3.夕食
食事の時間になり、伯爵と共に部屋を移動する。
食堂に着くとアリアの母親が先に待っていた。
とても朗らかで優しそうな感じの夫人と軽く挨拶を交わし、席に着く。
夫人には『こうなってしまったのも何かの縁ですし』と、特に嫌がられることもなく受け入れられた。逆に俺が心配になったぐらいだ。
ちなみに俺が『二人をどう呼べば?』と問いかけたところ―――人前では『お父様、お母様』、それ以外では名前で構わないと言われた。
敬語があまり得意ではない俺は、申し訳ないと思いつつ······有り難く呼ばせてもらうことにした。
さっそく伯爵を『ロバートさん』、夫人を『メリッサさん』と呼んだところ二人は思いのほか嬉しそうで『ありがとう』とまで言われてしまった。
理由を尋ねてみると、貴族は友人同士でも名前で呼びあうことは殆んどないそうだ。親しいごく一部の友人に時々呼ばれるくらいで、ロバートさんは『堅苦しいのは好きじゃないんだけどね~』と笑う。
俺も『リョウ』と呼んでもらえることになり―――正直、複雑な気持ちだったので嬉しかった。
(べっ、別にセンチメンタルになってるわけじゃないんだがな!―――って、誰に言い訳してるんだか······)
椅子に座るとグラスに飲み物が注がれる。
(······ん?これって······)
馴染みのある香りに鼻をクンクンさせ―――目が点になった。
「さぁ、乾杯しようか」
「えっ!?ちょっ······ちょっと待ってください!」
右手に持ったグラスを上げたまま、2人がこちらを向いて不思議そうに首をかしげる。
なぜ俺が慌てているのか全然わかっていないようだ。
「いや······これワイン·········お酒、ですよね?」
俺は自分に注がれた飲み物が入ったグラスを持ち上げて確認する。
「ん~······そうだね?」
「お······私、未成年ですよ?!」
(飲酒、ダメ、絶対だろ!!)
「······未成年。あぁ、もしかしてリョウの世界では18歳でお酒はダメなのかな?」
「!!」
言われて気付いた。そうか、ここは俺がいた世界とは違うんだ······と。
『成人するまで』と諦めていたが―――。
「······この世界って」
「18歳から飲酒可能だよ。ちなみにアリアはすぐに酔うから飲むのは少しだけだったけどね」
ウィンクしながら茶目っ気たっぷりに答える。
(ふぉぉぉ······よっしゃあー!)
ロバートさんの回答に心のなかでガッツポーズを決めた。
「あっ、でも種類によってダメなものとかは?」
確か他の国ではお酒の種類によって飲める年齢が違ったはず······ぬか喜びする前に確認しなくては。
「問題ない······というかリョウの国は分けるほど種類があるんだね?一度飲んでみたいよ」
ハハッとロバートさんが笑う。
「―――さぁ、問題も解決したことだし乾杯しようか」と、仕切り直したロバートさんがグラスを上げた。
続いて俺とメリッサさんもグラスを持ち上げ、乾杯して口元へ運ぶ。
(いやぁ、まさかこの世界でこんなに早くお酒が飲めるとは)
嬉しい気持ちで一口飲み······(くはぁ~············ん???)
思わぬ衝撃に固まった―――
(いやいや、気のせいだろ)
チラッと二人を見ると普通に飲んでいる。もう一度口に含み味を確かめる······が
(―――やっぱり味が薄い!!なんだこれ!?水?水を飲んでるのか?)
頭が混乱するほど、この世界の酒は不味い、というか味がほとんどしなかった······。




