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序章

人生初のラノベです。

自分が読んでみたいと思う異世界モノのラノベを書いてみたつもりです。

序章 「目覚め」


 気が付くと、そこにいた。


 優美で荘厳なレリーフが施された柱が点在する、広大な空間。

 薄暗く、壁の随所に掛けられた松明の灯りだけが、辺りを照らしている。

 巨大な講堂か何かだろうか。天井が見えない。松明の灯りが届かないほど高いということだろう。


「ルクス、こちらへ来い」

「おい、呼ばれたぞ」

「あ、俺か!は、はいっ!」

 

 ルクスと呼ばれた小柄な青年が慌てた様子で、呼んだ男――甲冑を身に纏っている、衛兵だろうか?――の元へ駆け寄っていた。


 ルクスはかろうじて衣服としての用を成しているような無地のボロ布を身に着けている。みすぼらしい身なりだが、たった今作られたかのように真っ白で、清潔だ。


 よく見れば、ルクスの他にも同じような身なりをしている人間が周りにたくさんいることに気が付いた。男女合わせて、30人はいるだろうか。

 そういえば、僕も同じ格好をしている。


「キムラMK2、こちらへ来い」

「お前、呼ばれているぞ」

「ええっ、オ、オレ、そんな名前なのか?!」


 大柄な青年が素っ頓狂な声を上げる。

 キムラエムケーツー?それはもしかして、マークツーと読むのではないだろうか?


(名付け親は何を考えてそんな名前にしたのだろう)


 小熊のような図体の男がきょろきょろしながら衛兵の方へ向かうのをぼんやり眺めながら、僕はそんなことを考えていた。


「まつおさん、こちらへ来い」

「あ、はい」


 名前を呼ばれて、思わず返事をしてしまった。

 そういえば、自分の名前はまつおさんだった。


 そう思った瞬間、まるで今まで見ていた夢を思い出そうとした時のように、それまでの記憶がどんどんあやふやになっていく。


「な、なぁ、アイツだけなんで『さん』付けなんだ?」

「きっと階級が上なのヨ」

 

