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第九章「廃屋敷の冒険」(6)



「霊体がいる……、4体、5体……もっとよ!」


 地下室の扉の(かんぬき)を外していると、アンナリーザが僕にささやいた。


「君なら何体やれる?」

「一体ごとの反応はそんなに強くない。2体までならすぐにやれるわ」

「よし、手前から頼む」


 僕はそう言うと松明を左手に持ち替えて、後ろで青白い顔をしているミヤザワくんに歩み寄り、ミヤザワくんの肩をがっしりと掴んだ。


「ミヤザワくん、残念ながら、どうやら中には霊体がいるらしい。それも複数だ」

「……」


 ミヤザワくんは身体を震わせながらも、僕の顔をじっと見ている。


「だけど、ここだけはどうしても突破しなくちゃいけない。そのためには、どうしても君の(ファイアーボール)が必要なんだ」

「……うん」

「どういう配置かはわからないからなんともいえないけど、手前の霊体はアンナリーザがやってくれるから、ミヤザワくんはなるべく後ろに下がって、一番遠い霊体から狙って欲しい。……できるかい?」

「やってみる……、ううん、やる!」


 ミヤザワくんがびっくりするぐらい力強い声で答えた。

 かっこいいな……。


「ありがとう、頼りにしてる」


 僕は花京院とジョセフィーヌの方を向いた。


「二人は部屋に入ったら、霊体がいようが何が待ち構えていようがお構いなしに突っ込んでいって、突き当りの扉の(かんぬき)を最優先で閉めるんだ。そこさえ閉めてしまえば、奴らはほとんど何もできない。戦力の大半を屋敷の厚い鋼鉄の扉で閉じ込めることができる」

「……」

「……」


 珍しく真剣な眼差しでこちらを見る二人に、僕は続けた。


「二人は僕が直接頼んだわけではなく、自らの意志でここに来てくれた。にも関わらず、僕はハッキリ言って今回の作戦で一番危険な役割を二人に任せようとしている」

「……」

「……」

「でも、この役割はたぶん、君たちにしかできない。キムでも無理だ。……お願いできるかい?」


 僕がそう言うと花京院は大きく深呼吸をして、ジョセフィーヌは鼻を軽くこすった。


「バケモンがいようと何がいようと関係なしに突進、かぁ……、あんたはホント、オレたちの使いどころってのをわかってんなぁ!」

「ああぁぁ何がいるのかしら!!楽しみ〜ィ!! ね? ね? 早く開けちゃいまショ?!」

「ふふっ、あはは!!」


 まったく、得難い級友(ばかやろう)どもだ!!

 本当に、僕は最低の成績だが最高のクラスに恵まれた!!


「閣下はこの中でイレギュラーへの対応が一番優れていると思うから、全部任せる! 全員が無事に帰れるようにしてくれ! もちろん、閣下自身もね!」

「ふむ、何を言われるかと思ったが、それこそ最上の采配である! 任せよ!! 諸君らを無傷で凱旋させてやろう!!」


 偽ジルベールが高らかに宣言した瞬間。


「いって!!」

「アラやだも〜、気をつけなさいよ〜。大丈夫?」

「あー平気平気、ちょっと腕を切っただけだから。ここ気をつけろよー! 壁に釘が出てるぞ!」


 偽ジルベールの宣言虚しく、さっそく負傷者が出てしまった。

 空気を読んでやれよ、花京院……。


「よーし、それじゃ、いくぞ!!!! 花京院!! ジョセフィーヌ!!」

「っしゃオラアアアアアアア!!!」

「えっ」

 

 ジョセフィーヌの野太い掛け声に、アンナリーザがドン引きした。


「うおおおおおおお!!!!」


 花京院がジョセフィーヌの雄叫びに同調してドアを一気に蹴破って、室内に突入した。


「レイスが6体!! 手前2体は私が!!」


 鋭い声でアンナリーザが叫ぶ。

 不気味な祭壇のようなものが置かれた広い室内の中央には大きな棺が置かれており、その周囲をボロボロのフードをかぶった姿の半透明の霊体――レイス――が、青白くぼんやりとした光を帯びて漂っている。

 その手前には、拷問されていたのだろう。鎖で繋がれて血まみれになった兵士がうずくまっている。


 僕たちの侵入に気付いたレイスたちが一斉にこちらを振り向き、フードの中から骸骨になった歯をむき出しにして威嚇してきた。明確な声は発しないが、終始不気味な唸り声のようなものが聞こえる。

