表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

頭を空っぽにして読む異世界大系

日本異世界人村 ~~異世界転移する前に、異世界のほうがやってきました~~

作者: MINAMI

えぇと……若干、タイトルとあらすじに偽りありですw

需要があるか分からなかったので、短編にしましたw

では、原稿用紙七〇枚分の短編をお楽しみください。

「ぺんぺ~ん、ぺぺれぺ、ぺぺれぺ、ぺれぺれ~ん、ぺん、ぺ~~ん。」

 おっちゃんの調子っぱずれな歌声が、夜の闇に響いていた。

 それに応じる者の姿もなく、そのまま、静寂の中に溶けてゆく。

 完全に、夜、という時間だった。

 月も出ていない夜。

 そしてこの場所は、半径二キロに渡って人口ゼロという土地だった……おっちゃんのご近所迷惑な放歌が周囲に響いてもそれを非難する者さえいない。

 その、おっちゃん。

 完全に熾火となった自家製の炭からの淡い光に照らされ、顔がオレンジ色になっている。

 おっちゃんはよほどリラックスしているのか、漆黒の闇の中の熾火の輝きに……キモい慈愛顔を淡く照らされるままになっていた。

 もう初夏だというのに、おっちゃんは厚手の長袖の上着を着ていた。

 いわゆる、キャンパー……というほど垢抜けてはいないデザインだったが、少なくとも山の中の活動に向いた服装を、おっちゃんはしていた。

 山の一部を大きく削り、その断面に自然石を野面積みにして作った石垣の壁。

 そして山の中、そこまでして作ったわずかな平地に、かなり古びた木造平屋の家屋が建っている。

 その周囲には、ここ数十年、まったく人の手が入っていない山の木々があった。

 殆ど山の中の一軒家と言っても差し支えないレベルだった。

 その石壁と家屋の間の小さな庭に、おっちゃんはいた。

 庭の中の小さなファイアーピットだが、周囲に枯れた雑草や落ち葉といった可燃物は全くなく、家屋からの距離も離れているため、少々大きな風を食らっても延焼の心配はない。 また消火用の水を汲んだバケツも準備してあった。

 おっちゃんは、火の扱いに心得があるようだった……少なくともこの場所では。

「なんとかかんと~か、あらあら包茎~」

 ……それを歌と言ってよいのかは別にして、おっちゃんはご機嫌だった。

 それもそのはずだった。

 ほとんど山の中とはいえ……その周囲には、炭火で肉を焼いたとき特有の匂いが、周囲に満ちていたからだ。

 その匂いの源は……炭火の直上から数十センチずらして置かれた、ダッチオーブン。

 おっちゃんがダッチオーブンの蓋を開けると……そこにあったのは、大きな肉の塊。 しかも、やたらと香辛料や調味料が塗り込んである。

 ででーんと存在感のあるその肉の塊は既に一時間近く遠火で炙られ、またその表面は自家製の炭からまだ炎が上がっている最初の十分間で焦がされて……その旨味を炭の上に落とすことなく内部に閉じ込めたままの、ヒトの子供の頭と同じくらいの大きさの、完全なるローストビーフだった。 しかも、二つある。

 その完成が、近づいていたのだ。

 おっちゃんの機嫌もよくなるはずであった。

「ばーん、とびー、猥褻わーいせつ、ばーん、とびー、猥褻わーいせつ

 まったくもってでたらめな歌をしかも一人でコーラスまでこなしながら放歌し、おっちゃんは立ち上がった。

 もちろん、今日の夕飯が、一時間がかりで完成したからであった。

 その時だった。

「叔父さま! 変な歌はやめてください!!」

 すたあん!!

 手入れが行き届いているのか、古い木造家屋だというのにスムーズに開く雨戸を勢いよく開けながら、またぷりぷりとそう叫びながら、その少女は庭の中を、きっ、と睨みつけていた。

 その背後からは、人工の光……室内灯ではなく、畳の上に置かれたLEDランタンが、少女を背中から照らしていた。 また、少女の手にあった(携帯電話ではなく)携帯ゲーム機も、少女の手元を淡く照らす。

 漆黒の、髪の長い少女だった。

 少女はまだ暗闇に目が慣れていなかったためか、しばらく夜の庭の中の叔父の姿を探していた。

 やがて見つけたおっちゃん、叔父の姿に、少女は困ったような表情を見せる。

「妹が真似をしたら、困りますから……っ」

「にゃははは、そりゃーすまんかったなー」

 にんまり笑いながら、ちっともすまなさそうに少女の言葉に応じるおっちゃん……その表情に、赤の他人に向けるような隔意は全く見られなかった。

「もう……叔父さま……」

 応じて、小さく唇を尖らせてすねたような表情を見せる少女。

 人を食ったようなおっちゃんのその態度、しかし少女はそのおっちゃんに敬意を払っているのか、大きく反発を見せることはなかった。

 おっちゃんはそんな姪っ子の姿に、もう一度柔らかな笑顔を見せるのだった。

「っちゅーか、千佳。

 せっかく山ん中に泊まりで遊びに来てんのに……ゲームなんかやってんのか」

 おっちゃんは薄闇の中、姪っ子の千佳ちかの手元で明るく輝く携帯ゲーム機を見ながら、急に思い出したような説教ヅラを見せる。

「えっ、あっ、こ、これは……妹の千奈ちなが、狩りを手伝ってって言うので……。

 も、もちろん、学校の宿題は終わってますよ!」

 おっちゃんの指摘に慌てた様子で携帯ゲーム機を後ろ手に隠す少女、千佳。

 そんな千佳の様子に、おっちゃんはもう一度微笑する。

ほーか(そーか)、感心やな。

 ゲームのために宿題を早々に終わらすとか……すごいな。

 本末転倒って気もするけど……その熱意は大したもんや」

「だ、だって………妹の千奈が、ゲームしたいって言うから……」

 拗ねたようにそう言いながら、千佳は体をくねらせる。 ワンピースの裾が、遅れてひらひらと揺れていた。

 小学生ってなんでこんなにクネクネするんだろうな、などと思いながら、おっちゃんは応じた。

「うんうん。 ええお姉ちゃんやな、千佳。

 まあ、今日は……お父ちゃんとお母ちゃんの目はないしな。

 黙っといたるから……好きなだけ、ゲームしたらええわ。」

 おっちゃんのその言葉に、ぱっと表情を明るくさせる千佳。

 その瞬間。

 夜の静寂の中に……不意にある音が鳴り響いた。

「あっ!! あの!! これは……違いますので!!」

 途端に、千佳の顔が赤くなる。

 腹の虫が鳴く音。

 それが、盛大に少女のお腹から鳴ったからだった。

「違いますので!!」

 なにが違うのかよくわからないが、赤くなる千佳に、苦笑を見せるおっちゃん。

「あー、すまんすまん。

 遅くなったけど、晩飯にするか」

 そう言いながらおっちゃんは、立ち上がってブッチャーナイフを取り出した。

 今の今まで、熾火の遠火で一時間育てていた肉の塊。

 低温長時間加熱、ほとんど遠赤外線だけでじっくり火を通した、ミディアムレアのお手本のような特上の肉の塊を切り分けるためだった。

 と……その時。

 LEDランタンの置かれた室内から……千佳とは別の少女の歌声が響く。

「♪ばーん、とびー、猥褻わーいせつ♪、ばーん、とびー、猥褻わーいせつ♪」

 その歌声に……おお、アイツ、ここでブッ込んでくるか、と静かにそう言うおっちゃん。

 その言葉に……一瞬遅れ、千佳は室内を振り返って叫んでいた。

「千奈!! 変な歌、歌っちゃいけません!!」

 その言葉に、おっちゃんは苦笑いを見せるのであった。

 室内から、姉をからかって喜ぶ千奈の笑い声が響いていた。

「びーびーきゅー、なんとかかんとかー、だっかーん」

 なんだかよくわからない枕詞を口にしながら、おっちゃんはブッチャーナイフで肉を切り分けていた。

「うわっ、おっちゃん、すっごいよ!!

 それ、お肉っていうより、カツオのたたきみたいだよ!!」

 もちろん、皮肉である。 そう言いながらけらけら笑う、もう一人の少女の姿があった。

 おっちゃんのもう一人の姪っ子、千奈であった。

 千奈は、お調子者の妹を捕まえようとする千佳の隣をするりと抜けると、おっちゃんの背中にどーんと体当たりしていた。

 そのまま……ひっつき虫。

 ぺちょっとおっちゃんにしがみつき、その鋭い指摘を、おっちゃんにしていた。

 千奈が思わずそう指摘してしまうほど……おっちゃんの切り方は、雑であった。

 そして分厚い。 何より、ミディアムレアよりさらにレア寄りに見える焼き加減であった。

「ていうか……お肉、赤っ!! まだぜんぶ焼けてないじゃん!!

 あはははは!!!」

 姉の千佳と違って、遠慮のない指摘の妹の千奈。

 それにおっちゃんは、不敵な笑みを返す。

「ふっふっふ。 こう見えて、一応火は通ってるんやで?

