申し子、夢にまで見た
賑やかな通りから林の中へと入っていく。
前をとっとと歩くシュカがなんかソワソワしている。
そのうちあたしも鼻をふんふんと動かした。
「――――なんか懐かしい香りがしない?」
フユトはニヤリと笑った。
「そうなんだよー。それでユウリに来てほしかったんだよ。ちょっとたまんないよね」
ホントにたまらない! これ、焼きトウモロコシとか、醤油の焦げた匂い!
うわぁ、ヨダレが……!
「おいしそう……」
「俺の実家のあたりって焼きだんごが名物でさ、こういう匂いしてたんだよなぁ」
「それ、学校帰りは罠ね。って、なんでこんな人気のないところに来ようと思ったの?」
「ああ、ダグマップに美味い屋台のタグ付けておこうと思ってさ。見られないように道をちょっと外れたら、こんなステキな出会があったってわけよ」
『クー! クー!(あったの! おしょうゆ、これなの!)』
前を歩いていたシュカがピョンと跳ね、セッパがバサバサと羽根を動かした。
「これだね」
指差されたところには、焦げ茶色のインゲンマメのようなものがぶら下がっていた。
蔓性の植物で低木に絡まって実を付けている。
「[鑑定]」
|食用可(要加熱)
|クノスカシュマメ
|体を作る:大
|体の調子を整える:中
やっぱり豆らしい。
タンパク質とビタミン・ミネラルが含まれているっぽい。
[鑑定]がだいぶいい仕事をするようになってきたわ。
「鑑定スキル持ってるんだ?」
「食物限定のだけどね。特殊スキルのところにあったから、多分言っちゃいけないヤツね」
言っちゃってるけど。
「たしか、むやみに採取しないって、冒険者ギルドのルールにあったわよね」
「依頼以外で食べる分だけ採るのはいいことになってるよ。これって、食べられる?」
「うん、加熱すれば食べられるみたい。ちょっとやってみようか」
フユトが革の手袋をはめた手で、一つちぎって渡してくれた。
焦げ茶色が熟しすぎで傷んでいるように見えるけど、外側のサヤを開くと中に小指の先ほどの豆が行儀よく並んでいる。こちらも焦げ茶色だけどふっくらしておいしそうだった。
[洗浄]の魔法をかけ、なぜか魔法鞄に入っているまな板と包丁を取り出した。
「ちょ、ちょっと! そんなワインレッドのエレガントな鞄から、なんちゅうもん出すんだよ。――――待って、これ使って」
笑いながらそう言うフユトも、腰につけている魔法鞄から小型のテーブルとイスを取り出した。
そうよね。入るなら入れちゃうし、使うわよ。
二人でテーブルに向かうと、神獣たちはフユトの膝に乗った。豆の行方が気になるらしい。
まな板に豆を乗せて細かく砕く。加熱不足の食中毒が怖いから、念のため細かくしてから茹でることにした。
「ほら、調理道具入れておけば役に立つのよ。――そういえばこの魔法鞄の容量、トランク四つ分って言われたんだけど、あきらかにもっと入る気がするのよね」
だってあのすごいかさばるドレスが数着入ったのよ。トランク四つじゃ済まないわよ。
「ああ……。俺も同じこと思ってたよ。あの特殊スキルの『申し子の鞄』ってそういうことじゃないかな」
「きっとそう。どのくらい入るのかしら。引っ越しの荷物全部入ったら楽でいいんだけど」
「え、引っ越すんだ? 今は王城にいるんでしょ?」
「いるけど、近々出て行くと思う。元々は冒険者とかポーション作ったりとか、日本になかった仕事したかったから」
「あー、わかるー。もし冒険者やるなら、声かけて。いっしょにダンジョン行こうよ」
「それ楽しそうね。ぜひ。まぁとりあえずは近衛団を辞めてからだけどね」
そして辞めるためには女子隊員が入ってくれないとなんだけど。道は遠いわ……。
細かくした豆を小鍋に入れて、[湯煮]の魔法をかける。
あ、とがった匂いじゃなくまろやかな香ばしい香りになってきた。
一粒出して食べてみると、うん。豆の香ばしいいい香りにポリっとした楽しい食感。匂いはかなり醤油に近い。ただ、味は豆の味だけだから、しょっぱさはまったくない。
これ、逆に動物にはいいのかも。
『クークー!』
『クッククック!』
期待に満ちた目でこっちを見ている神獣たちに、小皿に乗せて出してあげると二体とも喜んで食べた。
『クークー! クークー!(もっとしょっぱくてもいいけど、これもおいしい! 風の気も土の気もこくてまんぞく!)』
あたしたちの分は塩をほんの少し足して絡めてお皿に乗せた。デザート用のスプーンも付ける。
「いただきます……」
――――うん。かなり醤油に近いわ。
追加でクノスカシュマメを採って小鍋で同じように砕いて茹でておき、フライパンの準備をする。
んー……まずは正統派ど真ん中で豚にしておこうかな。
薄くスライスしてある豚を多めに取り出して塩を振り、ポクラナッツ油を引いたフライパンへトングで並べていく。[網焼]の魔法をかけてジュージューと身の色が変わってきたところへ、クノスカシュマメを投入。フライパンを振ると一気に焼いた醤油の香りが広がる。
「ああああああ! 美味そう!! いい匂い!!」
フユトの心の叫びに、同意する。
もうホントにヤバい。
いい焼き色が付いたところで、お皿に乗せた。焦げ茶色の粒が絡まった豚の炒め物だ。
「「いただきます!!」」
ものすごい前のめりで食べた。だって期待しちゃうじゃない。こんな匂い!
フォークをくわえたまま遠くを見る。
ああこの味…………夢にまで見た…………。
香りからまったく裏切られない、懐かしい味だった。
「――――焼いたの少し持っていく?」
「いいの?! ……や、遠慮するわ」
「そう?」
「うん、俺も作るから。調理道具貸してくれる?」
「いいわよ――――ふうん、お手製のお土産ってことか」
ニヤリとすると、フユトは赤くなった。
「――――くっそ、自分は左の薬指に指輪なんかしてるからって余裕か」
「ち、ちがっ! この指輪はそんなんじゃ!」
「こっちはそれどころじゃないんだよー。昨日なんかガタイがいいちょいワルオヤジ風なイケメンが来てさ、ミューゼリアさんといい雰囲気出しててさ。おたくの団長さんといい、なんでそんな騎士っぽいイケメンが次から次へと出てくるわけ?」
「だ、だいじょうぶ、フユトも負けてない……」
「目を見て言ってみて」
「…………さ、さーてと、このクノスカシュマメの量産体制整えてもらわないとなー」
うらめしそうな顔を横目に、あたしはあさっての方を見る。
宿舎裏のポーション用薬草畑の横にでも植えてもらえたらうれしいなぁ。申し子が食べる分だけなら大した量じゃないし、ダメかな。
とりあえずレオナルド団長にこれを食べてもらって、お願いしてみよう。
あたしはフライパンに残しておいたまだ暖かい豚肉を魔法鞄へとしまった。
次話『申し子、夜会へ』
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