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2.レッスン開始

昼食の時間になり料理が運ばれる。


「旦那様より『夕食はご一緒に』とのことでしたので、粗相のないよう昼食は食事マナーを学ぶ時間とします」

「はい」


伊達に40数年生きてないぜ。食事マナーなんて簡単、簡単―――と、軽い気持ちで始めた······が、


―――ピシッ―――


「違います、もう一度」

「はっ、はいぃ······」


全然ダメだった。

俺が知っていたのはナイフとフォークを外側から使うとか途中の合図ぐらいで、スープの飲み方からデザートの最後の一口まで何度も注意された。

そこまで酷くないと思っていたんだが······やっぱり貴族様は違うらしい。

食事をしたのに腹が満たされない。


(あ~······昨日の飲み会が懐かしい。)


遠い目をしている俺を無視してアンが告げる。

「10分後に先程と同じ所作の()()を行います」

「じゅっ、10分!?」

「えぇ。もう少し短くなさいますか?時間も限られていますので」

「うっ···10分でお願いします······」



アンが片付けと準備のために部屋から退出した瞬間―――よほど緊張していたのか、ホッと息を吐き出した。


(アンさん恐えーな。おふくろみたいだ)

なにも言わなくても圧がすごい。そして絶対に逆らってはいけないオーラがある。

あれ?令嬢になった俺のほうが立場上じゃねぇか??―――······でも恐い!!


そんなことを考えていると10分はあっという間に過ぎ―――レッスンが再開された。



「もっと背筋を伸ばす!顎はもう少し引いて······そう。足は―――プルプルしない!!」

「はい!!」

「―――よろしい。では今からその姿勢をキープしながら会話を続けてください。」


ただ座ってるだけなのにこれはキツい。その上会話まで······貴族の嬢ちゃんスゲーな。俺、大丈夫だろうか。


「ニタニタしない!―――笑顔がひきつってます!!もっと自然に」

「こっ······こう?」

「―――なんでそうなるんですか」


頭を抱えるほど酷かったらしい。




「まもなく旦那様と奥様がお帰りになる時間ですので、本日のレッスンは終了です。」

「ありがとうございました」

「最後のほうは上手に出来ていました。後は言葉に気をつけていただければ問題ないでしょう。」

「はい」

アンも鬼のよう―――失礼、厳しい顔つきから少し穏やかになった。


なんとか無事に終わった~······と思っていたら

「この後のスケジュール、お忘れですか?」と、厳しい表情に戻ったアンに言われ、頭をフル回転させる。


スケジュール······―――はっ!まだ両親との食事が残ってたー!!

「思い出されたようですね。では後ほどお呼びします」

そう言ってアンは数人のメイドに指示を出し、去っていった。






ドアが閉まり、しばらくすると紅茶が出された。

(はぁ~······普通に過ごすだけでこんなに疲れるんだな。)

深呼吸してカップを口につける。緊張していた体がゆっくりと落ち着きをとりもどす。


レッスンを受けて気付いたのだが嬢ちゃん―――アリアの体は、使い方のコツさえわかれば体勢をキープすることは簡単だった。コツを掴むのが難しくてなかなか出来なかったが······。

有り難いことに筋肉痛に悩まされることはなさそうだ。

過去の記憶や知識は、残念ながらわからないが······少しでも彼女の努力が無駄になっていなくてよかった。



―――――



―――コンコン―――


部屋をノックすると中から入室の許可が下りる。


「失礼します」

ドアを開けると室内には男性が一人ソファーに腰かけていた。アリアの父親だろう。

見た目は俺と同年代か、少し年下だろうか。

部屋に入り、習ったばかりの挨拶をして向かい合うように座る。


「さて。一応報告は受けてはいるが、もう一度話してくれるかい?」

落ち着いた様子で話しているが、その目はさすがはこの家の主というべきだろう。

ジッと見定めるような目つきでこちらを見ている。

そりゃあ今まで育ててきた大事な娘の中身がこんなおっさんに替わっちまったら普通はそうなるよな。まぁ、取り乱さないだけマシだな。


途中伯爵から数回質問が入りつつ、俺は生前から今日のことまでを話す。

俺自身も今後どうなるかわからないが、変に期待を持たせないようアリアとしての記憶が一切ないことも正直に話した。




「―――以上です」

「わかりました。少し······失礼」

話が終わり、最後まで視線をはずさなかった伯爵が、上を向いて目をつぶる。


『ふぅ······』と息を吐き、頭をもとに戻した伯爵は―――笑っていた。



「いやぁ、まさかとは思ったけど話を聞いて驚いたよ」

「······もっと色々言われるかと想像していましたが」

「あ~······まぁ、なってしまったものはしょうがないからね」


そう言って笑った伯爵は、話す前と違いとても親近感がわいた。

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