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獅子団長、強引になってみる


 あの時――――。

 俺はふいに思い出して、口元を片手で覆った。

 前へ飛び出た小さい背中は言った。


『馬鹿にしないでよ!! 縁談なんてい……』


 縁談なんていらないと、言ってくれるつもりだったのだろうか。

 自分がいるからいらないって意味で受け取るのは、うぬぼれなのだろうな。

 その後、夏至祭に誘った時に、なんのためらいもなく「楽しみにしてます!」と、本当に楽しみなように言われてしまって、苦笑した。


 夏至祭に誘えばいいと最初に言ったのは、幼馴染の領主補佐だ。アルバートも多少はユウリに接しているといえ、本当の意味で申し子というものをわかっていないのだと思う。

 申し子にこの国の常識は通用しないのだ。


 でもまぁ構わない。

 祭りへ行くことを楽しみにしてくれているのは、間違いないのだから。


「――――レオナルド様、改装工事終了しました。ドレスと装飾品も届いております」


 アルバートの報告を聞き、うなずく。

 補佐夫妻がはりきってくれたおかげで、祭りとユウリを迎えられそうだ。


 ちなみにドレスの方は、サイズがわからなかったから金竜宮の裁縫部屋の力を借りた。

 細かいサイズが入ったデザイン画を、王都のドレスメーカーに提供してくれたのだ。できるなら私たちが作りたかったです!! と涙ながらに紹介してくれたのは、多分、王室御用達の裁縫師のところなのだろう。恐ろしいので聞かなかったが。




 当日、部屋へユウリを迎えに行き、一瞬言葉を失った。

 いつも綺麗で可愛いと思っているが、別方向の美しさだ。黒髪と白のドレスが神聖さを醸し出し、芸術品のようだった。


 うしろからアルバートにゴンゴンと肘で小突かれている。

 ――――わかってる! 綺麗だって言えってことだろう! だが、言えるか?! 実家(うち)の侍女たちがずらりと並んでいるし、本当に恐ろしいくらい綺麗なんだぞ?!


「……っ。ユウリ……もう、行けるか?」


「は、はい……」


 仕事をしている時との違いに、胸が大きく鳴る。赤くなった頬を、腕に閉じ込めて誰にも見せたくないと思う。


「レオさん、今日は白なんですね。いつも黒だから新鮮です」


 そうやって無邪気に笑われると、罪悪感を感じるな。


 手を取って歩きながら、夏至祭の話をする。

 一年で一番日の長い夏至の日は、光の神が一番長く共にある日だということ。だから光りを表す白い服を着るということなどを話した。この国ではみんな知っていることを、熱心に聞いている。


「光の神様のお祭りなのに、夜なんですね」


「昔は昼間の祭りだったらしいんだがな。日中は仕事があるし、時代の流れとともに夜の祭りとなったらしいぞ。その代わりに冬至祭は新年祭として昼からの祭りになっているから、ちょうどいいのかもしれないな」


 どこの世界も、時代の流れには逆らえないんですねと、ユウリは笑った。


 祭りの会場ではちょっとした騒ぎになった。

 もちろん、領主様の隣にいらっしゃるのは誰だというものだ。

 みんなこぞってユウリを近くで見ようとし、気さくに言葉を返すのがわかればわれもわれもと話しかけにきた。

 俺たちの前のテーブルには、領民たちが持ってきたワインと料理が山となった。


「……奥様はえらい気さくな方だべ」「まだ奥様じゃないべ、そったら話聞いてないべさ」「したら、早く奥様になってくれるといいさなー」「んだな」「んだ」


(んだな……。本当にきてくれたらいいんだがな)


 ひそひそと聞こえた領民たちの噂話に、俺は心の中で相づちを打った。




 祭りの数日後。

 酒瓶片手にロックデールが恒例の飲みにやってきた。


「夏至祭、お疲れさん」


「ああ、こっちを任せて悪かったな」


「構わんよ。ウィリアムもエクレールもいたしなぁ。――で、どうだったよ?」


 ニヤニヤと聞いてくるから、あったままを話した。

 ただの祭りの見物だと思っているようだと言うと、ロックデールは大笑いした。


「――――サイコーだな! 鈍いにもほどがある!!」


「他の世界から来たんだ。この国のことはわからないのが普通だろう」


「そりゃそうだ。だがな、男と女の関係ってモンは、どの世界でもそうかわらんだろうよ」


「……………………なるほど」


「ユウリというお前が愛した女は、ただ鈍いんだ。だがな、それは男ずれしてないってことでもあるんだろうな」


 そうなのか――? 前からさらりと食事に誘われているのを、そういったことに慣れているのだと思っていたのだが――――。


「恋愛慣れと言った方がいいか? 老若男女問わず態度は変わらんし、男に対しても堂々と意見も言うし、あれは多分、男の兄弟がいたんじゃないかと俺は踏んでる」


 するどい洞察力だ。そうか、そういうこともあるのかもしれない。

 少し世話焼きなところも、男の兄弟がいたと思えばしっくりくる。


「だから、レオ。お前がちゃんと引っ張っていかないと、状況は動かないぞ」


「…………そうかもしれないな」


「こういう時は少し強引なぐらいでいいんだ。嫌がったらやめればいいわけでな?」


「嫌がられたくないんだ」


「それなら、一生独り身だ。そして後からきた強引な男にかっさらわれてしまえ」


 耳が痛い。だが、もっとゆっくりでもいいんじゃないかと思うのだ。

 ユウリだってまだこの国に慣れたと言えるほどじゃないだろう。


「……(あせ)らせたくはないんだがな」


「焦らなきゃならないのはお前だ、レオ」


 まったくもってその通りだった。






 それでは、少しだけ強引になろう。


 俺は昼休憩中のユウリを、外の休憩所で捕まえた。


「――――ユウリ、次の休みいつになる?」


「う……闇曜日と調和日が休みです……」


「調和日は俺も休みなんだが、その、空いていたら街へ行かないか?」


 そう言うと、ユウリの顔はみるみる間に赤くなった。


「あ、空いてます……。楽しみにしてますね……?」


 見上げてくる困ったような照れたような顔。

 それは、以前の屈託なく了承していた時とは違うような気がした。






 次話 『申し子、真実を知る』


目標の 5000pt 到達しました! (ノД`)・゜・。

応援してくださったみなさまのおかげです!

いつもありがとうございます!!

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