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* 後日談 ア・ラ・カルト

短いお話が三本です。三人称・三人称・申し子となっております。


 * * *


 ■□■ ア・ラ・カルト 1 ■□■

 ◎ガヤたちのロースト ハニーソース添え




 ある日の昼前のこと。

 ちょっと早めに昼食をとる人たちが食堂へとやってくる時間は、少し前なら国王陛下の獅子と、黒髪のお嬢さんをよく見かけた時間帯でもあり『食堂で獅子の恋を無言(だったり違ったり)で応援する会』が結成された時間帯でもあった。


 今日はなんだか玄関の方が騒がしく、『食堂で獅子の恋を無言(だったり違ったり)で応援する会』の会員の何人かは食堂へ行く途中に足を止めた。

 近衛団と貴族が揉めているようだった。

 そしてその渦中にいるのは黒髪のお嬢さんその人だった。


 お嬢さんがピンチですよ! 今こそ! 今こそ来ないと! 団長様!


 祈るように心の中で団長を呼びかけている彼らの(かたわら)らを、暴風が通り過ぎた。見慣れた大きな体。待っていたその人――――。


(((団長様!! キターーーーーー!!!!)))


 驚きと歓喜の中、あっという間に狼藉者は蹴倒される。


 やっぱり我らが団長様は、期待を裏切らない!! ヒロインのピンチには必ず駆け付けるのです!! かっこいいですーーーー!!


 雄姿にみなの内心沸き立つ中、貴族の男が獅子を侮辱するような言葉を吐いた。


((((なんと失礼な!! 団長様にはラブラブなお相手がいらっしゃるというのに!!))))


 と、憤ったその瞬間。

『食堂で獅子の恋を無言(だったり違ったり)で応援する会』の面々は息を呑んだ。


 黒髪のお嬢さんが団長様をかばうように! 前に! 出たんですけど!!

 あの頑丈屈強な国王陛下の獅子の前に出ちゃいますか?!

 かばったりかばわれたり、愛なんですか?! 愛なんですね?! 愛しか感じません!!!!


(((((何このかわいい人たち!!!!)))))