 寄生虫や細菌の対策の基本は、温度や。

 生食用サーモンの寄生虫対策みたいにマイナス二〇度で数日間凍らせるか、牛乳の低温殺菌と同じく六五度で九〇秒以上加熱するかや。

 六六度を超えると、タンパク質が変質し始めるけど……そこに注意しながらじっくり一時間かけて、芯まで六五度にしてやる。

 そうやってできたのが、これや……」

 そう言いながらおっちゃんは……分厚く切った肉を、サイコロ状に切り分ける。

 そして……その大きなサイコロの一つに、おっちゃんはブッチャーナイフを突き刺した。

 そのまま刃を横にし、千奈の口の前までもっていく。

「ほれ」

「あーむ。 ……んー、うまー!! ホントだ、ちゃんと焼けてるーーーー!!」

 ナイフから直接肉を口に入れると、千佳の妹千奈ちなはほとんど超音波に近い音量で、驚嘆の雄叫びを上げていた。

「こ、こらっ!! 千奈、お行儀が悪いですよ!! そ、それに危ないです!」

 目をまん丸くしながらたしなめる千佳。

 それから逃げるように、千奈は勢いよく狭い夜の庭を走り回っていた。

 慌てて踏み脱ぎ石の横に置いてあったサンダルを履き、その千奈を追いかける千佳。

「おー、小学生は元気いいな」

 走り回る二人の姪を見ながら、苦笑してそんなことをつぶやくおっちゃんは、間違いなくおっさんであった。

 走り回る二人の姪。

 先にペースダウンしたのは、妹の千奈だった。

 楽しそうにしながらも、早々に息を切らせる千奈。

 それを、まだ余裕といった様子で捕まえる千佳。

 それに、少し寂しそうな表情で、千佳は声をかける。

「ほら千奈、あなたはまだ病み上がりなんだから……無理をしちゃだめですよ」

「はーっ、はーっ……あははは、はーい!」

 息を大きく切らせながら、それでも嬉しそうに返事をする千奈。

 その頭部は……姉のような漆黒の長い髪は見られなかった。

 夏だというのに、深めに被せられた厚手のニット帽。 それが、千奈の頭にはあった。

 そんな二人を、おっちゃんは優しく眺めていた。 その笑顔には、少し影があった。

「まーまー、今日は千奈の快気祝いなんやから。

 ちょっとぐらい羽目を外してもええやろ!

 だから今夜は……ゲームもやり放題!

 野菜を食わなくても善し!!

 なんやったら夜更かしも可やで!!」

「ひょーっ!!」

 姪っ子に甘いおっちゃんの言葉に、千奈はさらにテンションが上がった様子だった。

 小学生特有の超音波が、さらに高周波に代わってゆく。

 千佳は、困った様子でそんな二人を眺めていた。

 退院した姪っ子の、快気祝い。

 それが今夜のお泊り会の名目だった。

 お泊り会と言っても、親戚の叔父さんのところに遊びに行っただけなのだが。

 伯父さんではなく叔父さん……つまり、父親か母親の、弟。

 この家の叔父さんは、父親の弟だった。

 兄はとうの昔に結婚し、なんと四児まで設けているのだが……いつまで経っても結婚せず、幸運にも若いうちに成した財で遊び惚けている叔父さん。

 それが【おおはらのおっちゃん】であった。

 おっちゃんは遊びに来た姪っ子二人を……別荘に連れてきていた。

 別荘と言っても……高級リゾート地にある、生活感のない小ぎれいな家ではなかった。

 廃村。

 地方によくある、住む人間が一人もいなくなった集落……そのうちの、山間部。

 おっちゃんはそんな地域を、山一つ分、まるまる買い上げていた……一〇〇年前なら、大地主と言っていいレベルの土地持ち。 だが現代においては、資産価値などまるでない。

 もとが廃村であるだけに……当然、電気など来ていないし、水道さえも通っていない。

 以前は通っていたが、その供給は人口喪失とともに絶たれてしまった。

 また土地購入時にも、役場の人間に人口一名ではライフラインの再開はない、と念押しされてしまった。

 もちろんおっちゃんもそんな場所で生活する気はなく。

 【秘密基地】………そんな意味不明な名目のもとに、おっちゃんはそんな大胆すぎる散財をしていた。

 で。

 今いるのは、そんな廃村の中でも、比較的状態のいい、おそらくはこの地域の地主の家だったと思しき家屋だ。

 かなり古びてはいるが、普請にはもともとかなり金額がかかっていたのだろう、倒壊や雨漏りの気配は全くない。

 電気は来ていないので室内の照明も持参したLEDランタン、水は持参したポリタンクと家屋の側を流れるやたら勢いの良い沢、風呂や調理に必要な燃料は持参した木炭やガスに周囲にふんだんにある木材。

 屋根付きの木造建築に泊まれるだけで、あとはほとんど、キャンプに近い。

 しかし。

 その不便さに目をつぶれば……周囲に全く喧騒はなく、本当に静かな一日が過ごせる。

 (少し前に流行った深夜アニメのせいか)妙に人が増えた下手なキャンプ場よりも、よほどキャンプらしいキャンプができる……ただ生活するだけでキャンプみたいになってしまっているが。

 あと……五右衛門風呂とはいえ、風呂が使えるのが地味に嬉しい。

 おっちゃんは、金に飽かせてそんな別荘を手に入れていたのだ。

 億万長者のさらに上澄み、数十億万長者。

 冴えない風体ではあるが、このおっちゃんは、実は滅茶苦茶な金持ちだった。

 (小学生の会話についていけるおっちゃんもすごいと思うが)ゲームとアニメと学校の話。

 そんな話をしながら、おっちゃんは酒も飲まず、姪っ子姉妹の意外と逞しい食欲を満たすべく、ひたすら肉を焼き続けていた。

「びーびーきゅー、なんとかかんとかー、だっかーん」

 おっちゃんがなんだかよくわからない枕詞を口にするたび、新しい肉料理が饗される。

 牛だか豚だかやたらでかい肉の塊、スペアリブ、ベーコン、チーズ、クレイジーな調味料……とにかく、カロリー爆弾と言っていい料理だらけだ。

 おっちゃんは両掌を香辛料や調味料まみれにしながら、それらの料理を調理していく。

 しかもその調理器具は……日本ではあまり見ない形状やサイズのものが多かった。

 まず調味料は……そのサイズからして日本ではあまり見ないサイズ、しかも描いてある文字は原材料表示や消費期限の日付のフォーマットも含めて英語。

 チーズにしても日本ではあまりお目にかかれないサイズで、またそれをすりおろすのも、日本製の平面のすりおろし器ではなく、底の抜けた箱のような形状のチーズグレーター。

 それらは、まあ日本でも簡単に調達できるだろうが、それを減価償却するほど使い込める日本人は、プロを除いてなかなかいないだろう。

 しかしおっちゃんのそれらの調理器具は、手入れは行き届いていたが、年季が入ったものばかりだった。

 アメリカの一般家庭の台所から拝借してきた、と言ってもわからないレベル。

 それほど使い込まれた調理器具を駆使し、おっちゃんは調理を続けていた。

 そしてそれらを……双子の姉妹が、片っ端から片付けている。

 びっくりするくらい、よく食べる女の子たちであった。

 当然、飲み物はコーラだ。

 それは……いわゆる日本の【焼肉】(ジャパニーズBBQ)スタイルではなく、同じ野外でも食卓と調理場が別という、まさしく【BBQ】スタイル。

 ……日本の廃村とはいえ、このエリアだけやたらアメリカンな感じになってしまっていた。


「健康を度外視すれば、肉料理に関してはアメリカ人のほうが上。

 日本のグルメ漫画は、ただのファンタジー」

 日本人すべてにケンカを売るような発言は、おっちゃんのものだった。

 おっちゃんは実際、あめりか~んな感じのカロリー爆弾を量産していった。

 そして双子の姉妹と近親の遺伝子を持つおっちゃんもまた、ちょくちょくつまみ食いしながら姉妹同様それらを消費してゆく(もしかして:デブ)。

 姉妹ともに満足に至った時間には……すでにかなりの量の肉が消費されていた。

 で。

 姉妹は満腹と同時に、おねむになっていた。

 食後のゲームがどうこう、夜更かしがどうこう言っていたにも関わらず、だ。

 こっくりこっくり舟を漕ぎながらも実はすでに寝ている姉妹。

 おっちゃんは苦笑しながら二人を家の中に運んでいた。

 二人の体を布団ではなく、夏用シュラフに突っ込む。

 残念ながら、もう食べられないよ~という寝言は聞けなかった。

「ふー、やれやれ。 やっと寝たか~……やっと飲めるな。

 風呂は明日の朝にでも沸かしたろか。

 さて。

 ここから先は、ピットマスターのおっさんの、趣味の時間や」

 そう言っておっちゃんは、大きく伸びをした。

 そしてクーラーボックスから取り出したのは……やたら高そうなワイン、日本酒、そして海産物。

 そのままファイヤーピットの前に陣取り、熾火の上に新しい網を置いた。

 さっきまでさんざん肉食していたくせに、さらに魚料理に手を出そうとしているらしかった(もしかしなくても:デブ)。 しかも、魚系は姪っ子たちにも供していなかった。

「ワインは……もうええか。

 魚介と炭火と日本酒。

 ふっふっふ、日本のおっさんの面目躍如やでぇ~」

 邪悪な笑みを、おっちゃんは見せていた。


 異世界からの来訪者が訪れたのは、そんな折だった。


 持参していたノートパソコンでおっちゃんが見ていたのは、少し前に流行った【ゆるいキャンプ】のアニメの動画だった。 タブレット端末ではなくノートパソコン、というあたりが昭和生まれのおっちゃんらしい。