「レイスの特徴2秒でお願い!」

「魔術師が死霊化したもの! 怖いのは魔法!」

「よし、奴らの詠唱が終わる前に倒そう! ミヤザワくんお願い! 花京院たちに当たらないように!」

「わ、わかった!」


 そうしている間に、花京院とジョセフィーヌが雄叫びをあげて突入する。

 レイスたちが威嚇をして、鋭い爪で花京院たちをひっかこうとするが、まったく怯むことなく突進していく。


 僕はその様子を確認すると、大きな棺がある辺りに全速力で駆け出した。

 そのまま祭壇の上をスライディングして向こう側に着地ざまに、花京院たちに気を取られていた中央のレイスに向かって松明を振り下ろした。


「ギャアアアアアアア!!」


 ぼそぼそと魔法詠唱をはじめていたレイスに僕の松明が命中すると、霊体化されているはずのフード付きローブに炎が一気に燃え広がった。


 炎魔法が通るならもしかしたら……と思ったが、やはり効果はテキメンだった。

 レイスは燃え上がる炎を消火しようと、身をよじらせて抵抗している。


 さすがに一発では倒しきれないか……と思ったが、なぜかレイスのフード付きローブがしつこく燃え続けている。

 よく見ると、レイスのローブには、僕の松明から飛んだ燃え盛るうんこがべっとりとこびりついていた。


「うはははは!! おれのうんこファイアーを見たか!!!」

「@&%$@$&#!!!!」


 ものすごく恨みがましい凄絶な絶叫を上げながら、レイスが消滅していく。

 ……一度死んで浮かばれなかった死霊だったんだろうけど、はたして二度目がこんな死に方で成仏できるんだろうか。


「やるな!! さすがの機転よ! 感服したぞ!」


 僕に声をかけた偽ジルベール。

 さすがの機転は彼の方だ。反対側の中央のいい位置にいる。


「閣下もソイツに使って!」

 

 僕は松明を閣下に投げてよこした。


「うわっ!!」


 松明からうんこの飛沫が飛ぶことを恐れた偽ジルベールが、激しく動揺しながら松明をキャッチする。


「〜っ!!!!」 


 だめだ、こんな状況なのに死ぬほど面白い。

 なんでこんなヤバい状況下で必死に笑いをこらえなきゃいけないんだ。


 僕しか見ていなかったのが本当に悔やまれる。

 みんなにも見せてやりたかった。

 もしこの場を生き残ることができたなら、どんな時も自分のスタイルを崩さなかった偽ジルベールの「うわっ!!」を、僕はきっと、一生忘れることはないだろう。


「ファイアーボール!!」


 詠唱を終えたミヤザワくんの魔法が一番奥のレイスに命中する。


聖なる矢(ホーリーアロー)!!!」


 一方のアンナリーザは、まばゆいほどに光り輝く魔法の矢を指先から放っている。

 指先といっても、1本指じゃない。

 5本でもない。

 両手合わせて10本の矢を同時に、左右のレイスに放っている。

 ……しかも、無詠唱だ。それを連発している。


「す、すげぇ……」


 2体のレイスが左右の壁に、無数の光の矢で次々に縫い付けられていく様を、僕はしばらく呆然と見つめていた。


「ファイアーボール!」


 ミヤザワくんのファイアーボールは一発でレイスを倒しきることはできなかったが、詠唱を妨害した上に炎上をしているため、動きが止まっている。

 ミヤザワくんはそのレイスを追撃することなく、もう一体のフリーになっているレイスにファイアーボールを命中させた。


「ミヤザワくん、ナイス判断!!」


 僕が言うと、ミヤザワくんが肩をすくめてみせた。


「ふふっ、なんだよもうー、本番に強いタイプなんじゃないかー」


(かんぬき)閉め終わったぞ!!」

「足音が聞こえてくるワ!! 奴らが戻ってくるわヨ!!」


「閣下!! そっちはどう?」

「ああ! 私の華麗なる一撃で今片付いたところだ!!」


 よし! これでレイスは全員片付いた!!


「閣下にしか頼めない仕事がある! 男の中の男、騎士の中の騎士にしかできない、勇敢で誇り高い仕事だ!!」

「そのような役割を待っておった!! なんなりと言うが良い!! 」

「さっきの篝火(かがりび)をぜんぶキムの盾ですくって、扉の前に持ってきて!! で、扉の前でその松明で激しく炎上させるんだ!」

「……」


 偽ジルベールの身体がぴたり、と止まった。


(けい)よ……(たばか)ったな……。おそろしい男だ……」


 うらみがましい目で僕を見上げるが、僕は忙しいフリをして目を反らした。


「ぐぬぬぬぅ……、しかし、誇り高き騎士に二言はない……ッ、ここは引き受けるしかあるまい……ッ」


 偽ジルベールがすごすごと後ろに引き下がっていく。


「その兵士さん、どう?」

 拷問されていた兵士の様子を見ているアンナリーザに声をかける。


「まだ息があるわ。とりあえず回復魔法(ヒール)はかけたけど……本格的な治療は私では無理」

「わかった。花京院はこの兵士さんを連れてアンナリーザと外に出ていて。閣下が戻ってきたらジョセフィーヌも下がっていいよ。おつかれさま!」

「あいよ!」「わかったわ」

「あらン、もう終わりなのぉ?」

「ミヤザワくんも下がって。もしまた霊体が現れたら、その時はお願い!」

「わかった」


 鉄扉に到達した連中の足音が慌ただしく聞こえ、ドン!ドン!と激しく叩く音と何やら叫ぶ怒号が聞こえてくる。


「げほっ、げほっ……!! わ、 私はこれを恥辱とは思わぬ!! これは、これは将たる器を試されているのだ……ッ!!」


 偽ジルベールが涙を流しながらキムの盾をそんな鉄扉の前に設置した。

 途端に、鉄扉の向こうから聞こえてきた怒号が咳き込む音に変わり、扉を叩く音がどんどん弱々しくなっていく。


 続々と撤収準備にかかるみんなを見送りながら、僕は部屋を見回した。


「あとは……」


 僕は中央の祭壇に置かれている棺に目を向けた。


「やっぱりこれ……気になるよねぇ……」


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