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Chapter.1 どうして、今思い出した!?

ー…どうしてこうなった…!?

目の前で繰り広げられる悪役令嬢の断罪イベント。

泣き崩れる悪役令嬢に対して、罵詈雑言をぶつける第一皇子。

私の周りには、悪役令嬢の毒牙から私を守ろうとしてくれているイケメン達。

もう一度言おう。

どうしてこうなった!?

どうして…!



ー…どうして、今になって前世の記憶なんてものを思い出してしまったのよ!!




山田華子。

それが、私の前世の名前。

享年二十代後半。絶対に三十路とは言わない!

趣味はあらゆるゲーム媒体で行う、所謂「乙女ゲーム」だった。

家庭用ゲーム機から、スマートフォンで出来る乙女ゲームまで。

とにかく、イケメンから愛される事に夢見ていた平凡でミーハーな私は、課金と言う名の愛を捧げる行為も惜しみなくやってきた。

そんな、乙女ゲームへの愛だけで生きていた私が何故【聖学園で捕まえて ~愛の証をあなたに~】の世界に転生してしまっているの!?

しかも、皇子ルートの終盤、悪役令嬢の断罪イベントの最中に、前世の記憶を思い出すなんて…!

「ミランダ!例え僕の婚約者と言えど、きみの悪行を見逃すなど出来ない!」

「アレクシス殿下…!目を覚まして下さい!アイリスさまは殿下を…」

「!。きみはまた、アイリスの事を悪く言うつもりか…!?」

くう…!

どうしてくれよう、この状況…!

今の私は、山田華子としての記憶を取り戻した、善良なる日本人の感覚を持っている…!

しかし、それ以前の私…アイリス・フレッチは、それはもうヒロインヒロインしていたのだ!

平民の出でありながら、類稀なる魔法の才能。

それも聖女と言う称号を与えられる事が決まっていたほどの、強力な聖魔法の才能持ち。

これは、私が乙女ゲームにハマるキッカケとなった、初プレイ作品【聖学園で捕まえて ~愛の証をあなたに~】の主人公の設定だ!

美麗なイラストに、各キャラクターがそれぞれに抱える悩み、過去。

それらを受け止め、一緒に乗り越えて、エンディングでは結婚まですると言う流れだったはず。

そして、セイント国の第一皇子、アレクシス・セイントのルートでは、ライバルキャラとして彼の婚約者である、ミランダ・クラーク侯爵令嬢が出るのだ。

このミランダにヒロインは嫌がらせや悪口を言われ続けながらも、アレクシスと愛を育み、最終的に悪役令嬢であるミランダは国外追放まで追い込まれる事になるのだが…。

いかーん!それは断じて、いかん!

だって…だって…ミランダちゃんは私のお気に入りなのよ!?

乙女ゲームにハマったキッカケである【聖学園で捕まえて ~愛の証をあなたに~】では、各キャラのルートに必ずライバルキャラが存在する。

その女の子達がまた可愛いのよ!これが!

場合によっては女の子とお友達になることも出来るんだから!

当然、前世の私はミランダちゃんとも友達になったわ。

もう、凄く可愛いし、アレクシスに一筋だし、王妃教育にも一生懸命取り組むし…!

まぁ…意地の悪い所があるのも事実なんだけども…。

それ含めて可愛いのよ!

そんなミランダちゃんが国外追放なんて…!

それも、記憶を取り戻して直ぐに、その場面を見る事になるなんて、いやぁああ!

「もうこれ以上、きみの醜態を見せないでくれ。ミランダ。

聖女である彼女を苦しめ続けるのなら、このままにしておけない…!

今日をもって、僕ときみの婚約は解消し、きみを国外つい…」

「ちょ、ちょおおおおおっと待ったあああああああ!!」

アレクシスが全てを言い終わる前に、私はミランダちゃんとアレクシスの間に立ちはだかった。

淑女とは思えない大声に言葉使い。更には奇行をしたものだから、周囲の紳士淑女達は呆然としている。

アイリスとしての記憶も、前世の記憶も持ち合わせている今の私は冷や汗を滝のように流す。

確かに…!確かに、ミランダちゃんはアイリスをいじめていたわ!

でも、アイリスもアイリスよ!?

だって、完全に逆ハーレムエンドを狙って、他の攻略キャラ達にも手を出していたんだから!

的確に攻略キャラ達の好感度を上げる会話をしてきたアイリスの言動は、もはや多重人格者よ!?

そこへ、山田華子としての人格も戻っちゃったんだから、余計にややこしいわっ!

