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Chapter.2 どうして、押し倒された!?

ー…どうしてこうなった…!?

乙女ゲーム【聖学園で捕まえて ~愛の証をあなたに~】の主人公に転生を果たしてしまっていた、私、アイリス・フレッチ。旧名、山田華子。

皇子ルートの終盤に起こる、悪役令嬢断罪イベントの最中に前世の記憶を思い出した私は、無理やりにイベントを強制終了させ、結局、誰とも結ばれる事なく聖学園セイント・アカデミーを卒業した。

学園卒業後は、王国直属の騎士団第一師団の後衛部隊への内定を貰ったため、喜んでそれに飛びついたのだが…。

もう一度言わせて貰おう。

どうしてこうなった!?

どうして…!




ー…どうして、私は王国騎士団長に押し倒されているんですか!!




聖学園セイント・アカデミーを卒業した私は、もう二度と乙女ゲーム主人公よろしくな行動はしまいと心に決めた。

聖学園での日々を思い返すと、「どうして、そこまで男子を惑わす事が出来ますかね!?あなたは!」と過去のアイリス・フレッチに裏手ツッコミをしたくなるほど、ヒロインヒロインしていたのだ。

…いや、全部、現在の私がしでかして来た事なのですがね…。

そのお陰で聖学園を卒業する間際、攻略対象達から矢継ぎ早の告白ラッシュに見舞われて大変だった。

眼福以上に、これまでの自分の思わせぶりな態度を詫びながら丁重に断る方に余力を注ぐ事になるなんて、乙女ゲームを単純に楽しんでいた前世では考えられない体験だった…。

ともかく、魔の乙女ゲーム空間だった聖学園から、私は無事に抜け出せたのである。

そして、今は王国騎士団第一師団所属後衛部隊の新兵として、日々を過ごしている。

聖魔法に特化した私の主な仕事は、魔物退治に赴く騎士団の周りに結界を張りながら移動したり、怪我を治療したりと言ったものだ。

尤も、魔物の侵入を防ぐ結界を張り続けながら移動したり、長時間結界を駆動させたり、怪我を瞬時に治療する…と言う技術は聖女ならではである。

聖魔法を使える後衛の団員は他にもいるが、私以上の聖魔法を扱える団員は居ない。

…いやぁ。一芸で手に職を持つなんて恵まれてるなぁ。

前世の私は、普通の事務職を熟すただのOLだったからなぁ。

「ー…フレッチ。疲れているなら、結界を解いても構わないぞ」

しみじみと考えていた私の顔を覗き込んで話しかけて来たのは、騎士団団長のルイス・ガルシア。

二十歳の若さで騎士団長に就任して以来、十年近くこのセイント国を守り続けている本物の騎士である。

魔物の存在や、諸外国からの脅威を第一線で退しりぞいて来た御人おひとだ。

国王からの信頼は厚く、騎士団員から慕われ、いつも目標に据えられている。

…そして何より、傷痕だらけの顔にも関わらず、端正なお顔立ちをしていらっしゃる…!

目は細いが力強さを感じる金目に、キリリとした眉。

面長でしゅっとした輪郭の顎。高い鼻筋。

右目に縦一線の傷痕はあるが、それすらも渋みとして良いテイストを醸し出している!

本日も眼福ありがとうございます。

…と言う感想は心の内に留めておいて、と…。

「団長!たかが一兵卒に労いの言葉、感謝痛み入ります。

ですが、私の任務は結界の展開と怪我人の治療でありますので、お気遣いは無用です!」

そう言いながら、私はルイス団長に向かって意気揚々と敬礼した。

こう言うやり取り良いなぁ!仕事出来るって感じで滾るぅ!

「…。尤もだが、いざと言う時に使い物にならないのでは困る。

一度、結界を解いて休憩しろ。団長命令だ」

傷痕だらけの顔に皺を刻んで、ルイス団長は腕を組みながら言った。

そもそも今年入団したばかりの新卒に団長が声を掛ける事自体が異例なのだが、こうして団長命令と言う建前で休ませようとしてくれる事の方が破格の対応だ。

やはり、聖女の肩書きは伊達ではない。

「…了解しました。ルイス団長のお言葉に甘えて、少しの間休ませて頂きます」

頭を下げつつ言ってから顔を上げると、丁度ルイス団長と目が合った。

反射的に社交辞令で笑うと、ルイス団長にふいっと顔を背けられてしまった。

ヘラヘラ笑いが気に障ったのだろうか?

