに残念そうなロバートさん。
木が枯れていると言っていたから、なにか困っているんじゃないのか?
「力になれるかわかりませんが、教えてください」
ロバートさんは少し考える素振りをみせる。
それから俺の目をじっと見て、紅茶を一口飲み······。
「時間もあまりないので必要なところだけ説明する。質問とかあれば都度聞いてくれていいから」
と、前置きして話し始めた―――。
今回飲ませてもらったワインは、ロバートさんが管理している土地で育てている『ワインの木』からなるのだそうだ。
もちろん木なので寿命はあるし、毎年味の変化も多少はあった。
しかしここ十数年は味が落ちていくばかりで、最終的には今の味になってしまったのだという。
まぁ落ちたといっても少しずつなので、売上げが激減しているわけではないらしいのだが。
つまり元々俺が知っている味よりは薄いらしい。
うーん······残念だ。
ちなみにワインの木は、後日見させてもらったのだが―――うん、確かに『ワインの木』······というか『ボトルの形をした木』だった。
「なにか原因の予想はついているんですか?」
「う~ん······考えられるのは『サン·ファルー』が―――あぁ、モンスターなんだけどね。それが集まらなくなったことかな」
おぉう、モンスターまで出てきたぞ。
ちなみに蝶っぽいモンスターだそうだ。
他の地域には凶暴なモンスターもいるらしいが、ロバートさんが管理しているところには比較的優しい奴しかいないらしい。
なんか西洋っぽいなぁ······と思っていたが、全然違う世界だった。
『もっと早く教えてほしかった』と俺が呟くと、
「ははっ、アンはマナーには厳しいからね。君を見て、こっちの説明よりも大事だったと判断したんだろう」
と笑われてしまった。
えー······俺そんなに酷かったのか??
「まぁ今日はこんなところかな。リョウがよければ、来週の視察に同行してほしいんだが」
「ぜひお願いします。実際に見てみないとわからない部分もありますし、解決出来れば本来の酒の味も知れるので!」
「ありがとう、嬉しいよ。改めて······これからよろしく」
ロバートさんが立ち上がり、手を差し出す。
「はい。よろしくお願いします」
俺も立ち上がり―――固い握手を交わした。