 おっちゃんはすでに……へべれけであった。

 時折、なで×リンは正義か、などと意味不明な供述をしながら、オレンジ色の顔をしたまま、焼き網の上の魚介類を突っつき、日本酒を突っつく。

「いや、リン×なで……ん?」

 酔いに任せてそんな荒唐無稽な呟きをしたころ……泥酔したおっちゃんは、ふと違和感に気づいた。

 自分と姪っ子姉妹以外、半径二キロには誰もいないはずの土地。

 キャンプファイヤーはともかく、ファイアーピットで火を焚いた作ったぐらいではだれも消防署に通報しないレベルの過疎地にもかかわらず……おっちゃんは自分たちのほかに、誰かが近くにいるような気配を感じていた。

 このおっちゃんには……なぜか昔から、そういう特技があった。

 人の気配が、何となくわかるのだ。

 小学生のころ、かくれんぼの鬼としては、無類の強さを誇っていた。

 もしおっちゃんがもう少し格闘技や剣術を身に着けていれば『むっ!殺気!?』などと少年漫画の主人公のようなことができたことであろうに……残念ながらおっちゃんは小太りであった。

 容姿の事もあり、いろいろと残念なおっちゃんであった。

 しかし、ヒトの気配は感じていた。

 ぴくん。

 おっちゃんは、振り返って自分の左後方、そちらに視線を向けていた。

 果たしてそこには……ヒトの姿があった。

 正しくは……ヒトの近親種の姿が。


『あ、あの………夜分に申し訳ありません。

 旅の者ですが、ウェルスフィアへの道はどちらか……教えていただけないでしょうか』


 突然背後から掛けられた声。

 その存在には(なぜか)気づいていたおっちゃんだったが……その【声】に、おっちゃんは驚いていた。

 正しくは……その【言語】に。

 そして……振り返って確認したその声の主の、【容姿】に。

「ふぁっ!? えっ!? 外国語!? 外国人!?」

 おっちゃんは思わず叫んでいた。

 今日び、日本を訪れる【外国人】は少なくない。 観光地はともかく、都心部でさえも。

 一瞬日本人かと思っても、キャスター付きスーツケースを持った人間はほとんど中国人……とにかく現代の日本は、【外国人】が珍しくない。

 にもかかわらずおっちゃんが驚いたのは、なんで日本の廃村に、という部分であった。

 日本の生産業の闇、いわゆる【技能実習生】にしたって……農業を含めて産業自体がないこんな廃村にわざわざいるはずもなかった。

 思わず立ち上がって振り返るおっちゃん。

 そのおっちゃんの動作に声の主は……すっと腰を低く落とした。

 そして右手を左の腰に添える……それはまさに、抜刀しようとでもするような動作だった。

 そのまま、互いにその場で硬直する二人。

 沈黙……それを割ったのは、おっちゃんの素直すぎる言葉だった。

「うわっ、金髪パツキンねーちゃん!? しかも、乳デカっ!?」

 泥酔したおっちゃんは肝心の……その女性が、レザーアーマーと呼ばれる皮鎧を身に着けていることには、全く気付いていなかった。

 あとその腰の物は……エストックと呼ばれる、刺突用の武器であったことも。

 そしてその最大の特徴ともいうべき……笹の葉を取り付けたような、エルフ耳にも。

「…………」

『…………』

「…………」

『…………』

 沈黙と沈黙が、対峙していた。

 魂消た(たまげた)様子のままのおっちゃんと、警戒心をあらわにしたエルフ耳女(巨乳金髪姉ちゃん)

 やがて沈黙を破ったのは……エルフ耳女のほうであった。

 ただし……それは言語の壁を越えていた。


 ぐううううううううううう!


 それはまさに、雷鳴。 そう言って良い、ある意味青天の霹靂。

 瞬間、エルフ耳女はさっと顔を背けた。

 お腹を抱え、その身体を小刻みに震わせる……その耳が、完全に真っ赤っかになっていた。

『はうううう!? こんな時に!?』

 殺した声で、短く叫ぶエルフ耳(赤)女……加えて言うなら状態異常【目がナルト】。

 その言語に、おっちゃんは聞き覚えはなかったが……思うところは一つであった。

「………。 ……あー……悪いことしてもーたかな……」

 短くつぶやくおっちゃん。

 鼻が慣れてしまって気付かなかったが……二人の周囲には、とてもイイ匂いが充満していた。

 肉、チーズ、そして調味料が焼けた匂い。 あと加えて、醤油と魚が焦げる匂いが充満している。

 それを空腹時に嗅いでしまえば、今のエルフ耳(赤)女のようになるのは、誰しも予想できることであった。

 呆気にとられた様子のおっちゃんの目の前で、エルフ耳(赤)女は、不意に背筋を伸ばした。

 その姿勢は……コンパニオンを思い出させるような姿だった。

『ご、ごほん……失礼しました。

 急ぎの旅の道中ゆえに、しばらく食事をしておりませんでしたもので。

 あの、ウェルスフィアへの道を教えていただきたいのですが。

 それで、あの……帝国貨幣の持ち合わせはありませんが、ウェルスフィアの貨幣ならいくらかございます。

 そ、それで、よろしければ……そちらの食事を融通していただけないでしょうか……』

 エルフ耳(まだ赤)女は気を取り直したようにすまし顔で静かにそう言うと、背中に回したウエストポーチを手繰り寄せながら、ぴっとファイアーピットを指差していた。

 応じて……おっちゃん。


「うん、何ってるか、全然わからんわ。

 外国語……でも英語じゃないみたいやし。

 ……困ったなー」

 (可愛くないが)こてんと首を傾けて金髪巨乳姉ちゃんに応えるおっちゃん。

 しかし。

 【親の形見かというレベルに古びたウエストポーチから薄汚れた硬貨(銀貨)を大事そうに差し出し、魚介を焼くファイアーピットを指差す外国人の女。 しかも、最後に洗濯したのがいつか分からない服装】

 目の前の女性を、そう括ったおっちゃんの脳裏には……ある言葉がよぎっていた。

「やっぱり……あれか。

 現場から失踪した、技能実習生………アジア系ではないようやけど……」

 おっちゃんは少し前にウェブニュースで読んだ……現代における【野麦峠】ともいうべき記事を思い出していた。

 【技能実習生制度】。

 日本国政府が定めた……要は海外から人件費の安い、若い労働者を日本に呼び寄せ、【技能研修】の名目のもとで【出稼ぎ】させる制度だ。

 【技能】を実地で【実習】するというお題目であるので、法で定められた【最低賃金】も適用されず、また最低賃金は支払われてもそこから【研修費用】などをひかれ、支給されるのは月に四~五万円程度だという。 しかも、生活費は別というケースもある。

 悪質な仲介業者なども存在し、日本人には想像もつかない生活を強いられる場合もあるという。

 そんな彼らはやはり、【失踪】という選択肢をとるものも多い……その失踪者は年間一万人を超えるという。

 そして……犯罪に走る。 というか、走らざるを得ない環境に身を置かれる。

 米国国務省が【強制労働と性的搾取の受け皿】と日本を名指しで批判しても継続されている、いわば【合法的な不法労働】……とはいえ、今の日本の生産業の利益率を考えると、なかなかに難しい問題と言えた。

 その失踪した技能実習生の一人が目の前の外国人女性であると、おっちゃんは思ったようであった。


「…………」

『……な、なにか?』

 少し潤んだ目でエルフ耳女を眺めるおっちゃん、それに戸惑うエルフ耳(通常)女。

 くるりとエルフ耳女に背を向け、網のほかにも串を通して焼いていた大きめの鰺、それをおっちゃんは手に取り、エルフ耳女の近くに歩み寄っては、それを差し出した。

『こ、これは……川魚ですか? このあたりに川なんて……』

「……ええから食え」

 内臓をとって割りばしを串代わりに打った鰺をぐいとエルフ耳女の目の前数センチのところに突き出し、エルフ耳女に反射的に受け取らせるおっちゃん。

 おっちゃんはもう一度エルフ耳女に背を向けた。

 そして……がたがたっ、ごとごとっ!

 おっちゃんは持参していた多数のクーラーボックスを引っ掻き回し、その中から……比較的調理に時間がかからなさそうな食材を選んでいた。

 その所作が、急に雑になっていた……その様は、怒っているようにも見えた。

「……………」

 おっちゃんは無言のままブッチャーナイフを手に取り、大急ぎで調理を開始していた。

 その目が、妙に真剣になっていた。

 かわいそうな(・・・・・・)失踪技能実習生の目の間で……静かな情熱が、おっちゃんの中で燃え上がっていた。

 「………………………………………………」

 それはもう、メラメラとメラメラと、燃え上がっていた。

 着火剤を塗りたくられて大量に追加された焚き木で、一気に火力を増したファイヤーピット。

 そこで、おっちゃんの中華鍋が吠えていた。

 その音量は、昼間の中華料理屋の厨房のような音量であった。

 規則的で豪快な鉄の音に、油と肉が炒められる音がする。

 そして、おっちゃんもまた……吠えていた。

「びーびーきゅー!

 なんとかかんとかー!

 だっかーん!」

 相変わらずよくわからない枕詞を口にしながら、火が早く通りやすいよう薄切りにされた肉をがっつんがっつん炒めるおっちゃん。

 そのおっちゃんの挙動が、一瞬、完全に止まった。

 おっちゃんは振り返ってエルフ耳女に怒ったような顔を向ける。 

「おー、姉ちゃん! 戒律とかで、食えないもんはあるか!?」

 びくん。

 急に怒り出した(ように見える)おっちゃんの様子に、エルフ耳女は一瞬硬直した。

『……何を言っているのか、全くわからないんですが……とりあえず、こちらの川魚は頂いてもよろしいのですか?