 待機している男二人が、こちらを見ながら野太い声でヒソヒソしているのが聞こえてくる。一人のオネエ口調が多少気になった。


「バカね。『まつおさん』っていう名前なんでしょ?」


 その隣にいた女が、男たちの方を振り向きもせず、呆れたように言った。

 こちらをじっと見ている。長い銀髪の女。

 身なりは自分たちと同じだが、暗がりで反射するシルバーフレームの眼鏡が知的な雰囲気を醸し出している。

 暗くてよく見えないけど、かわいいんじゃないか。


「あン、そういうこと?!『まつおさん』が名前なのね!もう、まぎらわしいわっ」

「名付けた親の顔が見てみたいぜ」


 ……キムラMK2よりマシだろ。

 周囲の人間の視線を感じながら、僕は衛兵の前へと歩く。


「まつおさんよ、このヴァイリス王国によくぞ来た。私はヴァイリスの新兵教育を仰せつかっているボイドだ。ボイド教官と呼べ」

「あ、はい。……えっと、ボイド教官」


 立派なカイゼル髭をたくわえた衛兵に、軽くうなずいてみせた。

 敬礼でもしたほうがよかっただろうか。


「貴様はこの士官学校で、我がヴァイリス王国の新兵としての教育を受ける。そこで冒険者としてのイロハを学び、正式に『冒険者の証』を得ることができる。理解したか?」

「いや、さすがにそれだけでは……」

「……なんだ、お前は「こういうゲーム」は初めてなのか?」

「あ、い、いえ。やっぱりそういうことですよね。理解しました」


 『ゲーム』という言葉を聞いて、記憶があやふやなままの僕の脳は、なんとなく現在の不可解な状況をニュアンスとして理解したようだった。


「それでは、まつおさんにこれから、いくつか質問をする。その回答はお前の『適性』を判断する材料となるから、よく考えて答えるように」

「はい。ボイド教官」

「よろしい」


 兵士は『ボイド教官』と呼ばれるのが好きらしい。

 ボイド教官はピン、と伸びた口ひげを軽く引っ張ると、ほんの少しだけ表情を緩めた。


「お前は、社交的な方か?」

「はい。それなりに」

「……ほう。モテる方か?」


 どんな質問だよ。


「年上にはわりと。あと同性愛の人になぜか好かれます」

「ふむ。偏見はないのかね?」

 興味深そうにボイド教官が尋ねたので、僕は少しだけ身構えた。

「僕の性的指向とは異なりますが、一定の理解ならできると思います」

「なるほど。……ちなみに私はノンケだぞ」

「……聞いてません」


 ボイドはコホン、と咳をすると、こちらをちらりと見上げながら尋ねた。


「100人の他人の命と、5人の身内の命。どちらかを救えるとしたら、どちらを救う?」

「5人の身内の命」

「1000人の他人の命とでは?」

「5人の身内の命」

「10000人の他人の命とでは?」

「5人の身内の命」

「身内以外はどうでもいいと?」

「そういうわけではないです」

「どちらも救う、という発想はないのかね?」

「質問が『どちらかを救えるとしたら』でしたので」


 ボイドの質問が少し挑発的なものになっていたが、僕はそれには乗らず、声のトーンを変えないように意識して答えた。


「君は質問をしてから返答するまでがとても早いが、早く答えなければならないと思っているかね?」

「いいえ」

「普通の人よりも早いという自覚はあるかね?」

「はい」

「それは自分の頭の回転が早いからだと思うかね?」

「むしろ悪い方だと思います」

「では、なぜだと思う?」

「たぶん、思っていることを言葉にするのが得意なんだと思います」

「考えたことがそのまま言葉になってしまうことは?」

「気を遣うのがめんどくさくなってそうなることはありますが、基本ありません」


 ふむ……、とボイドは小さく頷いた。

 こんな質問で、なんの適性がわかるというのだろう。


「悪は裁かれるべきだと思うかね」

「はい」

「では、悪とはなんだ」

「うーん、一言で言うなら、他人がすごく嫌がることでしょうか」

「すごく?」

「生きていれば多少の不愉快なことはあります。それはお互い我慢していかないと、生きづらい世の中になってしまうので」

「自然環境の破壊や動物の殺戮などは悪ではないと思うかね?」

「すごく嫌がる人もいるでしょうから、規模によっては悪ですね」

「多少ならば仕方がないと?」

「はい。呼吸をしているだけでも酸素は減り二酸化炭素は増えますから」

「女は男が守るべきだと思うかね」

「思いません」

「女性はかよわい存在ではないと?」

「かよわい女性が何らかの被害を受けるのはだいたい男性が原因です。男が守らなくても女がのびのび暮らしていける世の中にしていくためには、女は守るべき弱い存在である、という考えの根底にある傲慢さを男が捨てなくてはいけないと思います」

「……なるほど。貴様のことが少しわかったぞ」

「うそつけ」

「何か言ったか?」

「いえ」

「少し退屈してきたようだから、もう少しそれらしい質問に変えよう」

「助かります」

 ボイド教官をちらりと見上げた。どうも口元が緩むのを我慢しているように見える。思ったより話せる人なのかもしれない。


「貧しい家族の父親が、その日の子供たちの食事のために盗みを働いた。処罰するべきだと思うかね」

「はい、やむを得ません」

「処罰することで、子供たちが路頭に迷うとしても?」

「はい、やむを得ません」

「やむをえないというのは、具体的にはどう、やむを得ないのかね」

「人から物を盗むということは、けっこう大変なことだと思います。普通は、それだけの労力で働けばその日の食事ぐらいはなんとかすることができるでしょう」


 僕がそう答えると、ボイド教官は初めて眉をひそめた。


「ふむ、君はずいぶんと恵まれた生活を送っていたようだが、もっと過酷な生活をしている者にとっては、そうとは言えないのではないか?」

「その通りです。つまり、普通の労働で家族の生活が成り立たないということは、その社会なり国家がまともに機能していないということです。社会が機能していないということは、つまり偉い人が仕事をしていないということになります」

「つまり、社会に問題があると?」

「そうなります」

「であれば、子供のためにパンを盗んだ父親を罰するのは間違いではないか?」

「はい。ですが、その父親を罰しないと社会はますます成り立たないので、やはり処罰は必要になります。つまり、やむをえません」


 パンという単語を聞いたとたん、口の中に唾液がたまっていくのを感じた。

 ボイド教官は頷くと、別の質問をする。


「剣と魔法、お前ならどちらを重視する?」

「……」


 少し、考えてから、答えた。


「どちらも重視しません」

「ほう、では、何を重視するのだ?」

「メシとやる気ですね」


 そう、さっきからお腹が空いていたのだ。

 お腹がすくと僕は気が短くなるんだ。

 とりあえず何か食べさせて欲しい。そうしたらもう少しやる気も出てきて、質問にもちゃんと答えるから。


「メシ……、つまり補給と兵の士気ということか?」

「そ、そうそう、そんな感じです」


 ボイド教官がいい感じの言葉に置き換えてくれたので、乗っかることにした。


「なので、とりあえず、何かメシを……」

「ハッハッハ!! 貴様はおもしろい」


 ボイド教官が豪快に笑い始めたので、周囲に軽くどよめきが起こった。

 こちらの会話は聞こえていないだろうが、ずっと無表情だった教官の変化に驚いているようだ。


「よろしい。それでは、最後の質問だ。安心しろ、メシは用意してあるぞ」


 ボイド教官は軽く口ひげに触れると、こちらの目をじっと見つめた。

 なんだろう、今までとは少し、雰囲気が違う。


「お前は、人を殺したことがあるか?」

「っ……」


 その質問に、はじめて動揺した。


「どうした、質問に答えろ」


 思わず目をそらそうとするが、ボイド教官の眼光は猛禽類のように鋭く、全身がしびれた

ように動けない。


「お前は、人を、殺したことがあるか?」

「……はい」


そう、答えた。

冒頭です。

ここからが本編なので、チラ見の方も、もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいです。

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