第一話 一つの器に二つの魂
第一章です
重い内容にはしないつもりです
『――――どうだ? 心は決まったか?』
目の前の神は、破壊の神。
と言っても黒い球体にしか見えないが、その神が僕に力をくれるんだって。
破壊の力……全てを破壊出来ると言うが、本当かどうか分かったものじゃない。
『出来るぞ? お前が望むものは全て破壊出来る…………神ですらもな』
「……神すらも破壊出来る、それが本当なら僕は神も破壊するかもしれないけど、あんたはそれでいいの?」
『構わんよ? 神と言っても仲良くやっている訳じゃない、他の神なんざ知った事ではない、我はお前につくと決めたのだ』
「……なんで僕なんかに、よく分からない奴だな」
〈だって貴方、可哀そうなんだもの……こんなに惨めな人間見た事ないっ!!〉
(頭に直接語り掛けるな……あとなんで直接の場合は女っぽくなるんだ!?)
相変わらず中性的な印象を受けるが、たまにハッキリと性別を認識する事が出来る。
こいつは男なのか? 女なのか?
『特に意味はない。我は男でも女でもない。お前が望むなら、女として接するが?』
「……結構だ。お前の中の女は何故かクソビッチ化している、ムカつくんだよ」
『ふむ、なら今度から清楚系にする』
清楚系、良い響きだ……クソビッチの真逆、それだけで素晴らしい。
〈あ、あの……オルクス君、お弁当作って来たんですけど、良かったら……その……〉
「……それ清楚系なのか? いや、嫌いじゃないけどさ……」
『我も勉強中だ! もっといい感じに言って欲しければ、世界を回って色々な女と会話をする事だ。そうすれば我のレベルはアップする』
「育成かよ……破壊神を好みの女に育成…………悪くないかもしれん」
『……お前も大概よな。変態はお断りだ、我に変な劣情を抱くな、そもそも今の我は下界では肉体を構成出来んぞ?』
「誰が変態だ!! 僕は正常だ! 球体のお前になんか欲情するものか!」
そういやこいつ、球体だけど本当に破壊の力なんて持っているのか?
〈もちろんだ! ……と言うかお前も今は球体だぞ? 正確には魂か〉
(魂……そんな事言われてもピンと来ない……)
〈で、あろうな。今の我々の状態は、一つの器に二つの魂が入っている状態だ〉
(器って、やっぱり……?)
〈うむ! お前の肉体だ! 左腕が壊死寸前だが、それ以外は問題ない〉
「壊死寸前!? なんで……あ、豆モヤシに斬られたんだったね」
『……まったく、モヤシ風情が我の体を傷つけおって。決まりだな相棒? ファーストデストロイはモヤシだ、炒め物にしてくれるわ!!』
「いいねぇ……僕、あの眼鏡を壊したくて仕方なかったんだ。……でもお前の体じゃないだろ?」
『まぁそう言うな。下界では依り代がなければ存在出来ん、この体を壊される訳にはいかん』
まぁ、別にいいけど。しかしおかしな事になった、僕は生き返る……でいいのだろうか?
『そうだ! オルクスは生き返り、この世界、人、そして神に破壊をもたらす!』
「……僕に出来るのか、そんな事……」
『我が一緒なのだ、問題ない! ……では話が纏まった所でおさらいだ』
「おさらい……?」
『うむ、旅の目的だ。まずは陥れた者を破壊する、オルクスの呪縛を破壊する、そして我を好みの女に育成する……』
「……別に育成はしなくていいんだが――――」
『――――そして、世界を楽しく回ろう。面白おかしく、何にも縛られる事なく』
(……世界を、楽しむ……?)
〈我とオルクスは一心同体、お前の願望……我が気づいていないとでも?〉
(……そんなもの、この人生では諦めていたよ……)
〈諦める事はない!! お前は最強の力を得たのだ、我らを縛るものは破壊しろ! どこまでも自由になれる力、それが破壊の力だ!!〉
「……面白そうだね、自由になる為に破壊する…………行こうか、相棒?」
『うむ! 参ろうぞ! 破壊神と歩む破壊生活の…………幕開けである!!』
その瞬間、僕の視界が真っ白に染まる。
徐々に肉体の感覚が戻って来た、左腕が痛む……。
あれ、手足が動かない……あ、磔にされていたんだっけ……。
眩しい……僕はそっと目を開けた。
〈――――大丈夫かオルクス? どうだ? 気分は〉
破壊神の声が聞こえる……。
体は相変わらず磔にされたまま、目の前に広がる光景も変わってない。
(……最悪だよ、腕が痛いんだ。でも血は止まっているみたいだね?)
〈それはそうだ、心臓が止まっているからな! 血を送るためのポンプが壊れているんだ、血は流れないぞ?〉
「心臓が止まっている!? なんだよそれ!? 僕は生き返ったんじゃないのか!?」
『……あれ? そんな事言ったっけ? ゴメンゴメン、オルクスは死んでるよ? 正確には肉体は死んでるよ?』
「数分前に言っただろう…………まぁいいか、別に死んでようが生きていようが……」
『そうそう、あまり深く考えなさんな! 見ろよ? モヤシがヤバい目でこっちを見てるぞ?』
モヤシの様子に意識を向ける。
本当だ、何か不審者をみたような表情をしているな。
〈そりゃ驚くわな、いきなり一人で会話し始めたんだ。むしろヤバいのは我らかもしれん……〉
(一人で会話……? そういう事か、お前と話す時は声に出さない方がいいかもな……)
〈……なぁそろそろさ? 我の事名前で呼ばない?〉
(……名前? あれ、お前に名前何てあったっけ?)
〈名乗ったはずだぞ!? 我の名はハカイ・シン! シンと呼んで――――〉
「――――もしかして! ヴァルハザード様でしょうか!? 破壊神、ヴァルハザード様!!」
一人漫才に目を丸くしていたモヤシから発せられた声。
ヴァルハザード……? こいつの名前か?
「おい、ヴァルハザードとか言ってんぞ? どっちなんだよ?」
『…………実は名前、忘れたのだ。ヴァルハザード……だったかな……?』
(…………もういい。お前はヴァルだ、これからそう呼ぶ)
〈そ、そうか! では我はオルと呼ぼう!! ……あの、先輩の事、オルって呼んでも良いですか……?〉
(…………三十点)
〈三十点!? オルは厳しいのぉ……〉
突然女声で先輩とか訳の分からない事を言い出したヴァル。
見ろよ、モヤシの様子がおかしい。いよいよ目の前のヤバい奴を見て困惑している。
「……あの、ヴァルハザード様? 具合でも……悪いのでしょうか?」
〈オル、忘れていた事があった。お前に破壊の記憶を渡そう、これで破壊の使い方は全て分かる〉
僕の中に流れ込んでくる記憶の奔流。
それは一瞬。しかし膨大な破壊の知識が、まるで最初から存在していたかのようにそこにあった。
(……膨大? ほとんど遊びの破壊じゃないか、結局破壊の力は一つじゃん……いや、もう一つあるか)
〈最後にもう一つ、意識は二つ同時に存在する事は出来るが、肉体を支配出来る意識は一つのみ。声を出す事は出来るが、基本は我かオルか、どちらかが肉体を操るのだ〉
(なるほど、じゃあ最初は譲ってもらおうかな?)
〈無論だ。……さぁ、全てを破壊してやれ!!〉
ついに、破壊の力をもった少年と破壊神が、行動を開始する。
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※肉体支配時の設定を追加しました、申し訳ない……