 えぇと……』

 エルフ耳女はそう言ってから、手渡された鰺を、ぱくん、と食べるジェスチャーを見せた。

 そして、こてん、と首を傾ける。

 その様子に、おっちゃんは考えこむようなしぐさを見せた。

「……ふむ。

 魚を食べられるという事は、内陸じゃなくって沿岸部の国出身か。

 いや逆か? 内陸部出身だから、魚が珍しいんかな?

 ……さすがにあの見た目で仏教はないか。

 ……よくわからん。

 よくわからんけど………とりあえずYEAAH!!」

 そう言ってサムズアップを見せるおっちゃん。 ……そういえばおっちゃんは酔っ払いだった。

 応じてエルフ耳も、おずおずと遠慮がちなサムズアップをみせる。

『い、いぇあー……こちらの挨拶かしら。

 帝国内には、まだまだ言語の通じない民族もいるのね……』

 妙に感心した風に言うエルフ耳女。

 そしてエルフ耳女は……鰺の串(割り箸)焼きを口にした。

『んっ!? 少し発酵臭はするけど……塩味が効いてて、おいしい!』

 察するに、醤油の風味の事を言っているのであろう。

 いわゆる、海賊焼き。

 まあ海賊焼きの定義は地域によって全然違う(海鮮焼きそばを海賊焼きという地域もある)が、とりあえず醤油を塗ったり漬けてから焼いた鰺の巨大串焼き。

 発酵食品である醤油と味噌の風味を嫌う外国人は、酪農圏を中心に結構いる。

 松茸を古い靴下の匂いと評する外国人がいるように、味噌を○○○の匂いと評する外国人は多いのだ。

 発酵食品文化の壁は……実は国境の壁より厚い。

 しかし。

 醤油の風味は偶然にも意外にも幸いにも予想外にも、エルフ耳女の口には適合したようであった。

 二口、三口と、だんだん鰺につく歯形の大きさが大きくなってゆく。

 串焼きを日本料理というには問題があるが、日本人に馴染み深い食材を気に入ってくれるのは、うれしい限りであった。

 その時だった。

 【異世界人】が……もう一人、増えた。

『ず、ずるいわよ、馬鹿エルフ!!

 わ、私だってお腹が減ってるんだから!!』

 山を削ってから積み上げられた自然石の石垣、その上。

 そこから聞こえる姦しいクレームは……発信源の降下と同時に二人に届いていた。

 つまり……崖から飛び降りながらの絶叫だった。

 ずだんっ!!

 その質量がいくらばかりかは怖くて問えないが、その赤髪の女は、なんと金属の鎧を装備したまま、数メートルの落差を飛び降りて、苦も無く着地して見せていた。

 そして……腰の巾着袋から、ちゃらちゃらと数枚の硬貨を取り出し、掌に載せてぐいと突き出す。

『オジ……お、お兄さん!!

 見てたわ……帝国硬貨じゃなくウェルスフィア硬貨でもいいんでしょ?

 わ、私も食事を希望するわ!

 で、できれば宿も……いいえ、それだと路銀が……あ、あの、庇を貸してくれるだけでもいいから!!

 お願いします!』

 勢いよく一気にそこまで言い切ると、片膝をついて頭を垂れて見せる赤髪の鎧女。

 どうやら、エルフ耳女の同行の徒(パーティーメンバー)らしかった。

 そしてこの二人、同様に……衣食は足りていなかったが、礼節は知っているようであった。

 文化と言葉は違えど……少なくとも、おっちゃんの目にはそう見えた。

 日本人であるおっちゃんには………それで充分であった。

「……………………………まかしとけ」

 静かにそう言うとおっちゃんは……さらに燃えていた。

 燃えて、燃え上がっていた。

 大炎上していた。

「全財産が、小銭、小銭って………うおおおおお!!

 びーびーきゅううううううー!

 なんとかかんとかあああああー!

 だっかああああああーん!」

 相変わらず全くもってよくわからない枕詞を口にしながら、おっちゃんは絶叫していた。

 そして……先ほどから肉々しい音を立てて炒められていた中華鍋、そこに……一応持ってきていた野菜とキノコの類を入れる。

 雑多。

 とにかく、多種類。

 勢いに任せて、手持ちの野菜を全種類投入された感じだ。

 ホイコーローでもチンジャオロースーでもない……もう【肉と野菜の炒めもの】としか言いようがなかった。

 だんっ!!

 数分後、おっちゃんは怒ったような表情のまま、テーブルの上にその中華鍋を置いた。

 それは、大量な大量な大量な【肉野菜炒め】。

 若者に肉も野菜も食わせたいという、おっちゃんの配慮だった。

 そして、紙皿と紙コップを用意する。

 中華鍋から直接よそって食え、という事らしかった……ワイルドにもほどがある。

『え……このまま食べろってこと……?

 もしかして、手掴みとか……』

 赤髪の鎧女は目をまん丸くしながら、おっちゃんと中華鍋を交互に見る。

『……そんなわけないでしょう。

 ほら、多分、この取り皿で取り分けて……あら、この取り皿、もしかして羊皮紙!?

 帝国内では、ずいぶん変わった使い方をするのね!?』

 エルフ耳女はいつの間にか食べ終わった鰺の焼き串を持ったまま、指揮棒のように中華鍋と紙皿を指しながら驚いて見せる。

「あー、割りばしの使い方は……無理か。

 じゃー、ナイフとフォークとスプーンはここにあるから。

 飲み物は……紙コップはここ。

 日本酒とワインは……ええい、(たっか)いやつやけど、好きなだけ飲め!!」

 だん!だん!だん!

 そう言っておっちゃんは、一升瓶とワインボトルを何本か、立て続けにテーブルに置く。

 そして……紙コップに酒とワインをなみなみと注ぐ。

 唖然とする赤髪鎧女とエルフ耳女。

 それにかまわず、おっちゃんは……二人に背を向けた。

 五右衛門風呂を沸かしに行ったのだった。

 その場に取り残された、二人の異世界人。

 赤髪鎧女と、エルフ耳女。

『………………』

『………………』

 二人は、無言だった。

 いまだに肉々しい音を上げ続ける中華鍋を中心に置かれたテーブル、それをぼんやり眺めながら赤髪鎧女は静かにつぶやく。

『馬鹿エルフ……見てよ、あのフォークにナイフ、銀製よ……しかも、ピッカピカ。

 ……さびてないってことは……魔法で【ミスリル化】してんじゃないの?

 嘘でしょ……ちょっとした【魔法剣】や【聖剣】じゃないの……』

 ステンレス製のナイフセットを見ながら、赤髪鎧女は、かすかに震えながらつぶやいていた。

『それだけじゃないです、聖騎士殿。

 見てください、あの酒瓶……あんなになめらかで、表面は均一。

 一体どんな職人が作ったっていうんでしょう……きっと、あの瓶だけで、相当な価値があると思います。

 中身のほうは、推して知るべし……なのかもしれませんね……』

 エルフ耳女は、その場に固まったまま……静かに赤髪鎧女に応じる。

 そして赤髪鎧女に問いかける。

『……ねえ、聖騎士殿?』

『……なによ、馬鹿エルフ……』

『いま、所持金はいくらくらいありますか……?』

『えぇと……この料理の量だと、たぶん、なんとかかんとか……でも……』

『ええ、多分……二人合わせても、このお酒の分は、払えそうにないですね………』

『………………』

『………………』

 二人は、そのまま再び、無言になった。

 その沈黙を……二人は、同時に破った。

 再びそれは……言語の壁を越えていた。


 ぐううううううううううう! ×二。


 それはまさに、怒号。 本能が理性を、ええ加減にせい、と叱りつける、まさにツッコミ。

 それに応じて……二人は、本能を優先させた。

『ええい、後の事なんてしったことじゃないわ!!』

『あ、謝りましょう!!