「ウッウン…ともかく。お前は後衛として、後衛の仕事を熟す必要がある。

…が、下手な行動は控えろ」

不自然な咳払いの後に説教をされたと思ったら、ルイス団長は足早に去って行ってしまった。

…不味い。ルイス団長に嫌われたら、せっかくの就職先がパァだ!

聖女と言う肩書に甘えず、しっかり仕事を熟さなければ…!

…と、その前に少し休憩。これも団長命令だから仕方ない。




暫くの間、野営地で休憩を取った後に、凶暴な大型魔物が多数出現したと報告が上がった場所へ向かって、一団は動き出した。

鬱蒼とした森の中を様子を伺いながら、私を含めた一団は進んでいく。

私は、一団の中心で魔物を通さない結界魔法を張りながら、結界の外の様子をいち早く感じ取れる様に気を研ぎ澄ます。

結界魔法は力の弱い魔物を通さない効果と、私自身に結界に起きた情報を伝える効果を持つ。

つまり、結界を打ち破るほどの魔物が現れたら、それがどの方向から来ているのか私には把握出来ると言うわけだ。

…まぁ、分かるだけで済まないのが問題なんだけど。

どんな力にも代償って物があるのは仕方がないんだけど、出来れば来ないで欲しい。

そんな事を思っていたら、結界に動きが…!

「!。3時の方向から結界を破ろうとする動きが感じられます!」

私がそう叫ぶと同時にルイス団長が声を上げた!

「第三連隊!五の形で3時の方向へ進撃!」

ルイス団長の命令を聞き、三番目の連隊が動き始めた。

ルイス団長が率いる第一師団には、5個の連隊と2個の魔法大隊と2個の後衛部隊が存在し、今は3個の連隊、1個の魔法大隊、私が所属する後衛部隊が大型魔物の討伐に来ている。

分かりやすく言うと、街一つが潰されかねない驚異に立ち向かっている最中なのだ。

ちなみに残りの部隊は近隣の街の警護に当たっている。

ルイス団長とのやり取りにオタク心で滾ってはいたけど、結構命の危機に晒される場所に来ているのだ。

「っ…!。11時の方向にも反応が見られます!」

「早いな…。このまま進撃する!第一連隊、対応しろ!」

ルイス団長の力強い指示が飛び交う中、私は必死で結界の維持に集中した。

何処から敵が来てるか分かるのは良いけど…結界が破損でもすれば私自身にダメージ来るのよね…っ!

意地でも結界は破らせない!

私自身を守るためにも、騎士団の皆を守るためにも!

くう…っ!魔物の攻撃の重圧ハンパない!

向こうは向こうでメッチャ必死で攻撃して来てる…!

だが、ここで私が結界を解いてしまっては、予想外の場所から襲撃されかねない。

何としてでも耐えなければ…!

しかし…!

「ぎゃうっ!!」

「!。フレッチ!!」

身体中に激痛が走っている。

頭やら、お腹やら、腕やら、足やら、もうどこからどこまでか分からないくらい身体中が痛む。

聖女の力と言えど万能ではない。

結界を破られそうになると、私自身の身体が破られそうな痛みが走るのだ。

そうならない様に最大限に力を高められる様に日々訓練はしているのだが…!

「っく…し、7時の方向から、猛攻を受けています…!」

「3箇所を同時にか…!第二連隊!…ー」

そこまで聞こえて、その後から私の耳は音を拾えなくなった。

ただただ必死に結界の維持に集中し、痛みに耐え続ける。

どれくらいの時間が経ったか分からなくなった頃。

「ー…レッチ!フレッチ!アイリス・フレッチ!!」

私の名前を呼ばれながら、両肩を大きく揺さぶられて、ようやっと意識を取り戻した。

目の前に軽傷を負ったルイス団長の心配そうな顔が見える。

「…ル、イス団長……?」

「…あぁ。討伐任務は完了した」

「終わった……?」

「そうだ。もう、結界を張り続ける必要は無い。…結界を解け、命令だ」

「あ…はい……」

ルイス団長からの命令を受け、私は結界を解いた。

と同時に意識を失った…。




次に目が覚めるとベッドの上だった。

ぽけーっと天井を暫く眺めて、現状に至るまでの事を思い出そうとしたが無理だった。

のそのそと怠い身体を無理やりに起こし、ベッドから立ち上がる。

部屋から出て、今、何処にいるのか確かめようと扉へ向かう。

すると、扉が先んじて開いた。

開いた扉の先には武装を解いたルイス団長が立っている。

「フレッチ!何で起き上がってるんだ!」

「ルイス団長…。何がどうなって…」

何が起きたのか尋ねようとした瞬間。

ふわりと体が浮き上がり、寝ぼけていた頭が一瞬で覚めた!

