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第十六章「鷹と小鳥」(1)


「なんと……、父上からそれを贈られたというのか……」


 僕が机の上に置いた漆黒の軍刀(サーベル)を眺めて、ゾフィアが驚いた。


「その剣は小鳥遊(たかなし)という。若かりし頃の父が諸国漫遊の旅に出ていた頃に、東方王国セリカの王から与えられたものだという。子供の頃にせがんだものだが、一度も触らせてもらったことはなかったぞ……」

「たかなし……? なんか名字みたいな名前だな」


 そう言ったルッ君に、ゾフィアが鼻くそでも見るような視線を送った。


「セリカの言葉で、小鳥が遊ぶと書いて小鳥遊(たかなし)だ。黒い漆塗りの鞘に、金と紅の細工で小鳥が枝の実をついばんでいる様子が描かれているだろう?」

「ああ、なるほど。小鳥が遊んでいるということは(たか)はいない。だから小鳥が遊ぶと書いて小鳥遊(たかなし)ということなんだね?」

「そういうことだ。あなたの気風を表すにぴったりの剣と言える。さすがは父上だ」


 鷹がいないから、小鳥遊(たかなし)か。

 僕は真ジルベールの軍刀(サーベル)に施されていた鷹の意匠を思い出した。

 王宮で『鷹の貴公子』って呼ばれているんだっけ。


 なんとなく宿命じみたものを感じて、僕は背中をゾクッと震わせた。


「素晴らしい剣ね」


 職人のような目で刀身を眺めながら、メルが言った。


「まるでセリカで作られている『(かたな)』という(サムライ)クラス専用武器の名刀を、軍刀(サーベル)として拵え直したような……」

「さすがの目利きだな、メル殿」


 そういえばいつのまにか、ゾフィアのメルに対する呼び方が『メル殿』に変わっていた。


「セリカの王が父上が扱いやすいようにそうしたのだ。つまりその剣は父上とセリカ国王との友好の証というわけだな」

「な、なんでそんなもんをよりによってまっちゃんに……」

「まったくだよ……」


 興味津々で覗き込むユキに答える。

 僕の腕に大きな胸がのしかかり……そうになったところにアリサが分厚い聖典を置いた。

 そんな使い方してバチが当たらないのだろうか。


「にしても薄い刃だよな! こんなんで本当に切れるのか? ちょっと指で……うおおお血ぃ出たっ!!」


 試しに刃先に指をすべらせた花京院の指が思いの外ざっくり切れた。

 アホだ。


「あんまりバカなことでケガしてるとお金取るからね」


 あきれた顔で言いながらも、アリサが花京院に回復魔法(ヒール)をかけてあげている。


「よかったな。これで少しは剣技講習に身が入るんじゃないか?」

「どうかな。僕には才能がないみたいだから」 


 キムに答える。


「剣技だと思わなければ良い」


 輪に加わらずマイペースに読書をしていた偽ジルベールが突然口を開いた。


「『そこにちょうど良い道具があるから使うのだ』という意識で使えるようにするほうが、おそらく(けい)の性格に合っているのではないかな」

「私もそう思う」


 偽ジルベールの言葉に、メルが同調した。

 この二人、なぜか僕の育成方針になると意見が合うようだ。


「たしかに、あなたコボルト狩りの時、腰に剣を差しているのに棒切れを拾って叩いていたものね」


 アリサの言葉に周囲がどっと爆笑する。


「それは剣ではなく、道具だ。右腕が少し伸びたのだと思って、新しい右手を動かすつもりで使ってみるといい」

「おおっ、なんかそれは本当に僕に向いている考え方な気がする。ありがとう、閣下!」


 お礼を言うと、軽く手で応えて偽ジルベールは読書に戻った。

 性格が普通ならめちゃくちゃかっこいい奴だと思うんだけどな。


 たしかに、さっきの花京院を見ればわかるけど、この剣の切れ味はすごい。

 僕が無理やり振り回して使うより、そうやって自分の手だと思って使った方が上手く使える気がする。

 ベルゲングリューン領の森で、暇な時にちょっと練習してみようかな。


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