 もし所持金が足りなかったら、誠心誠意、謝りましょう!!』



『『 い た だ き ま す ! ! 』』



 そして二人は……目の前の【肉野菜炒め】に向かって突撃していった。

 その光景は……まさに、飢えた子猫だった。

 赤髪鎧女と、エルフ耳女。

 洗練されたテーブルマナーや、優雅なテーブルトークなど微塵もない。

 無言。

 中華鍋から肉野菜炒めを取り皿によそうと、無言のまま黙々と食う。

 モノを食うにも体力はいるが……二人は、その体力がなくなるギリギリのラインまで飢えていた様子だった。

「うう……いっぱい食えよ……。

 肉を食え。

 野菜を食え。

 そしたら……もう一回肉を食えばええんや……」

 いつの間にか戻ってきていたおっちゃん。

 涙ぐみながら、今度は大きなスペアリブを用意していた。

 スペアリブの表面の膜をブッチャーナイフで起用にはぎ取ってから、クレイジーな調味料を擦り込んでゆく。 おっちゃんは、膜を取る派らしい。

 そして、予熱していたダッチオーブンにそのまま投入……そして、なるべく直火にならない位置に置き、低温加熱を開始した。

「しかし……赤髪のは、おっさんか。

 まあ、西洋人はもともとアルコール分解能力が日本人より強いらしいけど……」

 おっちゃんの目の前で、赤髪鎧女はコップに注がれた日本酒&ワインを、まさに水を飲むように一気に開けていた。 そして当然。

『……っかあーー! 染みるぅぅぅ……』

 酒の匂いのする呼気を大量に吐きながら、しみじみという年頃の娘。

『…………』

 その隣で、静かに紙コップを傾けるエルフ耳女。

 その白い肌にはすでに赤みが差し、表情は冷静だが……それが却って妙な艶を見せていた。

「……食欲は落ち着いてきたみたいやな。

 酒に移ってきたか……じゃあ、ツマミでも作るかな?」

 そう言っておっちゃんが立ち上がろうとした時だった。

「あれー? お客さんー?」

 妹のほう、千奈だった。

 千奈は目を擦りながら蚊帳を下から少しめくると、そのままするんと蚊帳の外に出た。

 今日び蚊帳の使い方を知っている子も珍しい……蚊帳は出入りするときに蚊が入らないように、裾を小さくめくって素早く出入りしないといけないのだ。

 千佳のほうは、その蚊帳の中で……静かな寝息を立てていた。

 それを確認してから、千奈はサンダルを履いて、異世界のお客さんのところにててっと駆け寄った。

「えへへ、こんばんわ!! 伊藤千奈です!!」

 千奈は全く物怖じしないまま、異世界からの客人にぺこりと頭を下げていた。

 それに一瞬、顔を見合わせるお客様に姪、もとい、お客様二名。

 二人のお客様はやがて柔らかい笑みを浮かべ、もう一度千奈に視線を向ける。

『こんばんわ、いい夜ね、お嬢ちゃん』

『あははは、子供が夜更かししちゃ、大きくなれないよー』

 上機嫌で、千奈の挨拶に応じる異世界からの客人。

 それに、千奈は満面の笑顔で答えていた。


『うん、ありがとう! ゆっくりしていってね!!!』


 そう言って千奈は、異世界からの来訪者と全く同じ言語で、異世界からの客人の言葉に応じていた。

『あら、あなた……帝国語が話せるんですね。』

『帝国語? よくわかんない。

 けど、言ってることはわかるよ? 話せるし』

 にこやかに問いかけるエルフ耳女の言葉に、伊藤千奈などという日本人丸出しの名前を持つ小学生が、平然と答えていた。

 その光景に……横から見ていたおっちゃんは、一人納得していた。

「(ああ、千佳千奈は昔から爺ちゃん……俺の父親が、溺愛してたからな。

 よく海外なんかに連れ回してたから……彼女らの母国によることもあったんやろ。

 特に千奈は、人見知りせんからな……体当たりで現地語を覚えたんやろーな……)」

 ビール片手にデッキチェアに座り、酔っぱらった頭の中で、おっちゃんはそんなことを考えていた。

 にこやかに会話を交わすエルフ耳と千奈。

 その横手から、赤髪鎧女が声をかける。

『……言葉がわかるなら、話が早いわ。

 ねえちびっ子、あのオジサ……お兄さんに、いったいいくら払えばいいか、聞いてくれない……?』

 ひそやかに、小声でそんなことを聞いてくる赤髪鎧女。

 その言葉に、ふと我に返るエルフ耳女。

『そ、そうでした!!

 ねえ、お嬢ちゃん、私からもお願いします。

 わ、私たち、その、そんなに持ち合わせが……い、今はね?

 今はそんなに持ち合わせがなくって………』

「ほわーん?」

 異世界人二人の必死の問いかけ。

 それに千奈は、こてんと首を傾ける。

 その行動に、異世界人二人は顔を見合わせる。

『……言葉が難しかったかしら?』

『そんなことはないでしょ!? お金……は分かるわよね?』

「ほわわーん?」

『え、そこなんですか!?』

 千奈の反応に、エルフ耳女は驚愕した。

 お金というものの概念がない子供……ゲームソフトもお菓子も、自分のお小遣いやお年玉で買ったことがない子供というのは、実は結構いる。

 それは大体、孫への投資を惜しまないじいじやばあばがいる家と、あるいはまったく子供にお金というものを渡したことがない両親がいる世帯(大体そういう家は、親戚からのお年玉も親が着服している)だ。

 大体は学校のテストで【おつり】に関する算数の問題が出たときに発覚するのだが。

 そして千奈の場合は……彼女を溺愛するじいじがいたことと、今まで入退院を繰り返していることもあり、奇跡的に発覚の機会をすり抜けてきていたためだ。

 つまり千奈は……【お金】というものの存在を知らない子だった。 ある意味、【奇跡の子】。

 唖然とする二人の異世界人の前で、千奈はいそいそと二人がいるテーブルに陣取った。

 そして。

「おっちゃーん!! あたしも、お腹すいたー!」

 ほんの数時間前、お眠になるほど食って食い倒れたはずの千奈は……おっちゃんに向かって元気にそう叫んでいた。

「やー、お肉を食べた後って、すぐお腹が空くよね!」

「………そこは若干、同意しかねる部分があります、姪っ子二号さん」

 姪っ子二号はもちろん千奈の事だ……そのセリフに呆れた様子で応じるおっちゃん。

 そうは言いつつも、テーブルに飲みかけのビールを置き、ブッチャーナイフを手に取るべく立ち上がるおっちゃんだった。

「えぇと、もう三〇分ほどでスペアリブが焼きあがるけど?」

「それはそれでいただきます」

「……ですよねー」

 苦笑しながらおっちゃんは、伊藤家の女衆おんなしゅうパネー、などと言いながらブッチャーナイフを手に取った。

 そのままクーラーボックスをあさるおっちゃんの後姿。

 それを見ながら、異世界の女衆おんなしゅうは、二人の間にちょこんと収まった千奈に、もう一度声をかけていた。

『お嬢ちゃん、もう一度、聞いてみてもらえるかしら。

 こんなにたくさんの料理をふるまってくれて、私たちは何をすればいいかって』

『そ、そう! あたしたち、体力だけは自信があるから!!

 薪割りでも何でも……そ、そうだ!!

 このあたりに、魔物って出る?

 こう見えてあたしたちはそこそこ使える冒険者なんだから!

 オーク、オーガ……人型だったら負ける気はしないよ!』

『ほわーん……それって、大原おおはらのおっちゃんの、お嫁ちゃんになるってこと?』

『『 どうしてそうなる……いや、それはちょっと。 』』

 ほわーん、などといいながら、とんでもない言葉を口走る千奈と、きれいな唱和を見せる二人。

 そしてその二人の返答に、安心しきったような、無防備な笑顔を……チナは見せた。

『良かったぁ……大原のおっちゃんのお嫁ちゃんになるのは、あたしだから』

『『 ……あー……そうなんだぁ…… 』』

 困ったような、憐れむような、そんな曖昧な笑みを……二人は返した。

 二人の脳裏に、餌付け、という単語が……グルグルと回っていた。

『スキル【鑑定☆☆☆】起動。対象、目の前の

『えっ、ちょ……いくら何でも不躾だろ、この馬鹿エルフ!』

『い、いやちょっと……このの将来が、急に可哀そうなものに思えてきちゃって……』

『……ぁー……………スキル【鑑定☆】起動。対象、目の前の

「ほわーん?」

 可哀そうな、千奈の目の前で、小声でそんな短いやり取りが素早く交わされる。

 そして異世界人二人は……目の前の可哀そうなの【ステータス】を【鑑定】した。

 瞬間、二人の表情が…………完全に凍り付いていた。


【氏名:伊藤千奈】

【年齢:七 歳】

【種族:人間(鬼人)】

【職業:未確定(神授の儀を受けていません)】

【LV:(職業未確定のため表示できません)】

【HP:(職業未確定のため表示できません)】

【MP:(職業未確定のため表示できません)】


『名前と年齢……は、どうでもいいや。

 種族が……人間(鬼人)? どういう種族? ハーフやクォーターってこと?

 ……え?

 ちょっと……七歳なのに【神授の義】を受けてないの!?

 てことはこの……【魔法】も【スキル】も使えないってことでしょ!?

 この弱肉強食の世界を、どうやって生きていくってのよ!!???』

 エルフ耳女に【聖騎士】殿、と呼ばれた赤髪鎧女は……信じられないものを見るように、目の前の千奈を眺める。

 その赤髪鎧女に……エルフ耳女は静かに告げる。

『問題は、そっちじゃないですね。 まあそっちも問題……えっ!? そうなんですか!?

 じゃあどうやって、魔物とやりあうっていうんですか!!

 保護者はいったい、なにをしてるんですか!?』

 ばん!

 テーブルを叩きながら二人は立ち上がって……調理中のおっちゃんの背中に険しい視線を向けた。

 【義憤】。

 異世界から来た彼女らの倫理観では、それはよほど掻き立てられるものだったらしい。

 しかし……食事を供されている立場という事もあり、そのままおっちゃんをブン殴りには行かなかったようだ。

 ブンむくれの二人……しかし赤髪鎧女のほうが、震えながら大きなため息をつく。

『……いえ。

 ここは、帝国の圧政地のど真ん中よ……少なくともそのはず。 自信ないけど。

 言葉も違う異民族だし……もしかしたら、妙な法令がかれているのかも。』

『【神授の義】を禁止する法令!?

 ……あ、悪魔の所業じゃないですかっ!!

 それはつまり、魔物と戦うすべを持たず、圧政に抗うすべを持たないという事ではないですかっ!!

 魔物にあっては食われろ、圧政にあっては無抵抗に従えという事ですよね!?

