クリスマスプレゼント!
不安げに大きな足音を立てて、自室を歩き回っている少女がいた。どうも落ち着かないらしく、椅子に座ったかと思えば、ベッドに倒れこんだり、そしてまた歩き出すといった具合だった。
彼女が落ち着かないのも無理はない。今日は彼女が大好きな、恋していると言ってもいい、友人の由紀乃がクラスメイトの桐子と出かけるというのだ。
今日は何の日か、彼女は足をとめて改めてカレンダーをじっくりと観察した。何度見ても間違いない。今日はクリスマスイブだ。クリスマスイブに女の子二人で出かけるなんて、デート以外にあり得ない。
しばらく頭を抱えていたが、やがて彼女は決意した。由紀乃を邪な手から守らなくては。
彼女はコートを着て、家を出た。
由紀乃の家の前で、冷たい手をこすり合わせながら、彼女は扉を注視していた。今か今かと由紀乃が出てくるのを待っていた。本当のことを言うと出てこないのが一番なのだが、それはそれで気がかりなことがあった。もうとっくに由紀乃と桐子は待ち合わせをしていて、出かけてしまったのではという不安だ。
しびれを切らした彼女が呼び鈴を押そうとしたとき。扉が開いた。彼女は目にもとまらぬ速さで近くの電柱の影に隠れる。出てきたのは由紀乃だった。
ああ、今日もかわいい! と目に思わずハートマークを浮かばせて、由紀乃の後を追った。
由紀乃は桐子とアウトレットで合流した。
「く〜。二人が何を言っているかわからないけど、二人とも笑顔ですごい楽しそう! 桐子め、その位置を私と交換しろ!」
二人は洋服屋に移動して、真剣なまなざしで、洋服を品定めしている。そして由紀乃は二着同じ服を買おうとしている。
「ああ、それはペアルック!? しかもかわいい私好みの服……。う、うう。」
ついにストレスに耐えられなくなり、彼女は床が水浸しになりそうな勢いで泣き始めた。あたりは涙で溢れ、建物は水槽のようになり、魚たちが気持ちよく泳いでいた。だが彼女は泳げずに水の中に沈んでいく。自分の涙で溺れていくのだ。やがて水面から差している光が深海を明るく照らし、優しい声がひびく。
「どうしたの。こんなところで泣いちゃって」
気づいたら周りには涙の水はなく、魚たちもいなくなっていた。
「え、由紀乃?」
目の前には由紀乃が天使のような雰囲気をまとって立っていた。今なら天使の輪が頭の上に見えそうな気がする。由紀乃が差し出した手にはハンカチが握られていた。
少女はまた泣き始める。
「由紀乃おおおお。ごめん、私気持ちが抑えきれなくて、ついストーカーみたいなことしちゃって、ごめん、ごめんね。でも私のこと見て欲しいの。お願いだから私のことだけを見て欲しいの。でもこんな私のことなんて嫌いだよね」
由紀乃は手提げ袋から、さっき買った洋服を取り出し、少女に手渡した。
「え、どういうこと?」
「あなたにプレゼントよ」
由紀乃の声は温かかった。少女の悲しみに沈んだ心を優しさで包み込むような口調だった。
「え、由紀乃が私に!?!?」
少女は自分と由紀乃の顔を交互に指さす。
由紀乃はうんとうなずいた。
「少し早いけどメリークリスマス!」
「ありがとおおおお! 由紀乃おおおお!」
また号泣。でも今度は涙に溺れる感覚はなかった。嬉し涙だった。彼女は涙で濡れつつも太陽のような笑顔で貰った洋服を胸にしっかりと抱いた。
桐子が頃合いを見計らって口を挟む。
「さあ、今日はまだまだ始まったばかり。うんとクリスマスイブを3人で楽しもう」
「ありがとう、桐子!」
といいつつも彼女は、せっかくなら由紀乃と二人きりになりたいと思ってしまい、そんな自分を恥じるのだった。