 その日の食堂には、萌え燃え尽き魂を抜かれたように呆けた文官さんたちの姿が、あちこちに見られたとかなんだとか。





 * * *


 ■□■ ア・ラ・カルト 2 ■□■

 ◎北方産獅子の赤ワイン煮




 午後のゆっくりとした時間。

 国王と王妃がお茶を飲んでいるところへ、諸々の手続きを済ませた国王陛下の獅子ことレオナルド近衛団団長がティールームへ馳せ参じた。


「来たか、レオナルド。先ほどはおもしろいものを見せてもらった」


「…………その、なんと言いますか…………。謁見の途中に退出いたしましたことをお詫びいたし……」


 レオナルドは足元に(ひざまず)き、赤く染めた顔を伏せている。


 彼は今日の謁見の途中に「失礼いたします!!」と言って大変な勢いで出て行ってしまったのだ。

 今までそんなことは一度もなく、不思議に思った国王がそばにいた者に聞くと、玄関口からの応援要請へ対応したということがわかった。

 レオナルドのただならぬ様子から国王も玄関口へ向かった。貴族とのやっかいな揉め事であれば、自分が出ていった方が早いだろうという判断をしたからだ。


「それは構わぬ。ああいったことがあればすぐに動ける方が望ましいぞ。もし遅れていたら大事な国の宝が損なわれていたかもしれぬ。褒美を取らそう」


「いえっ……! 滅相もないです!」


「まぁ、そう遠慮しなくともよい。そうだ、この度のことでちょうど一つ伯爵領が空くではないか。どうだ?」


「そんなにいくつもいただけません……!」


 国王はハハハと機嫌よく笑った。

 真面目で人柄もよいこの青年をずっと王城に置いておきたいものだが、そろそろ本人も幸せになってよいころだ。


「だが、宝を(まも)るに当たって子爵では少々心許ないではないか。やはり伯爵くらいはないと。のう?」


「まぁ、陛下。いきなりそのようなことを言っては、レオナルドも困ってしまいますわよ」


「――その……陛下。連れていっても、よろしいのですか……?」


 大きな体を縮こませ、顔を赤くする青年を眺めて国王は軽くうなずいた。


「宝自身が居たい場所を決めるであろうよ。余ができることはただ見守ることである」


 国王自らが出向いた玄関先では、大変おもしろいものが見られた。

 この国ではなかなかみない黒髪の令嬢が、小さな体で大きな男をかばうように前に出ていたのだ。

 国王陛下の獅子と恐れられる近衛団団長を守ろうなどと、誰が思うだろうか。

 光の申し子とは少し変わった人物なのか、それともそこには何かの思いがあるのか――――。


 そんな姿を見て、王城になんとしても留めておきたいなどとは思えない。

 幸せになれる場所で、幸せになってほしいと思う。

 きっと、光の申し子が幸せになる国であれば、国はもっと栄えるだろうから。


「――で、どうだ? 現在国領となっている侯爵領でも構わぬぞ?」


「陛下っ! お戯れが過ぎますっ……!」


 戯れでもなんでもないのだが、欲のないことよ――――。

 国王陛下の楽し気な声が、ティールームに響いた。






 * * *


 ■□■ ア・ラ・カルト 3 ■□■


『申し子、甘い予感(白ワインとともに)』




 目の前の席に座るレオナルド団長は、膝にシュカを乗せ時々照れたように笑った。

 あの事件から数日が経った。

 レオナルド団長がお礼だと言って『(こぼ)()亭』へ連れてきてくれたんだけど、そんな笑顔を見せられたらつい目を反らしてしまうじゃない!

 恥ずかしいやら照れくさいやらで、おつまみへのびる手が多くなってしまう。ああ、太るかしら。太るわよね。いけない! でもなんか間が持たないのよ!


 前に女子会をした部屋より少し狭めの個室のテーブルには、ワインやおつまみがずらりと並んでいる。

 夏野菜が多くお目見えしていて色が目にも楽しい。鮎に似た川魚の塩焼きも夏っぽくていいわよね。


 ん? 今、団長がなんかあたしの知らない話をしたわよ。

 あたしはポクラナッツの実をぱくりとくわえたままシュカを見た。


「えっ、シュカは悪ダヌキとローゼリア嬢がいとこって知ってたの?」


『クー。(おなじにおいするの)』


「大きいシュカが教えてくれたんだ。それにアルバートが調べてくれていた。ユウリが怪しいと伝えてくれていたおかげだな。ありがとう」


 笑顔が、眩しいですっ……。

 顔が思わず熱くなるから、冷えた白ワインがついすすんでしまう。


 結局『デスガリオ伯爵家反逆事件』は、領地の没収と悪ダヌキの懲戒免職で幕を閉じた。

 王城で抜刀した割にはかなり軽い量刑だというのが周りの意見だった。抜刀したのが息子の方だったのと、実際に怪我などをした者がいなかったので、そのくらいで済んだらしい。

 もう一人の槍男も警備に居づらくなったのか、自ら退職していった。


「ローゼリア嬢の家はお(とが)めなしだったんですね」


「ああ。伯爵家である本家に脅されて仕方なくという話だったのでな」


 近衛団に対しての業務妨害とかもあったような気がするけど、そのくらいはまぁ大目に見てもいいか。

 来週からマクディ警備隊長が隊長番に戻ってくる。副隊長はワイルド系イケメンのリドが就任することになったらしい。

 なんだかんだあったけど、これでやっと警備の人事は落ち着きそう。


「――――それでだな、ユウリ。その……夏至祭(げしさい)に来ないか?」


「夏至祭、ですか? おまつり?」


「ああ。この国では大きな行事なんだが、一年の折り返しになる夏至の日に神に日ごろのお礼と豊穣祈願する祭りだな。夜に奉納の火を(とも)して舞や歌を奉納するんだ」


「へぇ……夜なんですね。なんか素敵ですね」


「この王城でも大きい祭りをするんだがな。俺は領の方の祭りに出なければならないから、仕事後に帰るんだ。……よかったら、どうだろうか……?」


「はい、行きます! 楽しみにしてます」


 夜祭! 楽しそう! また美味しいものが食べられるのかしら。

 ウキウキと軽く返事をしたけど、仕事絡みじゃないお誘いはこれが初めてだと、この時のあたしは気付かなかった。






◇二章完◇

いつも応援ありがとうございます!!

次章、『第三章 旅立ち編』が最終章となります。

よろしければこの先もう少しお付き合いくださいませ。


2020年がみなさまにとってよい年になりますように!

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