第二話 ファーストデストロイ
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「ヴァ、ヴァルハザード様……本当に大丈夫でしょうか?」
モヤシがこちらを窺ってくる。
顔から汗が流れ落ちているが、この異常事態に気づいたようだ。
見物だよ。僕を殺した張本人、どうしてくれようか?
「…………いつまで僕……我を拘束しておくつもりだ? 破壊されたいのか?」
「い、いいぃぃえ!! 申し訳ございません!! すぐにっっ!!」
慌てた表情で、急ぎ枷を外すモヤシ。
こんな枷、破壊するのは簡単だ。でも最初に破壊する物は決めているんだ。
「それで、何ゆえ我を呼び出した? こんな可愛い少年を殺してまで、我を呼び出した理由はなんだ?」
〈おい、自分で可愛いとか言うなよ〉
(黙っていてくれ、僕は可愛い系だ)
「そ、それはもちろん力を手にする為です! 破壊の力……その力で世界を征服しようではありませんか!! 舞台は整えて――――」
「――――眼鏡破壊」
僕は初めて破壊の力を使った。
なんて事はない。破壊したい物を認識し、自身に宿る破壊の力を感じ、理解し、ただ壊れろと……。
形ある物、存在する物、世界の概念、それは全て作り物。
最後はみな等しく、壊れゆくのだ……。
〈カッコつけている所悪いが、破壊したのは眼鏡だぞ?〉
「――――だぁはぁぁぁ!? な、何を!? 破壊の力のデモンストレーション、でしょうか……?」
オシャレ眼鏡はいとも簡単に壊れた。
ボロボロと朽ちていき、塵すらも残らない。初めからなかったかのように、その存在を破壊された。
「……征服? それを仮にするとして、何故お前なんかと手を組まなきゃならない? 下らない、僕はそんな事の為に……」
「あ、貴方様はこの世界を知りません!! わ、私が貴方様を導いて――――」
「――――不要だ、この腐った世界の事は大体知っている。……腐った世界で神達に踊らされているのにも気が付かず、哀れなモヤシだ」
〈いいぞいいぞ!! なんか急に意味深な事を言う強者……我は好きです〉
(実は一度やってみたかったんだ。聞いている側からするとムカつくけど、言っている本人はカッコいいと思ってるんだよね)
「神に……踊らされている……? ど、どういう事でしょうか!? わ、私は私の意思で貴方様を呼び出しました!」
「愚か者め……神に踊らされている事にも気づかず……」
〈オ、オル? 流石に同じ事繰り返すのは……一気に底が知れる気がするぞ?〉
(そ、そうか? どうしよう? 何て言えばいいかな?)
〈もうっ!! ダメだなぁお兄ちゃんは~。 私が代わってあげるっ!〉
(…………七十点だ)
〈えっ!? 意外に高いのぉ……妹属性好きか?〉
「で、ですから! 踊らされているとは……」
『ブゥワッカモンがぁぁ!! そんな事も分からんのか!? 脳までモヤシに侵食されているようだ……炒めて食ってやろうかっ!?』
(……おい、シリアスモードで進めていたのにいきなり大声出して、一気に雑魚っぽくなったぞ……?)
〈そ、そうか? 難しいな…………で、でもモヤシ炒めは良かったであろう!?〉
(うん、あれは良かった。しかし腹が減ってきたな、飯はモヤシ炒めにするか)
「…………もしかして、ヴァルハザード様じゃない……? さっきからおかしい、二重人格なのか……?」
疑うような目で僕達を見るモヤシ。
ここでセリフを間違えるとアウトだぞ?
『バ、バカが!! 破壊の力を目にしたであろう!? 我は破壊神……オルクハザードである!!』
(……オルクハザード? 何をいきなり言い出した?)
〈オルも名乗りたいであろう? 我も名乗りたい、妥協案でオルクハザードだ〉
(……まぁ、どうでもいいけど。それよりどうする? もう威厳なんてない、破壊の力がなければ二重人格のただのヤバい奴だぞ?)
〈…………破壊しよう、この汚点は壊さねばならぬ……〉
「オルクハザード? …………偽物か、眼鏡を壊す事なんて子供にも出来ます。こんなアホみたいな奴が破壊神であるはずがない……」
『ア、アホだと!? 何たる言い草、もう怒ったぞ!?』
(……やめろ、どんどん酷くなっていく。代われ)
〈う、うむ……しかしこの状態からどうするのだ?〉
ヴァルから体の支配権を受けとる。
冷静なモヤシが顔に青筋を立て始めている、怒ってるの?
「怒っているのはこっちだ、貴様を呼び出す為に何年かかったと思っている? ふざけやがって…………お前達!! この偽神を排除――――」
「――――記憶破壊」
モヤシの記憶を破壊した。
自分が何に対して怒っていたのかも分からなくなり、すっ頓狂な顔をし始める。
「――――………………ん? あれ……ここどこ? なんで私はこんな所に……」
「お前達もだ…………記憶破壊」
この部屋にいた全ての者達の記憶が破壊される。
何故自分達がここにいるのか、ここで何をしていたのか、全く分からなくなる。
忘れたのではなく完全に破壊された、もう二度と記憶が戻る事はない。
「……情けだ、自分の名前の記憶だけは破壊しないでおいてやる」
『なんだよ、いいのか? こいつ等の存在を許して? 存在ごと破壊すればいいじゃないか』
「破壊してもどうせ転生するんだろ? なら今までの記憶や知識を全て破壊すれば、こいつ等は体がデカい赤子同然……苦しんで生きればいいさ」
『まぁ、オルがいいならいい。でも知っているよな? 転生の輪から外して壊す事も出来る、それをしなくて……本当にいいんだな?』
「ああ、いいよ。転生神には働いてもらわないとな」
「あ、貴方は誰ですか? 何をさっきからブツブツと……」
僕は、未だに状況が掴めずキョロキョロと辺りを窺っている男達の間を通り抜けて、部屋を出た。
あいつ等がどんな組織なのか知らないが、もしまた僕に何かをしようものなら……。
ぶっ壊してやるよ。
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