申し子、試食会にて華麗に披露
あたしが昼休みに入る時間に、納品口金竜宮側の立哨は昼五番が入る。夕方の下城する人が多い時に正面玄関口に入る番だ。
その女性衛士優先番の昼五番に入っているのは、ヴィオレッタ。上番したばかりの彼女に眠そうな雰囲気はなく、すっきりとした佇まいだった。
「ヴィオレッター。これ、お茶会の場所」
記憶石を放ると、ヴィオレッタは両手で受け止めた。
「――――まぁ、行儀が悪いこと。ユウリ、そんなことで子爵夫人がつとまりますの?」
お小言言うわりには、華麗に受け止めていたけど。
「夫人じゃないけど、ガサツなのは反省するわ」
「場所はどちら? ――――ん? 販売所……?」
記憶石には位置だけじゃなく、場所の名称も刻まれている。触れると場所が浮かび上がるのよ。
「メルリアード男爵領で今度開店するお店なの。開店前に試食会のご招待なんだけど、いい?」
「あら、楽しそうですわね」
予想外にうれしそうでほっとする。
エヴァの方は、アルバート補佐がゴディアーニ家へ行くついでに持っていってくれることになっていた。
「じゃぁ、闇曜日にね」
「ええ。昼過ぎに向かいますわね」
納品口の扉を開けると、少しだけ涼しくなった風が舞いこむ。
『クー(きもちいいのー)』
「ホント、秋の気配ね」
肩の上で気持ちよさそうに目をつぶるシュカをなでた。
◇
お茶会のテーブルへ三段のティースタンドが運ばれてくると、場は一気に華やいだ。
今日は、あたしもドレスを着ている。ヴィオレッタもエヴァもそれぞれ昼のお茶会用のドレス姿。店内に三人だけのお客だけれども、それだけでもずいぶん華やかだった。
大きな窓には自慢の北方海が広がり、テーブルには花もあしらわれて。
シュカは従者用の控室でレオさん(護衛と言い張ってる)と試食会(多分、好きなものを好きなだけ出してもらってる)なので、この場は女子だけなのよ。
料理長がワゴンで運んできたティースタンドが、それぞれの前へ置かれた。
「なんですの、これ……!」
「すごいわ。白鳥宮みたいね」
金竜宮の奥にある白鳥宮は、側室の方が住まわれる優美な塔。今は誰も住んでいなくて客室として使われることがあるらしい。
あ、いいかも。メニュー名それにしようかな。今日出したのは赤ワインに合わせたもので、色味も赤っぽいから『暁の塔』とか『茜の城』とか。
とにかく驚かせることには成功ね。
一番下の段は小さめのパンをくり抜いて、スノイカとボゴラガイのトマト煮を詰めたものと、小さいサラダカップが乗っている。
魚介の煮込みは北方だと定番料理らしいんだけど、オリジナルレシピはシンプルなのよ。素材の味がいいからか、この国の料理は味付けが基本的に塩だけだったりする。
「パンに入ってますのね? おもしろいですわ」
「中に入っているの、北方の『煮込み』っていう料理よね?」
「そうそう。この辺りの地元料理ね」
「……美味しい……。これ、何か味が複雑ですわね……。うちも北方だから煮込みは食べるのだけど、こんな味は食べたことがありませんわよ」
ヴィオレッタは真剣な顔で味わっている。
「――赤鹿とかデラーニ牛の香りに似ている気がしますわ……」
正解は調合用のドライローリエ。あとは刻んだタマネギとニンニクとセロリを炒めて煮込んであるから、ちょっとだけ味が複雑なのよね。
「野菜と香りのものをいっしょに煮込んでいるの。ヴィオレッタは赤鹿よく食べるの?」
「よくは食べられなくてよ。希少なものだもの、時々いただくくらいですわ」
「ユウリ、赤鹿はお高いのよ。あまり獲れないし。私は二度しか食べたことがないわ」
「そうなのね。実は、その二段目のスライスしたパンの上が赤鹿よ」
え?!
二人が赤鹿を凝視した。
「……そんなに見なくても、逃げないけど……?」
「高級食材をこんな気軽な雰囲気のお店で出すつもりですの?!」
「一皿にちょっとしか使わないし、赤鹿大きいから一頭で何人分にもなるわよ」
「そういうことじゃなくてよ?! いくら美味しくても魔獣。危険な場所まで行って獲って処理してで採算取れないでしょう」
「んー、この辺りは山にいるのよ。増えたらちょっと減らさないといけないらしくて。これは、あたしが獲ったものだし」
「ユウリが狩ったと言うの?!」
あら、ヴィオレッタ。お嬢様言葉が剥げててよ。
エヴァは「ユウリ、やるわねー」と笑っている。
「まぁまぁ、とりあえずお食べなさいよ。味付けの感想聞きたいし」
「いただくわよ。わたくし、赤鹿好物なんですわ――――ん?!」
「――――美味しい! この甘味と塩味のソース何? 粒が入っているわね。香ばしくてコクがあるわ」
ふふふ。ほんの少しだけ乗せてあるタレは、刻んだ塩炒めクノスカシュマメにハチミツを混ぜたもの。ようするにしょうゆとハチミツね。つくだ煮に似た味で、不思議と赤ワインとの相性もいい。
「ええ……。これは、クセになるわ……。これはどこで売ってますの? もしかして自家製?」
「自家製よ。でも、売れそうなら販売しようかと思ってるの」
「ぜひ、売るべきね。わたくしが箱で買うわ」
それは早急に販売しないとならないわ。クノスカシュマメが好評でうれしい。これが日本の味よと声を大にして言いたい。
そしてデザートはグルベリーと焼き菓子。焼き菓子の上にクルミのキャラメリゼを乗せてある。
今日の料理はあたしが考案したメニューもあるけど、作ったのは料理長たちだった。
本業の人が作るお料理は大変美味しい。整ってるというか。んー、ワインが進むー。
「どれもとっても美味しいわ、ユウリ。すぐに開店できそう」
「そうね。変わった味でしたけど、美味でしたわ。後を引くというか。ただ、ここだけでは少し手狭ではなくて? 向こう側の……販売所でしたっけ? あちらも食事できる場所にしたらいかが?」
あー……。そのあたりはレオさんやアルバート補佐と相談かな。
でもお客さんを見込めると思ってもらえたのはうれしい。
お茶を飲みながら魔獣肉についても聞いてみたけど、興味はあるって。
巨大蛇は――――二人とも食べたことがあるって!! 学生時代に屋台の串焼きを食べていたんですって!! 山の引き締まった鹿とか猪とかを食べているから美味しいんですって!!
何それ、楽しそう美味しそう! あたしも食べたい!!
もう! 話が違う! ポップ料理長、ご令嬢やご夫人に夢を見過ぎだと思うわよ?!
いつも応援ありがとうございます!( ;∀;)
ただいま改稿作業中につき、しばらくの間更新を不定期とさせていただきます。
お待ちくださっているみなさまごめんなさい! なるべくがんばります!
今回もお読みいただきありがとうございました!!