「ほわっ!?」

「現状確認は結構だが、今は休むのがお前の任務だ。無闇に動き回るな!」

軽々とお姫様抱っこの状態で運ばれ、私は再びベッドに身を沈める。

毛布をそっと掛けられ、不機嫌そうな顔で直ぐ側にあった椅子に座ってルイス団長は私を見下ろす。

「全く。結界の展開がお前の任務とは言え、無茶をしすぎだ」

「ええっと…無我夢中で何が何だか…」

「現状の把握が出来ない様な力の使い方をするな!!」

「は、はい!申し訳ありません!」

強烈な説教を受け、反射的にベッドの中で身体に力を込めて謝罪すると、ルイス団長はバツが悪そうにした。

「…いや。俺がもっと見ていてやれば、こうはならなかった」

そう言いながら、ルイス団長は私の頭に手を置いた。

「…すまない。そして、良くやってくれた。お前の結界のお陰で、大きな被害は出なかった」

頭を撫でられながら、受けた報告を聞いて私は胸を撫で下ろす。

「本当ですか?」

「あぁ」

「はぁ、良かったぁ…」

少しは仕事出来たって事かな。解雇は逃れられそうで安心である。

何より大きい被害が出なかったのは喜ばしい。

そんな事を考えていると、ルイス団長がぽつりと言った。

「聖女、か……」

「へ?えっと、はい。聖女ですが…?」

今更な称号で呼ばれ、思わず肯定するとルイス団長はぶっと吹き出した。

「っくく。…鼻血を出す聖女か」

「え!?鼻血!?」

まさか、イケメンなルイス団長を見て、ついに鼻血を出したのか!?

慌てて顔に手をやると、ルイス団長は更に可笑しそうに笑う。

「今じゃない。放心状態だった時に出てたんだ」

「えぇ…。それすっごい間抜けで恥ずかしい奴じゃないですかー…」

どちらにしても恥ずかしかった事に、私は毛布を顔まで引き上げる。

ルイス団長は呆れ顔で言った。

「下手な力の使い方をしたからだろう。鬼みたいな表情で鼻血出しながら結界を張ってる時のお前は、近寄りがたい物が合ったぞ」

そう言われ、ハッとした私はガバッと起き上がった。

「まさか!鼻血流してる所、他の団員にも見られてたんですか!?」

「こら!急に起き上がるな!」

「飛び起きもしますよ!聖女なのに鼻血とかイメージダウンもいい所…!」

頭を抱えながらそこまで言うと、突如視界がぐるんと天井を向いた。

何が起きたか分からないまま、私はベッドに倒れ込む。

目の前一杯にルイス団長の顔が合って…?

「いいから寝てろ。からかいはしたが、鼻血を出すほど必死に結界を維持してた事は全員理解してる。

お前は求められてる以上の成果を出したんだ。恥じる事はない」

真剣な表情で告げられた言葉以上に、ルイス団長に両肩押さえられながら覆い被さられている状況の方が気になる。

まるで押し倒されているかの様なこの状況は何だ!?

いや、私が勝手にそう思っているだけなんだけども!

「わ、分かりました!分かったので、は、離れてください!ルイス団長!」

目を泳がせながら私は必死に懇願した。

ルイス団長に他意がない事は分かっているけど、この状況は心臓に悪い!

ルイス団長の力強い視線に堕とされた女性は数知れず。

その数と泣かされた数が比例する事から、うっかりにでもルイス団長に気を許してはいけない!

イケメンは眺めて楽しむべきで、側に置いて愛でる気概は私には無い!

要は超絶に恥ずかしいので早く離れて欲しい!

そんな思いで険しい顔でルイス団長をじっと見ると、ルイス団長は私の両肩から手を離してくれた。

ほっ…っとしたのも束の間。

今度は顔の横にルイス団長の手が置かれた。

…うん?

「……」

無言で私を見下ろしてくるルイス団長。

ええっと…?

どうして、まだルイス団長のお顔が目の前にあるのでしょうか?

鼻血の件で取り乱す私を説得していた以上の真剣な表情で見つめられ、その状況に酷く混乱してくる。

どうしてこうなった?

妙に熱っぽい目で見つめてくるルイス団長の胸中は如何に…!?