 帝国は、なんという無慈悲なことを………っ!!』

 涙をにじませながら、義憤を爆発させるエルフ耳。

「ほわーん?」

 二人の憤りに、【鑑定】されているとは知らない可哀そうなは、素直に首を傾げていた。

『………………』

『………………』

『………………』

『………………』

「ほわわーん?」

 黙ってしまったお姉さん二人の姿を交互に眺めながら、左右交互に首を傾げる千奈。

 その沈黙……を、震える呼気を吐きながら、赤髪鎧女が静かに割る。

『……ふー、少し落ち着いた。

 そういえば、馬鹿エルフの【鑑定】結果のほうもなんか問題があるって言ってたね。

 馬鹿エルフのほうが、【鑑定】のレベルが少し高かったよね?』

『え? あ、ああ……ええ、【結構】高いですけど。』

『……そんなことで張り合ってくるなよ、馬鹿エルフ。

 で……そっちの【鑑定】結果、何かあったのか?』

『ああ、その………この、【状態異常】が、酷いんですよ』

『【状態異常】が?』

『ええ………【傷痍・小(手術痕)】【薬物中毒(副作用)】【疼痛(腫瘍)】【病気(潜伏中)】【飢餓・小】【視力低下(ゲーム過多)】………聞いたこともないものもありますけど。

 あまり健康的、とは言えそうにないですね………』

 そう言って、心底気の毒そうに嘆息するエルフ耳女。

 それに、同様の呼気を吐く赤髪鎧女。

『そっか、【回復系スキル】を持ってる人間が、周囲に誰もいなかったんだな……可哀そうに。

 まあ、【神授の儀】を受けられないなら、当然か………』

 そして赤髪鎧女は……手を伸ばして、優しく千奈の頭の上に手を置いた。

『……ごめんな、ちびっ子。

 あたしは【聖騎士】だから【神授の儀】を行う資格はあるけど……状況がわからないから、【神授の儀】はしてあげられない……帝国に潜伏中だし、目立つようなことはできない……本当に、ゴメン。

 代わりに………せめて、これくらいは………』

 と。

 赤髪鎧女は、そういいながら………静かに目を閉じた。

 すると……千奈の頭に伸ばしたままの手が、わずかに光を帯び始めていた。

「クラス【聖騎士】をアクティブへ……スキルを全開放」

 その言葉と共に、光は……やがて目も眩むほどの勢いをもって周囲を照らしていった。

 二人の周囲には、光が満たされていた。

 無言のままの二人……その周囲の空気が、急に神殿の中のように荘厳なものに変わってゆく。

 周囲の虫の鳴き声や、水の流れる音が、急に遠くなっていた。

 それは……御祓いか神事が行われているような、そんな厳粛さだった。

 急に、神殿か神像の前に立たされたかのような……そんな錯覚さえ覚える。

 そのまま赤髪鎧女は、静かに呟く。

『クラス【聖騎士】固有スキルより、【集中(一定時間精神力上昇)】を使用。

 同じく、【精神向上(精神的バッドステータス回復)】を使用。

 同じく、【祈念(HPをMPに微量変換)】を使用。

 続けてクラス【聖騎士】固有魔法、【回復魔法】を選択。【回復・小(一定量HP回復・小)】を使用。

 同じく、【慈愛(一定時間ごとにHP自動回復・小)】を使用。

 同じく、【慈悲(状態異常回復・所要時間大)】を使用。


 小 さ な 体 で 大 き な 災 い に 挑 む 。

 勇 気 あ る 少 女 に 、 神 の 愛 、 あ れ か し 。』


 そしてエルフ耳女が言うところの【聖騎士】殿は………【神の奇跡】を実行した。

 光が、大爆発していた。

「ん? なんやなんや?

 今ちょっと、なんか光らんかったか?」

 背後で【神の奇跡】実行されたというのに……不信心なおっちゃんは、振り返ってそう問いかけるだけだった。

 そのおっちゃんの目の前では……立ち上がったままの失踪技能実習生と、ほわーん、としたままの姪っ子二号。

 そのうちの赤髪鎧女が、全員の目の前で、ゆっくりと後ろ向きに倒れていった。

 がっしゃん!!

 ほぼ全身を覆う金属鎧が、そのまま打楽器となって地面に打ち付けられ、大きな音を立てる。

 それにおっちゃんは苦笑しながら歩み寄る。

「おいおい、飲みすぎかぁ? 急性アルコール中毒とちゃうやろなー」

 そう声をかけるおっちゃん……それに、エルフ耳女が苦笑しながら応じる。

『ふふふ……大丈夫です。

 ちょっと張り切って、魔力を使い切ってしまっただけですね。

 ふふ、あんなにテンションをあげてしまって。

 馬鹿な【聖騎士】殿……私がずっと寄り添ってあげないと……』

 柔和な笑みで、いつの間にか赤髪鎧女の体に寄り添うと、静かに声をかけるエルフ耳。

 それにおっちゃんは、ふーん、と応じる。

「……まあほどほどにな。」

『……はい、ありがとうございます』

 言葉は分からなかったが……一応、意思の疎通はできたようだった。

 そしておっちゃんはもう一度ファイアーピットに戻る。

 おっちゃん好みには少し早いが、飢えた子猫たちのために、早々にスペアリブをテーブルに饗するためだった。

 ダッチオーブンの蓋を開け、肉と骨の塊を切り分けながら……おっちゃんは、静かにつぶやく。

「やっべ……確かに、二次元で時々見るけど。

 ガチンコの百合百合やんか、あれ………。

 まあ百合とレズは違うって言うけど……千佳千奈の側に置いといて、だいじょうぶかな……」

 その片割れが神の使徒であるにもかかわらず……おっちゃんはそんな罰当たりなことを呟いていた。

 で。

 追加のスペアリブが食卓に饗され、食欲魔人千奈のぽんぽんもぱんぱんになった頃だった。

 いつの間にか赤髪鎧女も復活し、千奈と食べ終わったスペアリブの肋骨の数を競う勢いで、がっついていた。

『大丈夫!! 魔力は、命を頂くことで回復するのよ!!

 要するに……食えば治ります!! YEAH!!』

「YEAH!」

「YEAH!」

 泥酔したおっちゃんと千奈と赤髪鎧女の間に、妙なコミュニケーションが出来上がっていた。

 千奈も含め、男子高校生のようなノリだった。

 割と早々に食欲を満たしていたエルフ耳女は、それを眺めるだけとなっていた……まあ、日本酒とワインを交互に飲んではいたが。

 と。

 不意に千奈が、遠慮のない大きなあくびを見せていた。

 それに、おっちゃんが優しく応じる。

「おお、でかい口。

 千奈、風呂は沸いてるから、お姉ちゃんらと、お風呂行ってき。」

「あーふ……えへへ、そんなにおっきかった?

 ふわーい!」

 元気よくお返事してから、千奈は二人の異世界人の手を、ぎゅっと取った。

『行こ! お風呂! 行こ!』

『お、お風呂? お風呂って……沐浴の事ですか?』

『違うよ? お風呂はお風呂だよ?』

『水浴びのこと? え? 家の中で?』

『だって、お風呂だから!』

『『 ?????????? 』』

 ためらいながら、千奈に連れられ、引きずられるままになっている異世界人二人。

 そしてそのまま、三人は……邸内に消えていった。

「やれやれ……これでやっとのんびりできるな。」

 と……その時。

 しゅるり……そんな音が、おっちゃんの耳に届く。

 邸内にあった蚊帳が再び動き出していたのだ……そこにいたのは、言うまでもなく千佳。

「千奈……千奈はぁ?」

 蚊帳から抜け出し、寝起きの第一声でその名を出す千佳。

「お風呂行ってる。 千佳も一緒に入ってくるか……?」

 優しく言葉を返すおっちゃん。

 そのおっちゃんの耳に………信じられない音が、届いていた。


 ぐううううううううううう!


「叔父さま……お腹すいちゃった……お肉を食べた後って、すぐにお腹が……」

「………ええい、お前もか、姪っ子一号さん」

 姪っ子一号はもちろん千佳の事だ……そのセリフに疲れた様子で応じるおっちゃんだった。

 もちろん、数秒後には完全に再起動していた。

 クーラーボックスをひっくり返し、すぐに調理できる食材を吟味するおっちゃん。

「……うん、明日以降の食材、安全に無くなった」

 軽い衝撃と絶望を感じてから、おっちゃんは、再度調理を開始していた。

「あれっ!? あたしの傷跡、無くなっちゃった!」

 一糸まとわぬ全裸幼女、千奈は風呂場において、そう言って小さく驚いていた。

 ペタペタと自分の体を触り、いままで手術痕があった場所を確認する。

「………けっこう格好よかったのに。 どっかいっちゃったのかなぁ?」

 女の子なのに気にしていなかったのか、千奈はそう言って首を傾げていた。

『あの、ええと、ちびっ子?

 服はここで脱いだらいいのか?』

 風呂場を仕切る引き戸の向こう側、脱衣場から、赤髪鎧女のそんな問いかけが聞こえてきていた。

 その奥から、エルフ耳女の言葉が続く。

『ちょ、ちょっと、聖騎士殿!