でも、善良な日本人である感覚を思い出しちゃったら、この状況は耐え難いでしょう!?

しかも、好きなキャラクターが自分の所為で断罪されるとか冗談じゃない!!

「アイリス…!?きみは一体何を…!?」

「で、殿下…唐突な発言をお許し下さい…っ」

私はアレクシスに対して、恭しくお辞儀をする。

よ、よしよし…。フレッチ家に引き取られてからの、淑女教育は体に浸透しているみたい!

その様子を見たアレクシスは、私が声を荒げたことを幻聴か何かかと思ったらしく、不問に処して話を進めてきた。

「良い。許そう。…それで、アイリス。きみは一体、何を言いたい?」

まるで恋人に話しかけるようにアレクシスは恋しそうに私を見る。

ふおお…さ、流石アレクシス殿下…!とてつもないイケメンオーラだわ…。

黄金色の髪を照らす、光の反射で目が失明しそう。

「せ、僭越ながら…ミランダ侯爵令嬢に対する罰を、お考え直し頂きたいのです…!」

「なっ…!?」

アレクシスは私の発言を聞いて驚愕した。

ミランダにいじめられていた本人の口から、ミランダの減刑を願うことを言われたのだから無理もない。

だが、何としても受け入れて貰わなければ…!

「そもそも、私如きが殿下のお考えに口を出す事など許されない事は承知しております。

し、しかし!ミランダ侯爵令嬢は、殿下を愛していらっしゃいます!

愛しているが故に、私を…。

愛する殿方を、ぽっと出の女に誑かされる事に怒らない女性は居りません!

ですから、どうか…お考え直しを…!」

そう言って、私は殿下に土下座で懇願した。

ざわつく周囲の人々に混じって、攻略キャラ達が私に土下座を止めるように言って来ている。

そんな中、私の背後で泣き崩れていたミランダが口を開く。

「ア、アイリスさま…?わ、わたくしの愚行を許すと言うのですか…?」

ミランダの言葉を聞いて、私は即座に振り返って彼女の手を取って答えた。

「愚行なんてとんでもない!愚行をしていたのは私の方です!

ミランダさまには心よりお詫び申し上げます…!

私はミランダさまを尊敬しておりますし、可能ならば友人になりたいと思うほどなのです…!

こんな…こんな状況にさえならなければ…!」

熱弁しながら私は悔しさから拳を握りしめる。

その姿はもはや淑女とは言い難い事だろう。

しかし、何もかも、こんなタイミングで前世の記憶を思い出した事に原因がある!

何で今なのよ!?入学直後とか!幼少期の高熱を出した時にとか!

他にもキッカケは色々有ったでしょうに…!

「アイリスさま…!」

私の思いが伝わったのか、ミランダは私の手に自分の手を重ねてくれた。

潤む瞳を見ていると吸い込まれそうだ。

あぁ〜、ミランダちゃん可愛いよぉ。

亜麻色の髪に真っ赤な瞳という、如何にも悪役令嬢な見た目をしているけど、そこが良い!

こんなに可愛いミランダちゃんを国外追放なんてさせるもんですか…!

「しかし、アイリス…。ミランダがきみに犯して来た罪は、未来の王妃として相応しく無いものばかりだ。それは変えられない事実。

そんな彼女の罪を全て許し、再び王妃としての未来を用意しろと言うのか?」

うぐぐ…。

アレクシスの言う通り、ミランダちゃんは散々私をいびり倒してくれたわ。

内容はともかく、将来王妃となる令嬢が国民の1人を嫉妬心から、いびり倒すなんて有ってはならない事だわ。

王を補佐し、国民を守っていく事が王妃に課せられる使命なのだから。

だけど、ミランダは意地が悪いだけじゃ無いのよ!?

私はすくっと立ち上がって、アレクシスに対峙する。

「お言葉ですが、殿下。ミランダ侯爵令嬢は外敵から、アレクシス殿下をお守りしようとしただけなのです!

未来の王妃として、殿下や国民に対し害を成そうとする存在を排除しようとする事の何処に罪があるでしょうか!?」

堂々と胸を張って言い切った私を見て、アレクシス含め周囲の人々はポカンと口を開けて唖然としている。

だが、アレクシスは直ぐに我に帰って、言葉を返してきた。

「う、うむ…確かに、そう言われれば…。しかし、きみがそれを言うのか…」

自らを外敵を称し、それを排除しようとする行為は許されるべきだと豪語する被害者。

発言だけ見れば、とんだドM令嬢だわ。

でも、私は意思を曲げるつもりはないわよ!

