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申し子、デート中 1


 調和日の朝。

 リンと玄関のベルが鳴って出て行くと、もちろん立っていたのはレオナルド団長で、一瞬目を見開くと横を向いてしまった。


「――――可愛すぎる」


「え? 何か言いました?」


「い、いや、なんでもない。いつもと違うが…………それも似合っている……」


 ほんのり顔を赤くしてそんなことを言われたら、うれしいしよかったってほっとする。


 そう言う獅子様は、光沢のある灰色のシャツにオフホワイトのジャケット姿だ。ドレス買っておいてホントよかった! 今まで気にしなさすぎで、恥ずかしい……。


 団長はお腹のあたりに飛び込んできたシュカを抱き、片手を差し出した。

 エスコートされる時のように手を重ねると、きゅっと握られ手をつないだ状態に。


 と、そこであたし気が付いた。

 今、宿舎。宿舎棟が建ち並ぶ裏庭を横切って、納品口近くを通って、東門を出て、魔法が使える場所まで行くわけで。


 この手つなぎ姿で、同僚たちが働く場所を通っていくってこと――――?!

 手がびくっとなったのを、レオナルド団長はしっかりと握りなおした。


 眼鏡や帽子で変装とか……や、シュカがいる時点で誰かバレる! 首に巻いてって、真夏に毛皮は巻かないし! っていうか、今さらもう何もかも手遅れなんだけど!!


 悲壮感いっぱいで見上げれば、視線に気付いてふわりと微笑まれた。


 そんな顔されたら、この手、外せないわよ――――……!


 衛士たちが挨拶もせずに呆然(ぼうぜん)と見ている中、あたしたちは歩いていきましたよ。ええ。


 ホント、恥ずかしくて死にそうだったわ…………。




 東門を出てお堀を渡った先の公園にも、伏兵がいたのよ! 覗きよ!

 木の向こうにピンク色の髪が見えてるのに気付いてるからね?! もう一人いっしょになって覗いてるのペリウッド様じゃないの?!

 ええ?! ゴディアーニ辺境伯様! ご子息は一体どうなってらっしゃいますの?!


 あまりのことに唖然(あぜん)としているうちに、レオナルド団長に抱き寄せられていっしょに[転移]していた。


 一部始終、全部見られました!!!!


「――レオさん! 今、公園に……!」


[転移]した先で、周りの確認もしないうちにそう言うと、団長は苦笑した。


「気付いてたか。うちの次兄が行儀悪くてすまない」


 行儀悪いで済んじゃうんだ?!

 それも衝撃なんですけど!!

 シャイな日本人としては、親兄弟に手つなぎした挙句に抱き合ってたの見られたら、穴掘って十年くらい埋まりたい案件だわ。


「どうも兄は調合液(ポーション)の配達を始めたら、領外に出るのが楽しくなってしまったらしくてな……。遅れてきた少年期だと思って、許してやってもらえないか?」


 三十代で遅いデビューしてしまったのね。

 っていうか、半分くらいあたしのせいでは……。


「いえ、そんな許すなんて……。楽しいならよかったですね?」


「そうか。――ユウリは優しいな」


 肩を抱かれたところで、ゴホンゴホンという咳払いが聞こえた。


「――そろそろ気付いていただけませんかね。レオナルド様」


 振り返ると、メルリアード男爵領の領主補佐アルバートさんが、呆れた顔で立っている。

 ――――ここは?

 見回すと立っているのは青々とした丘の上で、なだらかに下った向こうには真っ青な海が広がっていた。レオナルド団長の瞳に似た深い青色だ。北方の海の色。


「男爵領――――?」


「そうだ。反対側を向いてみてくれ」


 言われた通りに振り返ると、真新しい洒落た建物が建っていた。領主邸に似ている。


「ここが、白狐印の回復液の販売所となる建物だ」


「え――――ええ?! あれ、本当に作ったんですか?!」


「ああ。見晴らしのいい場所で、町にも割と近い。貴族の茶会にも耐えうる建物にしたつもりだ」


 たしかに販売所なんて名称が似合わないしっかりとした作りで、離宮とでも呼べそう。

 まだがらんとした建物の中へ案内されると、エントランスの向こうは中庭になっているようだった。右側には領の特産品を売る販売所とちょっとした休憩所、左側は景色を楽しめるティールームになるのだそうだ。シュカがさっそく匂いを嗅いで歩いている。


「すごいステキです! あたしもお茶を飲みに来たいです!」


 窓ガラスからは美しい景色が見えている。海を眺めながらのんびりお茶を飲めるなんて、ステキ!

 反対側は庭に面しているし、座る席によっていろんな景色が楽しめるみたい。

 はしゃぐあたしを見て、レオナルド団長はハハハと楽しそうに笑った。


「ユウリのアイデアを、そのままやってみただけなんだがな。他にも思うことがあればどんどん言ってくれ。ここはユウリの店のようなものだから」


 じゃ、あれやりたいわ。三段重ねのティースタンド!

 あたしはああいうスイーツを食べたことがないんだけど、アレのおつまみ版があったら天国と思っていたのよね……。

 そうよ、男爵領ではワイン作ってるんだもの、ワインと三段重ねのおつまみとかよくない?! そんなの出て来たら、もうずっとここに住む!


 あたしがその話をすると、レオナルド団長は「よし、それをやろう」と即決で、アルバート補佐は「すぐに細工師と連絡を取ります」と答えていた。


「すぐに真似されるだろうがな。うちが最初だというのが大事だ。ここの看板商品になるだろうな」


「あたしも飲みに……じゃなくて食べに来ます! 女子会に使えるといいな」


「女子会?」


「女性だけで飲んだり食べたりする会のことなんですけど……警備でもやっているんですよ。その会場にできたらいいなって」


 そう言うと、レオナルド団長は変な方向を見ている。


「レオさん? どうかしました?」


「い、いや、なんでもない。……それなら個室も作るか」


「はい、ぜひ!」


 販売所(名称を早く決めた方がいいかも)を後にして、次に[転移]で連れられたのは、見るからに高級そうな店構えの建物の前だった。看板には『光の雫』と書いてある。街並みからすると王都に戻ってきたみたい?


 何の店だろうと思う間もなくエスコートされて入ると、店内はガラスケースが並び宝飾品の数々がきらめいていたのだった。


――――ヒェッ……!


 喉の奥の方で変な声が出たのは、仕方がないと思うの。だって、こんな店に免疫ないし?! 店員さんは上品だけどすごい笑顔だし、ケースの中は大変な輝きだし、お値段は――――。


もう変な声すら出ないわよ…………。






次話『申し子、デート中 2』

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