 狭いんですから……もう少しそっちによって下さいな』

『あ、あたしはまだ脱いでる途中だろ! じゃーお前、先に入れよ』

『はいはい……じゃーお先に頂きますから……』

 そんなやり取りが、引き戸の向こうから聞こえてくる。

 そして……開け放たれる引き戸。

 そしてそこには……千奈の目の前にあったのは……千奈が目にしたこともない光景だった。

 先刻の【肉野菜炒め】同様、中華鍋からは肉々しい音が鳴り響いていた。

 それを、あむっあむっと次々平らげていく千佳……この二人は本当に双子だった。

 日本酒とワインの空き瓶を片付け、コーラをコップに注いだおっちゃんは、もう一度デッキチェアに座り、飲みかけでぬるくなってしまったビールを……一気に飲んでいた。

 そして、酒臭いため息。

 おっちゃんは静かな口調で、千佳に声をかけていた。

「いやー、しかし。

 千奈も元気になって、良かったよなぁ……なあ、千佳」

 ぴくん。

 おっちゃんのその言葉に、忙しく動いていた千佳の箸が……不意に、ぴたっと止まった。

 そのまま……フルフルと震える。

「違うんです。

 違うんです、大原おおはらの叔父さま。

 千奈は……元気になんて、なっていません」

「え……?」

 思いもよらない千佳の言葉。

 その言葉に……おっちゃんは、しばし思考停止した。

 黙ってしまったおっちゃんに構わず、千佳は続ける。

「……お薬です。 今は痛いのを……お薬で抑えているだけなんです。

 治療を次の段階に進めるために体力をつけないといけないからって。

 今回の退院だって、たぶん……そのための一時的なものなんです………」

「!! お前………知ってたんか………」

 愕然。

 それとわかる表情で、おっちゃんは静かに問い返す。

 ぺちん。

 そんな音をたてて、千佳は自分の両手で手のひらを覆った。

「叔父さま、どうしよう!

 千奈が……どんどん軽くなっていくの!

 千奈が……どんどんちいさくなっていくの!

 お薬のせい? 入院のせい?

 でもそれって……千奈が何か悪いことをしたの?

 双子なのに。

 双子なのに……私だけ、大きくなっちゃって。

 双子なのに。

 双子なのに……一緒にいられないの。

 叔父さま、どうしよう!

 私、どうすればいいの!!!!????」

 そう言って千佳は……泣き崩れてしまった。

 その千佳に……おっちゃんは、静かに告げる。

「千佳……お前、しっかりせい」

 意外なことに、おっちゃんの言葉は、突き放したような言葉だった。

 それに驚いたのか、急に怒られた子供のように、ぴくん、と顔をあげる。

 視線が合う。

 おっちゃんは、千佳の呼気が落ち着くのをしばらく待ってから、静かに続ける。

「千佳……お前が千奈の事を大事にしとるんは知ってる。

 お前が千奈の事を大事に思ってるのも知ってる。

 けどな。 千奈かってそれは同じやで、千佳。

 それこそそれは……双子やから。

 千奈……あいつが千佳の事を大事にしとるんは知ってるやろ。

 あいつが千佳の事を大事に思ってるのも知ってるやろ。

 それはそれこそ……双子やから。

 お前らは双子……全く等価やないか。

 と言っても……お前はお姉ちゃんや。

 やったら、千佳。

 お前は千奈よりしっかりせんと。

 千奈より重くなったらええやないか。

 千奈より大きくなったらええやないか。

 そうやないと……千奈を支えられんやろ?

 そうやないと……千奈を助けられんやろ?

 そのための【お姉ちゃん】やないか。

 しっかりせんか、千佳………」

「そんなの……双子なのに。

 双子なのに……できる訳が……」

 おっちゃんの言葉に……千佳はそう言って、いやいやをするかのように、顔をゆっくり振る。

 その涙顔に……おっちゃんは静かに微笑を見せる。

「バカ、お前。

 そのために……父ちゃん母ちゃん、爺ちゃん婆ちゃん、兄ちゃん二人。

 家族のみんながおるんやろ。

 頼ったらええねん。 助けてもらったらえねん。

 そしておっちゃんも……まあ、及ばずながら協力するから。

 なんぼでも、手伝ったるから。」

 そう言っておっちゃんは……静かに千佳の頭に手を置いた。

「叔父さま……」

 おっちゃんの目を射抜くように見ながら……その奥を覗き込もうとするかのように見つめながら、千佳はおっちゃんの手を取った。

「……はい。

 はい、叔父さま……。

 その時は……私が倒れてしまいそうになった時は、頼りにしますから。

 ……待っていてくださいね?」

 その目に涙は浮かんでいたが……そう言って千佳は、安心しきった完全に無防備な笑顔を、おっちゃんに向けるのであった。

 異世界人二人と千奈が籠もる風呂。

 その窓が開け放たれたのは、そんな時だった。

 ひょこっと上半身を突き出す全裸少女、千奈。

 そして千奈は……恐ろしい告白をするのであった。

「おっちゃん、大原のおっちゃーん!!

 すっごい!!

 すっごいよ!!

 このお姉ちゃん、すっごいオッパイおっきいよ!!!」

 その瞬間、千佳とおっちゃんは………先ほどまで深刻に会話していたのを忘れ、完全に思考を停止させていた。

『こら、ちびっ子。

 女の子が窓から体なんて出すんじゃない……の?』

 そう言って千奈の体を浴室内に引っぱり込もうとする赤髪鎧女。

 そして千奈の体を浴室内に引っぱり込んだ赤髪鎧女。

 当然、窓は全開だった。

 必然的に………外のおっちゃんと視線が合う赤髪全裸女が、そこにいた。

「あ、このおねーちゃんはそうでもないよ、おっちゃん」

 横から割り込む、千奈のいらん報告。

 それに……赤髪全裸女は、窓越しに自分が全裸でおっちゃんと対面しているこのに気づいた。

 その瞬間、【肉体強化】スキル持ちの【聖騎士】殿は……全力で悲鳴(肉体強化発動中)をあげていた。

 それは、天地を揺るがす雷鳴のようであった。

 雷のような怒号が周囲を揺るがした数分後……赤髪全裸女は、いまだ流し場にうずくまったまま、耳を真っ赤にさせていた。

『……誰にも見せたことなんてなかったのに……誰にも見せたことなんてなかったのに……』

 いつまでもそう呟いたままうずくまる赤髪全裸女。

 それを見ながら、いつまでもけらけら笑い転げる千奈……困った様子のエルフ耳女。

 少し落ち着いたのか、千奈は息を整えながら、目尻を拭う。

『あー可笑しかった。

 赤髪のお姉ちゃん、気にすることなんてないよ!

 大原のおっちゃんね、多分そんなに気にしてないから』

 ……一応元気付けようとしているのだろう、多分。

 千奈はそう言いながら赤髪全裸女の肩を、ぽんぽんと叩いた。

『ううっ、それはそれでひどい気もするなぁ……でも。

 さすがに男の人に体を見られるのはちょっと……』

 少し恨めしそうに千奈を見ながら、赤髪全裸女は言葉を返す。

 その反応に千奈は………自信満々、両手を腰において、偉そうにふんぞり返って応じる。

『大丈夫だって。

 だって、大原のおっちゃん、あたしの事、大好きだから。

 たぶん、あたしにしか、興味がないから』

 どん。

 漫画で言えばそういう効果音が付きそうなくらい、千奈ははっきりと断言していた。

『そ、それはそれで間違ってる気はしますね……』

 児童福祉法や青少年健全育成条例など全くない、異世界から来た巨乳エルフ耳女はそう言って困ったような表情のまま呟く。

『お嬢ちゃん……むしろ、あなたのほうが危険なのでは?』

『それも、大丈夫。

 あたしのほうは、どんと来い、だから。

 挑戦はいつでも受け付けるから。』

 どどん。

 千奈はもしかしたら……性別を間違えて生まれてきたのかもしれない。

『………え? あたし、もしかして何か間違えてる?

 違うよね?

 あたし、あってるんだよね?』

 千奈とエルフ耳女の会話におっぱいがゲシュタルト崩壊を起こしかけたのかもしれない赤髪全裸女は、妙に真剣な表情で確認する。

 エルフ耳女は……無言のまま優しく何度も頷いていた。

 その挙動に合わせ……赤髪全裸女などとは比べ物にならないほどのその大きなお胸が(以下略)。

「うわー……まだ耳がキンキンゆってる……なんだあのバカでかい悲鳴……」

 赤髪全裸女の【肉体強化】というスキルは……悲鳴さえ増幅させることができるらしかった。

 しいて言うなら……コンサートやライブ会場用のスピーカーの真ん前に立つ感じ。

 顔を歪めながら、耳鳴りが収まるのを待つしかないおっちゃん……その横の千佳も同様であるらしかった。

「千奈め……伊藤家の女は代々貧乳やからな……珍しかったんやろうなー。

 ふむ……そういえば、兄貴の嫁の佳奈(かな)さんもそうやったか。

 あれ?

 という事はもしかして……伊藤家の男は、代々貧乳好きなんか?