「私だからこそ言うのです!ミランダさま以上に王妃に相応しい令嬢は居りません!

ですから、どうか。アレクシス殿下、お考え直しを…!」

私は再び、アレクシスに向かって土下座をかました。

その姿を見て、再び周囲の人々が騒つき、攻略キャラ達がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている。

「こんなの絶対におかしい!アイリスはミランダさまに操られているんだ!

殿下!今直ぐにミランダさまを退場させるべきです!」

攻略キャラの1人がそう叫ぶのを聞き、アレクシスの顔色が変わる。

ちょっと…!何を余計な事、言ってくれちゃってんの!?

あんのガリ勉の病弱イケメンめぇ〜!こんな時に、尤もらしい事を言わないでよ〜!

「ミランダ…きみと言う人は…!」

洗脳。と言う言葉を聞いて、アレクシスは激昂し始めた。

「ち、違います、殿下!わたくしは何も…!」

ミランダは怯えながらも、必死に否定している。

冗談じゃない!何の証拠があってミランダが、私に洗脳を施したって言うのよ!

いや、ある意味ミランダ好きに洗脳されてるけども。

今はそんな事考えてる場合じゃな〜い!

「殿下っ!私は聖魔法の適正に特化した人材ですよ!?

そう簡単に洗脳魔法に掛かる訳がないじゃないですか!

それに、ほら!殿下から頂いた魔法アイテムもありますし!」

そう言いながら私は首にかけていたネックレスの先に付いている指輪を、意気揚々と取り出した。

「そ、そのリングは…!王族しか持たない筈のレジストリングでは…!?」

私が取り出した指輪を見たミランダが、驚きの声を上げた。

すると、それに続いて周囲の人々もヒソヒソと話し始める。

「何故、元平民の成り上がりの娘が国宝の1つを…?」

「やはり、殿下は既にアイリス嬢にお心を奪われてしまったのでは…?」

「しかし、あの国宝を持っているのでは、アイリス嬢は洗脳はされていないと言う事に…」

周囲の話し声を聞いたアレクシスは徐々に冷静さを取り戻していく。

まともに話が出来そうな雰囲気を感じ、私は首からネックレスを取り外した。

そして、指輪を抜き取り、アレクシスの前に跪いて指輪を差し出す。

「殿下。私は理解しています。殿下が、私にこのリングを貸してくださった理由を。

しかし、もはや私には必要ありません。

それだけの力を、この学園で身に付けられたのですから…。

慈悲深い殿下。お心遣い、深く感謝申し上げます。

そして今、この時をもって、リングをお返しいたします」

「アイリス…」

差し出された指輪と、私を交互に見てアレクシスが戸惑う様子を見せる。

だが、私が言わんとしている事を理解したらしく、そっと指輪を受け取ってくれた。

「…もう、必要ないのだな?」

名残惜しそうに聞いてくるアレクシスに、私は頭を下げて答える。

「未熟な私はもう居りません。

殿下の慈悲深い御心は、ミランダ侯爵令嬢にお返ししたいと思っております。…本当にありがとうございました」

前世の記憶を取り戻す前までのアイリスはもう居ない。

今の私は、山田華子としての記憶を持つ、新生アイリス・フレッチだ。

これからは平々凡々に。前世の様に趣味に生きる人生を行くのよ…!

「…分かった。

貴殿の言う通り、ミランダ・クラーク侯爵令嬢への処罰は見直そう。

…此れを以て、この話は終了とする」

こうして、私は見事、悪役令嬢の断罪イベントを回避する事に成功した。

その後、ミランダに降った罰は1年間の奉仕活動を行う事に決まり、私もそれを手伝う事にした。

結果的にミランダと友人になる事が出来た私は、学園を卒業した後もミランダとの友好関係を保ち続け、何だかんだとアレクシスとの交友も続く。

他の攻略キャラ達のルートに出てくる、ライバルキャラ達とも和解する事に成功し、友人関係を築く事が叶い私は大いに喜んで見せたのだ。

聖学園を卒業後。

私は特化した聖魔法と聖女の称号を有効活用して、王国直属の騎士団の後衛部隊に配属。

そこで、攻略キャラには居なかったイケメンらに、何故か迫られる日々を過ごす事になるのだが…それはまた別の話である。




Chapter.1 end


ご拝読ありがとうございました。

短編小説で投稿したものと全く同じものなので、目新しさはないですが、楽しんで頂けたなら幸いです。


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