第二十四章「ヴァイリス魔法学院」(4)
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「えー、ごほん、今日はね、生徒諸君に大切なお話があります」
朝礼台の上に立ったヴァイリス魔法学院の学長が、拡張音声魔法で生徒たちに言った。
おとぎ話に出てくるイメージそっくりの、白いもこもこした口ひげが胸元まであるような、優しそうなおじいさん先生だった。
グラウンドに整列する全校生徒。
他校からの生徒もたくさんやってくる学期休暇特別講習で全校朝礼をすることは、異例中の異例らしい。
「最近、正規の詠唱を使わず、『ウン・コー』なる詠唱で火球魔法を放つのが流行っているようだが、これを校内で使用することを禁止します。大変危険です」
学長の言葉に全校生徒がどっと爆笑した。
学長先生は真面目に言っているので、魔法講師たちが爆笑する生徒を注意しているけど、学長先生が「ウン・コー」って言って笑うなという方が無理があると僕は思う。
「いいか、君だけは絶対に笑うなよ、ベル。嘘でもいいから反省した顔をしておくんだぞ。君が諸悪の根源なんだからな」
「流行らせるつもりはなかったんだよ。みんなもみんなだよ。違う言葉で試せばいいじゃないか」
「……それが、なぜか君が言った言葉でしか発動しなかったらしい」
「そんな馬鹿な話が……」
学長先生の話が続いている。
「正規の詠唱方法にはね、すべて、いにしえの偉大な魔導師たちによって作られた哲理が込められているんだ。長い詠唱にはちゃんとした意味がある。それをね、勝手に解釈して省略した魔法は、どんな影響を及ぼすかわからない」
「その哲理がわからないなら、試すしかないじゃないか……」
ほとんど最後尾にいる僕が小さくそうつぶやくと、学長先生はなんと、急に僕の方を向いた。
「ほう、すばらしい! キミは冒険者だけでなく、学者にも向いているようだね」
学長はほとんど目が隠れかけた白い眉をハの字にさせて、にっこりと笑った。
(す、すごい……、とても僕のつぶやきが聞こえるような距離じゃなかったのに)
隣の生徒にもよく聞き取れなかったであろう僕の小さなつぶやきを、ものすごく離れている上に、かなりのおじいさんで耳が遠くなっていてもおかしくない学長先生は正確に聞き取っていた。
「キミの言うことは学者としてとても正しい。魔法使いを志す者は貴族が多い。貴族はだいたい保守的だからね、先人の技術を学んだらそれで満足する。学者には向かない」
急に学長先生が貴族だらけの魔法学院で貴族批判のようなことをはじめたので、講師たちがうろたえている。
「キミのようなタイプの人間が、次代の魔法技術というものを改革していくのかもしれない。それはこの私が認めよう」
(おお、面白い学長先生だ)
僕は魔法学校に来て、二人目の興味がある先生に出会った気がした。
ちなみに、一人目はヴェンツェルのお姉さんだ。
「だがね……、まつおさん」
学長先生が大きな白いヒゲを触ると、胸のあたりまで伸びているそれがゆさゆさと揺れた。
「古代魔法であった火球魔法を500年前に現代魔法として確立させたのはね、魔法卿と言われたベルベティ伯爵という人物なんだ。彼はその人生のすべてを費やして古代文字を解析し、その術式をヴァイリス語で翻訳し、『詠唱』という形をとったことで、我々は今日のように、きちんと修練を積んだ魔法使いであれば誰でも使える魔法となったのだよ」
学長先生の説明はとてもわかりやすい。
エタンのお母さんみたいな先生とはえらい違いだった。
「そんなベルベティ卿が、自分が一生かけて作り上げた火球魔法を、次代の若者達が『ウン・コー』なんて掛け声で使っていると知ったら、どんな気持ちになると思うかね?」
(ああ……なるほど)
学長の言葉に他の生徒たちが爆笑したけど、僕は初めて、自分のしたことを少し反省した。
「先人に対する敬意が足りませんでした。学長先生」
僕が小さくつぶやくと、学長先生はこちらを見てニッコリと笑った。
「たとえば車輪は馬車や荷車を生み出した素晴らしい発明だ。次に車輪を使った何かを考える時に、我々は車輪が発明されたところからスタートすることができる」
学長先生はみんなに言った。
「逆に、車輪を使った何かを作る時にね、車輪というものがすでにあるのに、車輪を発明するところから始めるのは馬鹿らしい。この愚かさを『車輪の再発明』というんだ」
(車輪の再発明……)
「我々の魔法研究のほとんどは、失われた古代魔法という『車輪の再発明』をしているにすぎない。だが、だからこそね……、車輪を最初に考えた人のことをしっかりと学ぶのは、すべての学徒諸君の義務だと私は思う」
学長先生はそこまで言ってから、いたずらっぽくウィンクした。
「結論。今後、魔法学院で『ウン・コー』なる魔法を使った生徒は退学にする。以上」
学長がそう言うと、全校生徒がさらに爆笑した。
「……まつおさん、今の話、どういうことかわかった?」
学長先生が朝礼台から降りるのを見てから、ミヤザワくんが小声で僕に尋ねた。
「うーん、よくわからないけど、『パン・ツー』だったらオッケーってことじゃないかな」
僕がそう言うと、学長先生があわてて朝礼台に上った。
「パン・ツーもダメ!!」