知りたい様な知りたくない様な、いやでも絶対知らない方がいいからやっぱり知りたくない!

「…アイリス」

ぎゃーーーーーーー!!!

何ですか、その、恋人にでも囁く様な甘い声色はっっ!!!呼び方はっっ!!!

何か…徐々に…ルイス団長の…お顔が、ちちち、近づいて、来て、居る様な…!?

「だん…っ!」

ぎゅっと目を瞑って、ルイス団長を呼ぼうとした瞬間。

ー…コンコンコン。

部屋の扉が3回ノックされた。

「団長。各連隊から報告が上がって来ましたので、ご確認をお願いします」

今の声は副長だ!ナイスタイミング副長!

よく分からない雰囲気を壊しに来てくれて、ありがとう!

「…。今行く」

一瞬の間を置いて、ルイス団長は不服そうに返事をした。

舌打ちでもしそうな顔が見えた様な気がしたけど、きっと気のせいだろう。

ともあれ、これで危機は脱し…。

「フレッチ」

「はい」

名前を呼ばれて無意識に返事をすると同時に、おでこに柔らかい感触が伝わった。

視界にルイス団長の鎖骨が見える。

わぁ、イケメンは骨までイケメンだなぁ。

…って、そうじゃない!!

正気に戻った時には既にルイス団長は部屋の扉の前に居た。

ノブに手をかけながら、ルイス団長は振り返って言う。

「王都に帰還するまで、お前は休んでいろ。良いな?」

「え、あ、はい。了解しました」

しれっと指示を下され、私は今起きた出来事を追求出来ずに淡々と返事をする事しか出来なかった。

そして、ルイス団長は部屋を出て行った…。

……何だったの?

おでこにルイス団長の唇の感触が残っているのを思いながら、私はただただ呆然とするしか無かった…ー。




副長とルイスは宿内に設置した作戦本部に向かいながら言葉を交わした。

「ー…”聖女”に手を出されるのは、どうかと思いますが」

「何の事だ?」

副長の言葉にルイスはしれっと返す。

全く悪びれていない様子の団長の姿を見て、副長は溜息を吐いた。

「過保護かと思いきや、実は一番危ない狼とは…フレッチには同情を禁じ得ません」

そもそも、今回の作戦はルイス率いる第一師団ではない別の師団が行うはずだった。

しかし、討伐対象の魔物の驚異性が思いの外、高い事が分かり、第一師団所属だが、聖女・アイリスの力を使うために、例外的に別の師団に聖女を貸し出そうと言う話が持ち上がった。

それを聞いたルイスが、それならいっその事第一師団で作戦を執り行うと言い出し、アイリスの警護のために連隊を3個、魔法大隊を1個と…当初計画していた分隊よりも多い配置になった。

尤もそれが功を奏し、アイリスの結界が始終展開されていた事もあって、盤石に討伐作戦は成功した。

だが、元を辿ればルイスがアイリスの身を心配しての配置だった事は副長や連隊長達は知っている。

つまり、ルイス・ガルシア団長はアイリス・フレッチに対し過保護なのだ。

「お前は時々、俺には理解し難い事を言うな」

「分からない振りが私に通じるとでも?」

呆れ顔の副長の問いにルイスは無表情で答える。

「あぁ、俺の右腕は優秀だからな」

「…はぁ。フレッチが逃げ切れる事を祈るしか出来ないんですね」

多くの部下に慕われ、畏敬の念を送られ続ける若き騎士団長が、本気で聖女を取り込もうとしている。

セイント国にとっても重要な存在であるアイリス・フレッチを我が物にしようとは、怖いもの知らずがする事だ。

そして、ルイスがその怖いもの知らずである。

「他の男からは是非逃げ切って欲しい所だ」

「だからって、個人的に部下を威圧する事はよしてくださいね」

「任務外なら話は別だ」

「任務外かつ、私に被害が及ばない程度にお願いします」

そう軽口を叩き合いながら、ルイスと副長は作戦本部へ向かって行った。

今回の大型魔物討伐作戦の功労者、アイリス・フレッチの話をしながら…ー。



Chapter.2 end

Chapter.1同様にまた書き殴りました。

ルイス団長は肉食系紳士を目指してみましたが、如何でしたでしょうか?

ちょっとでもニヤニヤしたり、うおー!と揺さぶられて貰えてたら光栄です。


…ところで、別のタイプのイケメンってどうやったら量産出来ますかね?(ネタ切れ)

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