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第四章 「士官学校の宝具(アーティファクト)」(1)~(2)


 士官学校での生活も3カ月が過ぎた。

 なんとなく、日々の鍛錬で皆、入学当初よりも精悍な顔立ちになってきた気がする。

メルやキム、ルッ君、ユキ、偽ジルベールに花京院、ジョセフィーヌといった、もともと突出した能力があった連中はそれぞれの分野をさらに伸ばしていた。


 また、その一方で、埋もれていた才能を開花させた奴もいた。

 C組で一番空気に近い存在だった、ミヤザワくんがそうだ。


「ミヤザワくん、すっごーい!!」

「アンタ、ヤワな顔してヤるじゃなァい!」


 ユキとジョセフィーヌが感嘆する声が聞こえる。


「そ、そうかな? はは……」


 ミヤザワくんが控えめに微笑する。

 ルッ君と同じぐらい小柄だが、ルッ君と違って筋肉がまるでない。少女みたいだ。

 女の子みたいなさらさら髪。

 特にセットもしていないのでおかっぱみたいになっているのだが、こういう女の子たまにいるよね、という感じで、それはそれで意外と様になっている。

 ……男なんだけど。


 魔法講義の時間に、それは起こった。

 相変わらず「発火」すらまともにできない僕を尻目に、ミヤザワくんはなんと、とんでもない魔法を発動させたのだ。


火球魔法(ファイアーボール)」。

れっきとした、魔法使いの扱う攻撃魔法の一つである。


 攻撃魔法としては初歩中の初歩だが、高い魔力を持つ魔導師(ウィザード)が放つファイアーボールは、上位モンスターである「氷竜(アイスドラゴン)」の鱗をたやすく貫通するというのだから、バカにできない。


 そもそも、幼少期からエリート教育を施されたA組の連中ならまだしも、まだ冒険者ですらなく「魔術師組合(マジシャンギルド)」にも所属できない僕たちみたいな環境で、見様見真似で「攻撃魔法」を発動できるというのは、ものすごいことなのだ。


「ぐぬぬぬぬっ」

 

 僕は思わずうめいた。

 ミヤザワくんは、僕の次に劣等生だったのだ。

 剣技講義が終わった時なんかは、お互いのふがいなさを慰めあったりする友達だったのに。


「わはは、すっかり置いてかれちまったな、まつおさん」


 キムが僕の肩をぽんぽんと叩いた。


 まったく、こういう時に必ず近くにいるのが実に腹立たしい。

 正直なところ、僕は焦っていた。

 今週末には、正式に「適性考査」が行われるのだ。

 その結果に合わせて、僕たち士官候補生の一年生にはそれぞれの適正に合わせた武具などが授与されるらしい。


 授与される武具はまちまちで、決して高級品ではない場合も多いようだが、いずれにせよ、冒険者でない僕たちにはとてもじゃないけど手が届かないような一級品だそうだ。

 実地訓練の時のような、木製の棍棒や弓、杖とはワケが違う。

 そんな、初めての自分用の武器が与えられる考査が、今週末に迫っているのだ。

 

 わかっている。

 今更焦ったところで、もうどうしようもない。


「でもなぁ……」


 顔を紅くしてうつむいているミヤザワくんをぼんやり眺めていると、どうしても『自分の目指す道』をギリギリで見つけた彼が羨ましくなってくる。


 そんな僕の気持ちがわかるのだろう。

 ミヤザワくんが気遣わしげに、こちらをちら、ちらと見てくるのがまた心に痛んだ。

 そんな気を使わせないように、さっきからこっちも笑って手を振っているのに。




「やったじゃん、ミヤザワくん」

「……うん、ありがと」


 休憩時間に中庭のベンチで一人、のんびりしていると、ミヤザワくんが近づいてきた。

 遠慮がちにしながらも、僕の隣にちょこん、と腰かけた。


「どうやったの?」

「うーんとね」

 

 ミヤザワくんが小さなアゴに細い指を添えて考える仕草をした。

 こうして近くにいると、女の子と話しているような気分になる。


「こうね、教室にある空気をぜーんぶ集めてきてね、それをぎゅーっとしてね、ばーん!ってするかんじ。そしたら火が、ボワーって」

「な、なるほど」


 まったくわからん。

 教室では空気のような存在だったミヤザワくんだが、話しかけるとけっこう答えてくれるし、二人でいるときは意外とおしゃべりだったりもする。


「あの、さ、その、ぼく、うまく言えないんだけどさ」


 ミヤザワくんが気まずそうに切り出したので、僕は慌てて言った。


「あ、そういうの大丈夫だよ! あれでしょ、フォロー的な、慰め的なやつ」

「ううん、そうじゃなくて。い、いや、フォローなんだけど、慰めじゃないっていうか」

「フォローなんじゃん」


 僕は笑った。


「あはは、そうだね。でもね、聞いて?」


 僕は思わず顔をそむけた。

 何が悲しくて、上目遣いで「聞いて?」って言ってくる男子にドキッとしなくてはならないんだ。


 「まつおさんはね、きっとね、何かあるよ」

 「な、何かって」


 僕はズッコケそうになった。

 一生懸命フォローしてくれているのがわかるから、あまりツッコまないようにしようと決めていたんだけど、思っていた以上に具体性がなかった。


「ううん、そうじゃなくてね」


 でも、いつもならここであきらめるミヤザワくんなのに、今日はやけに強弁だった。


「まつおさんはね、きっと、他に誰もが持っていない、何かを持ってる。そんな気がするんだ」

「……『爆笑王』とか?」

「くすっ、そうかも」


 ミヤザワくんは笑った。


「どうしようかな……、適性考査で『宴会芸グッズ』とか渡されたら、僕、もう立ち直れないかも」

「あははははは! おもしろいね」

「ぜんぜん面白くない!」


 僕は無邪気に笑うミヤザワくんのほっぺを軽くつねった。

 

 僕はわりと本気で心配しているのだ。

 爆笑王の称号を与えられたときもそうだ。


 この世界の僕に対する『悪ふざけ』のようなものを……。



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