申し子、真実を知る
今日は特別業務で朝から外の配置についていた。
気を使ってもらったのか、あたしは宿舎北の森の前だったから日陰で助かっている。けど、他の男性衛士たちは暑いところの警備。
日本で暮らしていた時の夏を思えばここは快適なくらいなのだけれど。真夏の日差しはやっぱりちょっとキツイわよね。
宿舎北といえば、広大な畑や鶏舎があり、その横に訓練場、その外側をぐるりと森が囲んでいる。広くて広くて向こうの城壁は見えないくらいだ。
その畑で今日は陛下の視察が行われる。
畑用の土地の一部に薬草畑を作るため、魔法ギルドのお偉いさんを呼んで話を聞くという予定――――そう、あたしが薬草育てたいって言った、あの話がここに繋がってるのよ。
光の申し子ということを出さないように、陛下のお考えで薬草畑をつくることにした。ということになってるのよね。
薬草の管理も、王立農作物研究所と魔法ギルドから派遣された人たちが、植えるところからドライにするところまでやってくれるらしい。
できあがったドライの薬草の一部は陛下が受け取り、残りは適正価格で魔法ギルドに卸されると。
そしてその陛下が受け取ったものが、あたしのところに来ることになっている。そうレオナルド団長が言っていた。
森の中で見かけた薬草たち、自分で育ててみたかったけど――――。
でも、次に女性衛士が入ったら衛士を辞めるつもりだし、そしたらお城からも出ることになるだろうし、畑を中途半端に残すことになるからこれでよかったのよね。
宿舎棟の方から、団長をはじめとした集団が畑へと向かっている。
先頭が国王陛下の獅子こと我らが近衛団のレオナルド団長。そのうしろには護衛隊の衛士が続き、陛下と男性二人。王太子殿下と第二王子殿下と予定表に書かれていたので、多分そのお二方ね。それに子供たちと、さらに何人もの護衛隊とお供の人たちがついている。
子どもたちは五人いて、楽しそうにわちゃわちゃしながらもどこか品がいい。女の子が一人であとは男の子みたい。予定のところには含まれてなかった人員よね。陛下のお孫さんたちかしら。
あたしはちょっと離れたところでの立哨だったんだけど、一人の子が気付くと次々とみんなこっちを見た。ロックオン。
(「シュカ、狙われてるわよ」)
(『うん!』)
シュカはちょっと前に出て、真っ白なしっぽをファサファサと揺らしている。
うちの神獣、子ども好きよね。
子どもたちはそわそわとこっちを見ながら歩いていき、耐えられなくなったのか陛下のうしろの男の人の腕を引いた。
二番目くらいにちっちゃい子がこっちを指さしている。
陛下や殿下たちもこっちを見、笑ったような雰囲気。そして数瞬後、子どもたちが駆け寄ってきた。
シュカがピョーンと飛び跳ねて、その集団へ向かって行くとキャーと歓声が上がる。
もうそこからは飛び跳ねたり抱っこされたりするシュカと、夢中で遊ぶ子どもたちの楽しそうな姿があった。
そのうしろから付いて来てたのはレオナルド団長と、お供の侍女さんが二人。
「団長、こちら異常ありません!」
敬礼すると、苦笑しながら答礼された。そしてあたしの横に立って立哨している。
「――――あちらはいいんですか?」
「ああ。陛下がこちらの護衛に付くようにおっしゃった。他の衛士もいるしな」
たしかにキール隊長の姿も見えていた。
あちらの団体は畑の方へ行き、魔法ギルドの制服を着た人たちが何か説明しているようだった。
「シュカは子どもに人気だな」
「シュカも子どもが好きみたいです」
「そうか」
一人の子がこっちへ向かって走って来る。
こっちを指さしていた二番目に小さい男の子だ。
「お姉さん! もしかして狐の回復薬作っている人なの?」
えっ! と思ってとっさに答えられずにいると、後から走って来た大きな子がそれに答えてくれた。
「マルリー、白狐様を連れている方が調合師なわけないだろう。すごい獣使いに決まってるじゃないか。――ご令嬢、いとこが大変失礼しました」
小さいのに、もうちゃんと王族なのね。まっすぐな目で見上げる姿が堂々としている。この子が未来の国王陛下かしら。
「いいえ、お気になさらないでください。――――シュカと遊んでいただきありがとうございます」
二人に向かってそう言うと、マルリーと呼ばれていた小さい子が目をきらりとさせた。
「あの子、シュカって名前なの?」
「はい」
「黒いおくつはいてるみたいでかわいいね!」
「わたくしもそう思います」
そう言うとマルリー様はニコーっと笑って、「シュカー!」と呼びながら戻っていった。
大きい子も「失礼します」と言って、駆けていく背中を追いかけた。
「――――しっかりしたお兄ちゃんですね」
「アルディーノ殿下はマルリーサ殿下のいとこにあたる。まだ小さいのに責任感が強い方なんだ」
「そうみたいですね。――――あの、レオさん。もしかして、買い取っていただいていた回復液って……」
そう言いかけてちらりと見上げれば、団長は口元に人差し指を当てていた。
見慣れないお茶目な仕草にドキッとした。けど……そっか、陛下に差し上げている分だけでは足りなかったんだ……。
次からはもっとたくさん差し上げようと、あたしは心の中で誓うのだった。
次話 『申し子、準備中』
 