 そんなあほな………世に【貧乳はバッドステータスだ!】て言葉が……うん?」

 おっちゃんは自らのその無意識の呟きに……視聴者がいることに、はじめて気づいていた。

 千佳だった。

 千佳は信じられないようなものを視聴したかのような表情をしていた。

 伊藤家の男は代々貧乳好き、伊藤家の女は代々貧乳……それらの言葉を、千佳は完全に聞いていたようだった。

 怒っていいのか、喜んでいいのか……千佳の中で、十数秒かけても結論が出なかったようだった。

 やがて千佳は……無言のまま、おずおずと親指を天に突き出していた。

「……何がYEAHなん?」

 おっちゃんは、無意識に突っ込んでいた。

 で。

 あとは寝るだけ、という時間に差し掛かっていた。

 結局おっちゃんは家を出て、家の前に止めた車の中で寝ることになっていた。

 家の主ではあるが、【お風呂】という、大量のお湯で体を洗う行為に感激した異世界人二人がなかなか風呂から上がらなかったのと……なんと異世界人二人がお風呂場で洗濯を始めて着るものが無くなったせいで、おっちゃんは自主的に車中泊することになったのだ。

 ……いろいろなことがあった、一日だった。

 変なガイジン二人に遭遇したこと、大量に料理を、しかも何度も作らされたこと、千佳に泣かれたこと……あと地味に、自宅からこの地に来るまでの長距離運転がきつかったこと。

「あー、俺も無理が効かん年齢になってきたってことかな……」

 静かに、そんなことを呟くおっちゃん。

 フラットに倒した車のシートの上で……おっちゃんは体勢を変える。

「けどまあ……千佳と約束したしな。 もう少し、頑張って………ふああああ」

 大きなあくびを見せるおっちゃん。

 そしてそのままおっちゃんは……数秒後には、眠りに落ちていた。

 おっちゃんが目を覚ましたのは、約六時間後だった。

 まだ朝も始まっていない、薄闇にもなっていない時間だった

 不意に窓をノックされる……すわ警察の職務質問かとおっちゃんが薄目を開けると、そこにはエルフ耳と赤髪鎧女がいた。

 もう服が乾いたのだろうか……二人は、身支度を整え、神妙な表情を見せていた。

『あの……私たち、もう行きますね?』

 薄く微笑んで、静かにそういうエルフ耳女。

 何を言っているのかはわからないが……おっちゃんには、何を言おうとしているのか、分かっていた。

 要するに、出立前の挨拶だったのだろう。

 異文化のことゆえよくわからないが、出会ったときや食事の依頼など、礼を欠かさなかった二人。

 そんな二人が黙って出ていくという事など、よほどのことがない限り、ありえないように思われた。

「おっ、もう出発するんか」

 短く応じながら、おっちゃんは……ダッシュボードにしまっていた和封筒を取り出した。

 【足代】。

 寝る前にそう書いて用意しておいた和封筒を手に取ると、おっちゃんは電動スライドドアをあけた。

 電子音とともに勝手に開いてゆくスライドドアに、異世界人二人は、おお、と半身引いた。

 それに苦笑してから、おっちゃんは車を降りる。

 車内のわずかな電子の光に照らされ、異世界からの二人の姿は……薄く、淡く見えた。

『オジ……お兄さん、夕べは、助かった。

 帝国の圧政地のど真ん中で、あたしたちを匿ってくれるなんて。』

 言いながら赤髪鎧女は、片膝を落とし、頭を垂れて見せる。

 その淀みなく滑らかな動作に、おっちゃんは見とれてしまいそうになっていた。

『全くですね。

 今度から、私たちみたいな不審者は泊めないほうが良いですよ?』

 にこりと笑いながらそんなことを言って見せるエルフ耳女。

 と……おっちゃんはその時、初めて気が付いていた。 あれ、この子、ちょっと耳長くね、と。

『では、宿泊の代金を。』

 おっちゃんが感じた違和感に気づかず、赤髪鎧女は掌に載せた【帝国金貨】一枚を、おっちゃんに差し出す……差し出そうとする。

 手渡すことができなかったのは、おっちゃんが、差し出された金貨の上に、先ほどの【足代】と書かれた封筒を置いたためだった。

 そしてそのまま、両の掌でくるむように、赤髪鎧女に金貨と封筒を握らせる。

『え、ちょ……これは、私たちの気持ちです。

 ……まあ少々見栄は張りましたが……御息女と一緒に、温かく、家族ぐるみでもてなしてくださったお礼です。

 あ、ええと……あはは、私の裸を見た分は、引いておいたから』

 照れたように苦笑しながら、手のひらごと突き返そうとする赤髪鎧女。

 しかしおっちゃんは、引かなかった。

「……ええから、気にすんな。 あって困るもんでもないやろ。

 お前ら、帰らないかんところがあるんやろ………?」

 そう言って……真剣な目で、まっすぐ二人を眺めるおっちゃん。

 そのおっちゃんの言葉に………二人は、困惑したように顔を見合わせた。

 ……やがて。

『『 ……はい。 』』

 その返答が、何を指し示しているのか、おっちゃんには、分からなかった。

 ただ……同時に、柔らかな、無防備な笑みを向けられ、おっちゃんもまた微笑を返すのだった。

「あー、くそ、目が覚めてもーたな。

 二度寝したら、絶対千奈のほうが先に目を覚ますやろうし……あいつの目の前で寝てたら……フライングボディプレスしてくるからな。

 そのうち俺、絶対内臓ハミ出すと思うわ……」

 すでに、日が昇り始めていた。 そんな時間だった。

 おっちゃんは、去っていった女二人の後姿を見送ったまま……そのまま一時間は立ち尽くしていた。

「もーちょい明るかったら、写真でも撮ってもらったんやけどな。

 スラブ系かな?

 二人とも超美人やったから……インスタ映えどころやあらへんかったやろうに。

 はは、惜しいことしたかな?」

 そう言っておっちゃんは、姪っ子たちの前では絶対吸わなかったタバコ、その五本目の吸い殻をもみ消していた。

「さて……朝飯の準備でもするか。 ……ちょっと、炭水化物も摂らさないかんな。

 肉に野菜に……コメって野菜やんな?

 じゃあ炭水化物って何で摂ればええんや?」

 小太り野郎がそんな意味不明なことを呟きながら、邸内に向かって歩いて行く……その途上だった。

「叔父さま、叔父さまああああああ!! 千奈が、千奈が……」

 その言葉を聞いた瞬間……おっちゃんは、全力疾走していた。

「千奈が、どうした!! どうしたんや、千佳!!」

 焦燥感に焦がされながらも、千佳に声をかけるおっちゃん。

 狭い屋敷の中、目的地にはすぐ着くはず。

 しかしそれでもおっちゃんは焦れてしまっていた。

 焦れながらもやがて到着する、蚊帳の吊るされた居間。

 そこには、眠ったままの千奈の体を抱える、千佳の姿があった。

 やがて叔父と視線を合わせる千佳。

 その叔父の姿に……千佳は、爆発したように叫んでいた。

「千奈の髪が……千奈の髪が……元に戻ってます!!」

 そう言って千佳は、千奈に被せられたニット帽を外した。

 するとそこから……漆黒の、絹のように滑らかな髪がこぼれだしていた。

 その質と長さは、双子のどちらがどちらなのか、分からなくなってしまうほどであった。

 それもう、【一定時間ごと】に【一定量ずつ】【回復】し、【完治に至った】と言って良いほどの姿であった。

 その数秒後……おっちゃんは奇声をあげていた。

 それはもう、二人がドン引きするくらいの喜びで、叫んでいた。

『……なんだ、この紙。

 ……なんか、二〇枚ほどあるんだけど………』

 赤髪鎧女は歩きながら、先ほどオッチャンという男に手渡された『足代』と書かれた和封筒を開け……中に入っていた一万円札をしげしげと眺めていた。

『肖像画……じゃないよね。

 枚数はあるけど、すごく均質で、精密。

 均質ってことは、均質である必要があるのであって……という事は、使用量を加減しながら、同じことに使えるってことよね。

 呪符スクロールの類かなあ………』

 ……惜しい。 まあ確かに、お金には魔力が宿っていると思われるが。

 一万円札を曲げたり透かして見たりしながら、赤髪鎧女はぶつぶつと呟くように言っていた。

 その姿に、からかうような調子で後ろから話しかけるエルフ耳女。

『うふふふふ。

 男性からの贈り物を、そんなにしげしげと眺めるなんて。

 聖騎士殿ー、残らなくって良かったんですか?』

 妙に高いテンションで……エルフ耳女は赤髪鎧女に声をかけていた。

 山の中の道である。

 要するに……おっちゃんの家を離れ、元いた(・・・)場所に帰る途上であった。

『はぁ? 残ってどうすんのよ。』

 呆れたように言う赤髪鎧女。

 その平静さに、エルフ耳女は興ざめしたかのように言葉を返す。

『もう……からかい甲斐のない人ですね。

 あのオッチャンという名の男に、裸を見られて……最後には手まで握られて送り出されたのに。』

『馬鹿エルフ。

 ……まあ、ね。

 あのオジ……お兄さん。

 だいいち、子持ちじゃないの……あ、違ったか。 ちびっ子が【お嫁ちゃん】とか言ってたし。

 まあ、所帯を持ったら、物凄くいいお父さんになるとは思うけど?

 でもまあ、恋人として付き合うには……華がないかな?

 ……あと、付き合い(・・・・)が短すぎるよ』

 HAHAHAとばかりに肩をすくめて見せる赤髪鎧女。

 その言葉に……エルフ耳女がふと立ち止まる。

『えぇと……そういえば、ウェルスフィアへの道って、聞いてなかったですよね。』

『え? ああ、そうね。

 でもまあ来た道を逆に戻っていけば……最初に迷った場所にはたどりつけるんじゃない?』

 お気楽に、そんなことを言って見せる赤髪鎧女。

 その目の前で……エルフ耳女が、震える指先で前方を指し示していた。

『もしかしたら、その【付き合い(・・・・)】というのは……少々長くなるかもしれませんね………』

『え……あっ!?』

 震える指先、その先にあったのは……一時間前まで彼女たちがいた、古い民家であった。

 思わず絶叫をあげる赤髪鎧女。

 同時に……おっちゃんが千佳と千奈をドン引きさせた喜びの奇声が、奇しくも被っていた。

未回収の伏線が多いのは、長編を短編にまとめたからですw

あと……セルフ二次創作です。スピンオフなんて恥ずかしくて言えませんw

さて。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=67286431&si
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